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事の発端と頼まれ事

 始まりはビーズィアナ侯爵の元に二つの報告が上がった事だった。


 一つは、第一王子であるアルス王子の護衛隊が所有する騎獣達の体調不良が続いているというもの。

 もう一つは、第二王子であるイード王子の派閥の者がここ数ヶ月、隣国の貴族と頻繁にやり取りしているというものである。


 国内のあらゆる情報を網羅しているビーズィアナ家に上がってくる報告は多岐に渡る。その中でもこの二つに目をつけた侯爵は更に掘り下げて情報を探っていった。

 

 まず、アルス王子の護衛隊の所有する騎獣達の体調不良が続いているという件に関しては原因不明としか分からなかった。

 最初に体調を崩した騎獣が出たのは今から3ヶ月ほど前。症状としては微熱と食欲不振。王城勤めの騎獣士が風邪だと判断して薬を処方するも、数日経っても快復せず、立て続けに数頭が同じ症状を発症した事から獣医に話がいき診察。それでもやはり風邪という結果であり、薬を変えて様子を見るも発症する個体が増えるばかりで治る様子はない。

 とうとうアルス王子の護衛隊が所有する騎獣達全てが同じ症状にかかってしまった。

 症状自体はそこまで深刻ではないものの、やはりそれなりのダルさがあるようで、騎獣達は動くのを嫌がる様になった。

 このままでは護衛隊の戦力に大きなダメージとなると判断したアルス王子は国王に事の次第を伝えて、自分の護衛隊の所有する騎獣達の総入れ替えを願い出た。


 護衛隊は王子王女が自分達で采配できるが、希少な騎獣に関しては買うのも手放すのも国王の許可が要るそうで、しかも所有している個体数を一月おきに報告しないといけないらしい。

 そうして国王に総入れ替えを願い出たアルス王子だったがそれは国王に却下され、騎獣達の体調を快復させるようにと言われたのだった。


 次に、第二王子であるイード王子の派閥の者がここ数ヶ月、隣国の貴族と頻繁にやり取りしているという件に関しては完全に"黒"と出た。


 この国は近隣諸国とはそれなりの友好関係を保っているので、イード王子か若しくはその派閥の貴族が縁のある隣国の貴族とやり取りをしていても、それだけならそこまで怪しむ事もなかった。だがしかし、その"隣国"というのが王位争いから勃発した内戦真っ只中の国だったのだ。

 三人の王子が民までもを巻き込んで互いに戦う。そんな国の貴族達がのんびりと他の国との親交を深めている。それぞれの王子からこの国に対して味方になってくれという手紙は度々きていたけれど、そのどれにも応えず傍観を決め込んでいたというのに、ここに至ってまさか第二王子の派閥の者がその国の貴族と親密にやり取りしているというではないか。

 国としては早急に企みを暴き、内々に処理したかった。


 そして、この二つの件を調べて行くにつれ、どちらの件にもある一人の人物の名が浮上したのだ。

 それが、サンス・カーランである。


 騎獣達の体調不良の件には、約半年前に変わった騎獣達の餌の生産者として。

 隣国の貴族とのやり取りの件には、隣国の貴族とやり取りしているイード王子の派閥の貴族にここ一年程で複数回騎獣を売っている騎獣士として。


 ビーズィアナ侯爵はこの人物に焦点を当てて調査を進める事にした。

 けれど、イード王子の派閥の貴族が何を思って隣国の貴族とやり取りしているかも調べなければならなかった。

 そこで、ビーズィアナ侯爵であるオーエンとその妻であるシャラナスは二手に別れる事にしたのだ。

 そして、サンス・カーランについての調査をしに来たシャラナスにウィードが捕まり、ルリアも巻き込まれて、今ここに至る。


 ルリアが今回頼まれたのは、サンス・カーランが生産している騎獣達の餌はどのように栽培されているのか、その種類や使っている肥料は何か、彼が貴族に売った騎獣の種類と頭数、その貴族の特定と使用目的について出来るだけ聞き出すというものだ。


「うーん、取り敢えず牧場を見せて貰う事から始めようかな」


 売った騎獣の種類は牧場を見ればその飼育傾向でだいたい分かるだろう。

 種類が分かればその騎獣の特徴から使用目的も絞れる。

 餌については、飼育している騎獣に同じものをあげている可能性が高いので、見てみるに限る。


 そうと決まれば行動だ。とルリアは戻って来たサンスへ牧場をみたいとお願いを口にした。

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