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魔女と騎士とドラクラク

「あら、気がついたのね」


「あなた、は……」


 青みがかった髪にエメラルドグリーンの瞳。

 間違える筈もない。

 彼女は、あの日あの時、ウィードを魔獣の姿に変えた張本人である。


「初めまして、私はこの森に住む魔女、ミーアよ。あなたにかかっていた呪いは解いたわ……と言うより、勝手に解けたと言うべきかしら。まぁ、それをかけた私が言うのも何だけど、良かったわね」


 つらつらと話ながら手に持っていた水差しとコップをサイドテーブルに置くミーア。

 そんな彼女を床に倒れた状態で唖然と見ていたウィードは、自身が何故慌てて立とうとしたのかを思い出し、再び立ち上がろうと動き出した。


「そんな急に動かない方がいいよ。一月近くも四つ足で歩いてたんだから、急に二足歩に戻るのは無理よ」


「……いっ!?」


 ミーアの言葉通り、上手く立ち上がる事が出来なかったウィードは再び床へと沈む。

 それでもまた諦めずに立ち上がろうとするウィードを暫く眺めていたミーアは大きな溜め息と共に杖を取り出しコン、と床を打った。


「五時間だけよ」


「え?」


「あなたが何故そんなに焦っているのかは分からないけど、まぁ、どうしてもと言うのなら五時間だけ動ける様にしてあげる」


「五時間……」


「どうする? 因みに自力でちゃんと二足歩行できる様になるには10日以上かかると思うけど」


「頼む」


 迷う事もなく言ったウィードに呆れた様に息をついたミーアが何やら分からない言葉を唱えて杖をウィードへと向ける。途端、ウィードの体は光に包まれた。

 その光が収まった後にミーアに促されて立ち上がったウィードは目を見張った。

 あれだけ立とうと必死になっても全く言うことを聞いてくれなかった足が嘘の様にしっかりとウィードの体を支えたのだ。


「……すごいな」


「ま、万能ではないけどね。さっきも言ったけれど制限時間つきよ。五時間後、あなたは再び床と仲良くなる事になるわ」


 ミーアの言葉に頷いたウィードは壁に立て掛けてあった自身の剣を手にとる。


「俺の主が仕出かした何らかの非礼の謝罪と今回の礼はまた後日改めてさせてもらう。今は取り敢えず急いでいるので、悪いが一度失礼させていただく」


 スッと綺麗に腰を折ったウィードに一瞬驚いた顔をしたミーアは次の瞬間には快活に笑った。


「真面目だねぇ、騎士さん。動けなくなる前にここに戻っておいで。外の子がここの場所まで案内してくれるから」


「外の子?」


「とっても賢い子だね。あの子を育てた騎獣士は腕がいい」


「まさか……」


 ミーアに促されるまま外へと出たウィードは驚く。

 赤銅色の巨体がそこにはあった。


「ギル!」


 名を呼ばれたギルが不思議そうに首を傾げて寄って来たウィードを見る。


「俺だ、ギル。ウィードだ」


 伸ばされた手の臭いを嗅いで誰だか分かったのか、ギルはその大きな頭をグリグリとウィードの手に押し付けた。


「分かってくれたか。……けどお前、どうしてここに居る? 森の中にはは入れなかっただろう?」


 ギル程に大きな騎獣だと入れないと判断したのはルリアだ。彼女の判断が間違っていたとは思えない。

 そんなウィードの疑問に答えたのはミーアであった。


「あぁ、それはね、この子が君を探してずっと森の上を飛んでるものだから、森の木々に頼んで少しすき間を空けて貰ったんだよ」


「すき間……木に頼んで?」


「そう。この子が降り立てるくらいのすき間をね」


「……そうか」


 当たり前の様に言われた言葉にウィードも思わず頷いてしまう。

 魔女の事など何も知らないウィードにとって、それが彼女らにとって普通の事なのかは定かではないが、少なくとも普通の人間であるウィードの感性から言えば全くもって普通の事ではない。それでも彼女の言葉に深く突っ込んでいる時間的余裕が今のウィードには無かった。


「ギル、すまない。ルリアが拐われた。助けに行きたいんだ。力を貸してくれないか?」


 ウィードの言葉に頷いたギルが体を低くしてウィードに乗るように促す。


「過って君に呪いをかけてしまったお詫びとして、君たちの探し人の所まで案内してあげるよ」


 そう言ったミーアが再び杖を取り出しギルの翼をチョンと叩いた。


「賢いドラクラクの子よ、君のご主人様を頭の中に思い浮かべて名をお呼び。そうすれば、君の翼がその人の所まで案内してくれる」


 ミーアの言葉に一声鳴いたギルが空へと舞い上がる。


「俺達の大切な者を返して貰いに行くぞ、ギル」


 ウィードの言葉に応えたギルの咆哮が空へと響き渡った。

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