王都への帰還
更新遅くなりました!
ごめんなさいっっっ!!
私とカルカス殿下は偽のリゼルの手紙に乗ったことにしてエルテシア王国の王都に向かった。
私を暗殺しようとしたザインも拘束した上で連れていく。
カルカス殿下によれば、まだ完全に使用できるわけではないので王都でもっと詳しく取り調べるとのこと。
そして……。
「ジル、大丈夫?」
「ああ。なんともない」
私と同じ馬車にはジルが乗っていた。
口ではそう言っているが、ジルはどこか辛そうだ。
息が荒いし、額には汗も浮いている。
本来は解けるはずじゃないリゼルの魔法が解けてジルは目を覚ましてしまった。
このままでは竜化が進行してしまうはずだったのだけど……なぜかジルの竜化は治っていた。
鱗に覆われていた左腕も元に戻っている。
「俺の……才能じゃねえかな……」
なんてジルは冗談っぽく言ってたけど、全然安心はできない。
だから本当は安静にしててほしかったんだけど、一人置いていくわけにも行かなかった。
カルカス殿下によれば、
「アリシアがジル王子と一緒に行動していることは王都の人間にももう知られてるはずだ。そうなればアリシアを狙っている誰かがジル王子に手を出す可能性はある」
とのこと。
今のジルじゃ刺客を撃退するのは難しい。
そんなわけでジルの言葉どおり王都までついてきてもらうことにした。
ずっと警戒していたのに襲撃はなかった。
偽の手紙で呼び出したくらいだから、私が王都に着いてからなにかを企んでいるのかもしれない。
とすれば警戒するべきは王都だ。
きっとそこですべてが決まる――。
王都に着いた私たちは王宮の横にある宮廷魔導師団の本部へ向かった。
偽物とはいえ、リゼルの手紙を受け取ってやってきたのだからそれに合った行動を取らないと不自然だものね。
しかし……というか思ったとおりというか、リゼルは不在だった。
部下の魔法使いによれば王宮の牢に連れていかれたという。
「ちなみに誰の命令で? なんの罪の疑いだったのかな?」
カルカス殿下の問いに部下さんは床に片膝をついて深々と頭を下げたまま答える。
うん……本来ならこれくらいの態度が正しいんだよね。
普通に会話してる私が間違っている。
なんかジルやシャルロッテ王女でやたらに気さくな王族に慣らされてしまった上にカルカス殿下も特になにも言わないものだから許されちゃってるけど、ほかの王族だったらそうもいかない。
気をつけないとね。
それはともかく。
「第一王子セウェルス殿下の命令とのことでした。罪状は国家に対する反逆罪だと……」
セウェルスが!?
それにリゼルが反逆罪?
そんなバカな!
「おそらくでっち上げだね。きっと証拠はない。アリシア、君を誘き出すための兄上の策略だよ」
「そのとおりだ、カルカス」
「っ!」
不意に聞こえた声に部屋の入り口を見れば、いつの間にか兵を引き連れたセウェルスが立っていた。
「相変わらず察しが良い。さすが常勝将軍と呼ばれるだけのことはある。だが今回は少し甘かったようだな」
「……どういうことです、兄上?」
「アリシアを奪われたくなかったのなら兵が少なすぎだ。この建物は近衛兵団に囲ませてある。ネズミ一匹逃げ出す隙間はない」
「近衛兵を……!? まさか、兄上! 父上を!」
「なに、少しお休みいただいているだけだ。病気療養というやつだな」
めずらしく焦った声をあげるカルカス殿下に、薄い笑みを浮かべるセウェルス。
「え、なに? どういうこと?」
事態が飲み込めない私にカルカス殿下が説明してくれる。
「近衛兵団は本来、国王のみが動かせる兵なんだ。兄上がそれを動かせるのは国王が病気などで命令を下せないときだけ。でも父上……国王陛下は病気になんかなっていない」
つまり……セウェルスが王位を奪ったということ!?
「兄上……そこまで愚かだったとは」
「黙れ! 聖女の力さえ手に入ればあとはどうとでもなる。おい、彼女を王宮へ連れていけ」
「いやっ……!」
セウェルスに命じられた兵士が私の腕をつかんでくる。
振り払おうとするけど、セウェルスの言葉が私の動きを止めた。
「良いのかアリシア? 私も牢にいる君の友人を手にかけたくはないのだが」
「っ!」
リゼル……!
なんて卑怯な!
私は抵抗しようとした腕を下ろした。
「アリシア!」
「殿下……やめてください」
首を振ってカルカス殿下を止める。
セウェルスは満足そうに笑って言ってくる。
「賢明だな。さあ、聖女殿を丁重にお連れしろ」
兵士に囲まれて私は王宮のセウェルスの私室へ連れてこられた。
兵士たちはすぐに立ち去り、部屋には私とセウェルスの二人きりになる。
婚約者だったときには一度も訪れたことのないセウェルスの部屋。
なぜ私はいまさらこんなところにいるのだろう。
「そう緊張しないで楽にしてくれ」
扉を背にセウェルスはそんなことを言ってくる。
絹のような金色の髪をさらりとかきあげ、インディゴライトみたいな青色の瞳で私を見るその姿は一国の王子にふさわしい優雅さだ。
以前の私ならそれを見ただけで舞い上がってしまったかもしれない。
けれど今はまるで心が動かない。
むしろその瞳の奥に感じる冷たさに寒気を覚える。
セウェルスはそんな私の心情になど気づいていないのか、薄く笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。
「そんなに怯えないでほしい、アリシア。私の間違いだった。やはり聖女の位は君にふさわしい。クリスティナのようなよく深い女に騙された私が悪かった。私の隣に立つのは……やはり君だ、アリシア」
セウェルスの言葉がガランとした部屋に空疎に響く。
まるで心に響かない空っぽの言葉。
私はただただ嫌悪と恐怖で彼から遠ざかる。
「どうして逃げる、アリシア? 聖女になるのは君の夢だっただろう。私を受け入れればその夢が叶う。正式な聖女としてエルテシアの歴史に君の名が永遠に刻まれるんだ。学園でいつも語っていたじゃないか、子供のときから憧れていたと――」
「やめて!」
セウェルスの言葉を遮って私は叫んでいた。
「あなたが……あなたのような人間が、私の夢を語らないで! 私は形だけの聖女になりたいわけじゃない。あなたや、欲にまみれた人たちに利用される、お飾りの聖女になんかなりたくない」
「なにをわけのわからないことを……」
「来ないで!」
さらに私に近づいてきたセウェルスの手を打ち払う。
「あなたにはわからない! 人の夢を平然と踏みにじるようなあなたには――」
「わかる必要はない」
「っ!」
セウェルスが急に素早い動きで私の腕をつかむとそのまま壁に押し付けられた。
思いのほか力が強くて逃げられない。
「君の言うとおりだ。君の心になど興味はない。私は君の聖女の力がほしい。君はただ私の隣でその力を使い、王妃として国民に慕われ、そして私の跡継ぎを産めばいいんだ……友人の命が惜しいならね」
ぐいっとセウェルスの顔が迫ってくる。
人形のように整ったその顔が、私にはひどく醜く歪んだものに見える。
冗談じゃない。
なぜこんな男に。
でもリゼルは……。
そのときだ。
激しい揺れと轟音が私たちを襲った。
その衝撃の大きさに思わず私もセウェルスも床に倒れてしまう。
なに? 地震?
「た、大変です、殿下!」
扉の外から兵士の声がする。
「入れ! 何事だ」
苛立たしげにそう問うセウェルスに、入室した兵士は慌てた様子で告げた。
「王宮内に大量の魔物が出現しました!」




