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聖女の位を奪われたけど、精霊の加護は私に与えられたようです  作者: 三門鉄狼


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揺らぐ王都【SIDEリゼル/クリスティナ】

 クリスティナへの指導の命令は予想通り解除された。


 その後リゼルは溜まっていた宮廷魔導師としての業務をこなし続けた。


 宮仕えというのは面倒なものだ。

 宮廷魔導師としてスカウトされやってきたばかりのころは、下っ端ということで雑務をたくさん押し付けられた。


 数年経って部下ができて、やりたい研究ができるようになるかと思えば、宮廷内のほかの組織との調整やら、王族や貴族からの命令やらが舞い込んでくる。


 このエルテシア王国という組織は歴史が長い分そういったしがらみがたくさんあってひどく重苦しい。リゼルはそう感じていた。


 それでもなんとか溜まっていた業務を片付けたころには二ヶ月以上が過ぎていた。


 一息ついて私室の椅子に座り、今日送られてきた手紙をチェックする。

 大半は貴族からの晩餐の招待や子女の魔法指導の依頼だ。

 全部に応じていてはキリがないので、適当に部下に割り振る。


 そんな中にエルテシア王国の紋章が押された手紙を見つけ、リゼルは急いでそれを開封する。


 それはカルカス第二王子からのものだった。


 二ヶ月前、行方不明になったアリシアを探してほしいと手紙を送った。その返事がようやく届いたのだ。


 カルカス王子からの手紙にはこうあった。


『アリシアは現在ロミア王国にいるらしい』


 続いて彼女がカザハン王国で魔物を退治し聖女と崇められているという噂について記されていた。


「……よかった」


 一気に力が抜けてリゼルは吐息混じりにそうつぶやいた。


 どうやら彼女は無事らしい。

 それだけで一安心だ。


 だが――次の瞬間リゼルは席を立つと私室を飛び出した。

 気を利かせて紅茶を淹れてきた部下が目を丸くする。


「リゼルさん、どちらへ?」


「ロミア王国へ行ってくる」


「ろ、ロミア王国!? 今からですか? 明日の緊急会議はどうするんです?」


「そんなもの私がいなくてもどうとでもなるだろ」


「あ、ちょっと、リゼルさーーんっ!?」



◇◆◇◆◇



「あああああああ! もうっ、なんなの! どうなってるのよ!」


 ガシャン! と叩きつけるように置いたティーカップとソーサーがぶつかって割れてしまう。



「なによこの食器! 不良品なんじゃない? さっさと片付けて!」

「は、はいっ」


 クリスティナは侍女を怒鳴りつけて汚れたテーブルを片付けさせる。


 思い出しただけでイライラする。

 今日の緊急会議はクリスティナにとって人生最大の屈辱だった。



 即位式を済ませた聖女に聖の精霊が宿っていないという歴史上例のない異常事態。

 それを受けて会議が開かれることになった。


 出席者は当事者であるクリスティナとその父エシャート公爵。

 聖女庁のトップである王立学園の学園長と教会の司祭長。

 クリスティナの婚約者であるセウェルス第一王子。

 クリスティナに聖女の力がないと診断した宮廷魔導師のリゼル。

 そしてエルテシア王国の国王。


 国王の面前でクリスティナの処遇を決める会議である。


 その会議の直前クリスティナは宮廷魔導師リゼルの控室を訪れた。

 リゼルに報告の内容を変えさせるためだった。


『覚醒に時間がかかっているだけで、聖女の力は間違いなくクリスティナに宿っている』そう証言させればいい。


 宮廷魔導師とはいえリゼルはたしか平民出身。金を握らせるかエシャート公爵家の後押しをちらつかせれば、味方につけるのは簡単だろう。


 そう考えていたのに、控室にいたのはリゼルではなく、下っ端の新人魔導師だった。


 リゼルは急用ができてロミア王国へ旅立ったという。


「御前会議を放り出して!? なにを考えておりますの!?」


「あ、あの、リゼルさんが置いていった詳細な報告書がありますので、会議は問題ないかと思います」


 なにもわかっていない新人を無視してクリスティナは控室を去った。

 報告書をそのまま読まれたのでは、証言を変えることはできない。

 あの下っ端に報告書と違う内容を疑われないように話すことができるとも思えなかった。

 下手をすればクリスティナが手を回したことがバレてしまう。


 もうこの手は使えなかった。


 しかしクリスティナはまだ楽観していた。


 会議に出席するのはクリスティナを聖女に推していた者たちだ。

 いまさらクリスティナが聖女でないと認めれば自分の立場が危うくなる。


 だから皆クリスティナを擁護してくれるはず。

 クリスティナを聖女に据えたままで今後どうするかを話し合う流れになるはずだと考えていた。


 しかし……会議が始まったとたんセウェルス王子は言い放った。


「クリスティナにはエシャート公爵家の屋敷でしばらく休養してもらうべきだろう」


「え……?」


 こちらをチラリとも見ずにそう告げる婚約者をクリスティナは唖然として見つめるしかない。


「次の聖女候補が見つかるまでは国民への公表はひかえたほうがいい。無用な混乱を招くからな。聖女候補の捜索は教会が行い――」


 父も学園長も司祭長もセウェルスの言葉を否定することなく聞いている。


 クリスティナは悟るしかなかった。

 自分はすでに見限られている。


 この会議はクリスティナが聖女にふさわしいかどうかを判断する場ではなく、次の聖女をどうするかを話し合う場だった。


 クリスティナはただこの騒ぎの原因だから呼ばれたにすぎない。

 彼女にはなんの決定権もないのだ。


 クリスティナは助けを求めるように父を見たが、父はあきらめるように小さく首を横に振っただけだった。


 そのあともクリスティナを無視していろいろなことが話し合われ、国王はそれを承認した。


 クリスティナは次の聖女候補が見つかるまで屋敷での謹慎を言い渡された――。



「おかしい! おかしいわよ! こんなの絶対間違ってる!」


 昼間の会議を思い出し、クリスティナは何度も拳を卓上に打ち付ける。


 なによりもクリスティナをさいなむのは婚約者であるセウェルスの態度だ。

 会議のあと彼女は立ち去ろうとするセウェルスに呼びかけた。


「あ、あの、セウェルス様――」


 しかし彼はクリスティナにチラリと視線を向けただけで、一言も発さずに立ち去っていった。


 あのときのあまりに冷たい目。


 違う。

 あれは、あんなものは、私に向けられるべきものじゃない。

 あれはアリシアのような下賎な女を見る目だ。


 こんなの、こんなの間違っている……。


「あの女だ……」


 クリスティナは呻き声をあげる。


 あの女――アリシアがいたからすべてはおかしくなった。


「そうよ。あの女さえ……アリシアさえいなければ……」


 きっとすべてうまくいくはずだ。


 クリスティナは一人の使用人を呼ぶ。

 彼は人に言えないような汚れ仕事をする裏社会の人間と結びつきがあった。


 父は隠しているつもりのようだったが、彼にときどきそういうことを命じているのをクリスティナは知っていた。


「ちょっと頼みたいことがあるの」


 下賎な者もたまには役に立つ。

 そんなことを考えながらクリスティナは薄暗い笑みを浮かべた。

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