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聖女の位を奪われたけど、精霊の加護は私に与えられたようです  作者: 三門鉄狼


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宮廷魔導師の現在【SIDEリゼル】

「クリスティナの様子はどうだ」


 王宮の議事の間にて、セウェルス第一王子は入り口近くに立つ人物に問う。


 宮廷魔導師団の正装であるローブを身にまとったその青年は、セウェルスと同い歳くらいだろう。


 セウェルスのほかの三人――学園長、エシャート公爵、司祭長もその魔法使いに注目している。


 即位式から一ヶ月経っても聖女としての力が目覚めないクリスティナのために、セウェルスは宮廷魔導師団で天才と称される魔法使いを呼んだ。


 宮廷魔導師団と折り合いの悪い教会の司祭長は渋い顔をしたし、エシャート公爵も乗り気ではなさそうだった。その天才魔法使いが孤児院出身の庶民だったからである。


 しかしセウェルスにしてみれば庶民だろうが貴族だろうがどうでもいい。

 とにかくクリスティナを覚醒させ、自分とともに戦場を回らせ治癒魔法で兵士たちを癒させる。


 そうして戦争で勝ち続けている第二王子に集まっている国民の注目を自分に向けさせなければいけないのだ。


「お前が指導して二週間が経つ。そろそろ成果が出たんじゃないか?」


 期待を込めて問うセウェルスに宮廷魔導師の青年は、南方で発明された視力を矯正する器具――眼鏡を指で押し上げつつ、静かに告げる。


「残念ながら殿下のお言葉には否とお答えせねばなりません。クリスティナ様には聖女としてのお力は宿っておりません」


「なっ……」


 その率直な答えにセウェルスは言葉を失う。


 セウェルスは彼に『クリスティナを指導して聖女として覚醒させろ』と命じた。それがいまだにできていないとはっきり告げることは、自分が無能であると告白するに等しい。


 普通ならごまかしなり言い訳なりを口にしようとするだろう。


 それをためらいもせず、ここまで抜け抜けと言ってのけるとは……。


「はんっ、これだから宮廷魔導師は!」


 司祭長がバカにするように言う。


「口先で理屈を捏ね回すばかりでなんの役にも立たん無能ばかり! お分かりになられたでしょう殿下? 宮廷魔導師というのはこういう輩です。いい機会ですからこのような者どもは宮廷から一掃――」


「恐れながら、司祭長殿」


 この隙に邪魔な政敵を排除しようとする司祭長の言葉を遮って、青年は静かに言い放つ。


「クリスティナ様が覚醒なさらないのは私が無能だからではありません」


「なんだと?」


 怪訝な表情で青年を睨む司祭長。

 学園長もエシャート公爵も、そしてセウェルスも同じように不可解な面持ちで青年を見る。


「どういう意味だ?」


「先ほど申し上げた通りです、殿下。クリスティナ様には聖女としてのお力は『宿っておりません』。宿っていないものを目覚めさせるのは、たとえ伝説の魔法使いにとっても不可能です」


「なんだと……つまりそれは……」


 青年の言葉の意味を理解したのか、エシャート公爵が顔面を蒼白にしてうめき声を上げる。


 セウェルスもようやく自分の勘違いに気づいた。


 セウェルスは青年の言葉を『クリスティナはまだ聖女の力が宿っていない』と解釈した。

 だが聖女の力自体は即位式のときにとっくに宿っているはずのだ。


 それを『宿っていない』と表現したということは、つまり……。


 青年はエシャート公爵の言葉に頷くと、決定的な事実を口にした。


「はい。クリスティナ様はそもそも、聖なる精霊との契約を果たせておられません。そうである以上、どう手を施しても聖女としてのお力が目覚めることはないでしょう」


「そんな……」


 学園長が深々と息を吐き、ぐったりと背もたれに身体を預けた。


「な、な、なんたる不敬!」


 一方司祭長のほうは顔を真っ赤にして青年を怒鳴りつける。


「それは聖女庁に対する侮辱だぞ! 聖女の即位式はエルテシア王国の開国以来代々行われてきた神聖なる儀式! それが無意味と言うか!」


「そんなことは申しておりません。私はただ事実を申し述べています。即位式が有効かどうかは教会の方々がお考えになることでは?」


「貴様ぁ!」


「黙れ!」


 激昂する司祭長を遮ってセウェルスは声を荒らげた。


 教会と宮廷魔導師団の確執など今はどうでもいい。

 それよりも今はクリスティナに聖女の力がないという事実が問題だった。


「もう良い、下がれ」


「失礼いたします」


 青年は頭を下げ退室していった。




 部屋を出た宮廷魔導師――リゼルは小さくため息をついた。


 さすがに突っかかりすぎただろうか。

 だが、普段は感情を表に出すことなく淡々と仕事をこなす自分がそうしたくなる程度には、リゼルは怒りを覚えていた。


 表立って批難できないのが宮仕えの辛いところだが。



 リゼルにセウェルス第一王子から、クリスティナの指導をしろとの命令が下されたのが二週間前。

 そのとき初めてリゼルは聖女にまつわる騒動を知った。


 聖女に選出された庶民の娘の不正が発覚し、即位式当日にクリスティナ・エシャート公爵令嬢が聖女になったと。


 そのころリゼルは魔物が出現した地域の調査に赴いていたためなにも知らなかった。

 王都に戻ってきてからも、そんな噂話は耳にしたが、研究に没頭していたので適当に聞き流していた。


 王子からの命令を受けて初めて魔導師団の団長から詳しい事情を聞き、そこで初めて不正を働いたという娘の名前がアリシアだと知った。


 昔孤児院で一緒だった少女と同じ名前だ。


 偶然だと思った。

 だがあの少女はたしか絵本に出てくる聖女に憧れていたはず……。


 リゼルはクリスティナを指導するかたわら、アリシアについて調べてみた。

 そして彼女が、自分と同じ孤児院出身だとわかった。


 彼女が不正を?

 リゼルはアリシアのまっすぐな笑顔を思い出す。


 あの少女がそんなことをするだろうか。

 それともあまりにも聖女への憧れが強すぎて手を染めてしまったのか……。


 しかしそれもあり得ないとわかる。

 魔法学園でのアリシアは努力家で成績もトップだったらしい。

 それも二位のクリスティナに圧倒的な差をつけてだ。


 そのクリスティナの成績もエシャート公爵令嬢ということでさんざん後押しされた結果のようだ。


 そして先日、クリスティナの魔力の精査が終わり、彼女に聖なる精霊が宿っていないことがはっきりした。


 こうなればもうリゼルにとって事実は明らかだった。


 アリシアは不正などしていない。

 不正を行い聖女の位を不当に手に入れたのはクリスティナのほうだ。


 しかしだとしたら――精霊はどこに消えたのか?


 歴代の聖女と即位式にて契約を交わす聖なる精霊。

 儀式を行ったにもかかわらずクリスティナにはその精霊が宿っていなかった。


 ここからはリゼルの推測だ。


 精霊は即位式より前に契約するべき聖女を選んでいたのではないだろうか。


 精霊の意図などリゼルに推しはかる術はないが、即位式も人間が勝手に作り上げた約束事にすぎない。精霊がそれに縛られる理由などない。


 精霊は――本来聖女となるべきだったアリシアに宿ったのではないか。


 アリシアは行方不明だという。


 即位式の日、教会から追い出されたあとどこへ行ったのか誰も知らない。


 だが――。


 リゼルは孤児院にいたころの彼女の笑顔を思い出す。


『聖女になりたい』と夢を語ったまっすぐな笑顔を。


「絶対に見つけ出すよ、アリシア」


 リゼルはそう呟く。


 とはいえ勝手に動き回ることは彼にはできない。

 クリスティナ指導の命令はすぐに解除されるだろうが、ほかにも宮廷魔導師としてやらなければならない業務は溜まっている。


 本当に宮仕えというのは辛いものだ。


 だが、おかげで使える武器もある。

 人脈という武器だ。


 リゼルは頼れる相手に送る手紙を書くべく、自室へ急いだ。

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