王子のその後【SIDEセウェルス】
「いったいどうなっている!?」
セウェルスは拳をテーブルに叩きつけた。
どん!という鈍い音が響き、彼の周りに集う者たちが身をすくませる。
「もう一ヶ月も経った! なぜクリスティナは聖女として覚醒しない? 記録では、これまでで一番遅い聖女でも一ヶ月もあれば治癒魔法が使えるようになっていたんだろう!?」
じろり、と目を向けられた魔法学園の学園長が額の汗を拭きながら答える。
「記録の上での最長はたしかに一ヶ月となっております。ですが、一ヶ月以内に覚醒すると決まっているわけでもありませんので……」
「エシャート公爵!」
セウェルスは学園長を無視するように、その隣の男に目を向けた。
聖女となったクリスティナの父で、この国で王家に次ぐ発言権を有する大貴族だ。
「はっ……」
「まさかとは思うが、そなたの娘は傷物ではあるまいな? だとすれば彼女は聖女に相応しくない身ということになる」
「そんな……! とんでもございません!」
蒼白な顔になるエシャート公爵。
妙な言いがかりをつけられてはたまらないと必死で否定する。
「お待ちください、殿下。それはあくまで俗信でございます。聖女の即位式を行えば、どんな娘でも聖なる精霊の祝福を受けるはずなのです」
静かにそう告げるのは司祭長だ。
この場にいる四人のうち、セウェルス王子を除く三人が聖女庁の重鎮である。
そして、一度はアリシアに決まった次期聖女の座を強引にクリスティナに変更させた首謀者でもあった。
エシャート公爵は国政への発言権をさらに増すために。
学園長は公爵からの寄付金目当てに。
司祭長は公爵の後押しで出世するために。
私利私欲のために聖女選出の結果をねじ曲げたのだった。
しかしセウェルスにとってそんなことはどうでもよかった。
彼にとっては聖女がアリシアになろうがクリスティナになろうがどっちでもいい。
彼の計画どおり治癒魔法を使って人々を癒してまわるなら、庶民だろうが大貴族の娘だろうが構わない。
(まあ、貧乏くさい孤児よりは、公爵令嬢のほうが隣に置くのにはマシだが……)
しかし問題はそんなことではない。
「この間にもカルカスのやつは各地で戦功をたてて民の人気を集めている。猶予はないのだ……」
カルカスはセウェルスの弟――第二王子である。
セウェルスの二歳下だが、魔法学園には通わず兵を引き連れて戦地を点々としている。
これまで負け知らずで、民からは常勝将軍などと呼ばれもてはやされている。
(冗談じゃない。それはエルテシアの軍がもともと強いからだ。やつに軍師の才能があるわけではない……!)
もちろんカルカスがどれだけ人気を得たところで、王位継承権はセウェルスから揺るがない。
しかしカルカスにつくほうが得だと判断した馬鹿な貴族が無謀な計画を立てないとは限らない。
事実、そのようにして失脚させられた王族も歴史上少なくはないのだ。
それを防ぐため、セウェルスは弟がいる戦地に聖女を連れていき、傷ついた兵士や民を回復させてまわる計画を立てていた。
セウェルス自身も魔法で戦いに参加してやってもいい。
そうすれば民や兵に次代の国王夫妻の活躍を印象付けることができる。
そのはずだったのに――このままではその計画がいつまで経っても始められない。
「どうするのだ! なにか手はないのか!」
声を荒らげるセウェルスに、気まずそうに目を逸らす三人。
その中で、学園長がおずおずと発言した。
「殿下、いかがでしょう。宮廷魔導師団に一人、天才的な魔法使いがいると聞いております。その者にクリスティナ嬢を指導してもらうというのは」
その人物についてはセウェルスも聞き覚えがあった。
若いながら凄まじい知識量で、古参の団員も太刀打ちできないほどだとか。
その者なら、クリスティナがなぜ聖女として覚醒しないのか、その原因を突き止められるかもしれない。
司祭長は渋い顔をしている。
昔から教会と宮廷魔導師団は折り合いが悪いのだ。
しかしそんなくだらないことを気にしている場合ではない。
セウェルスは告げた。
「その魔法使いを連れてこい。なんとしてもクリスティナを覚醒させるんだ」
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