パートナー
崖崩れの現場に到着した。
私は馬車から飛び降りるとそちらに駆け寄った。
馬をつないだスティーブさんが後から追いかけてくる。
先に現場に到着して指揮をとっていたガリアードさんが私の姿を見て目を見開く。
それからスティーブさんを鋭い目つきで睨んだ。
「おい」
「いや、だって、仕方ないじゃないですかぁ!」
睨まれたスティーブさんは震え上がって泣きそうな声をあげる。
たしかに巨漢のガリアードさんはそれくらい怖い。
私はスティーブさんをかばうようにガリアードさんの前に立って言った。
「私が無理やり連れてこさせたんです。叱らないであげてください」
「……まったく。殿下がおっしゃっていたとおりの人だな、あんたは」
……ジル、私のことをどんなふうに言ってたの?
気になったけど、今はそれより崖崩れとジルのことだ。
私はガリアードさんに問いかける。
「見てのとおり殿下のおられる場所までの道が崖崩れで塞がっている。兵士たちに掘らせているが、どうしても時間がかかるな。皆、体力が保たないから交代で作業せざるをえないし……」
「体力が保てば作業は早く進むんですね? でしたら、私が疲労回復の魔法をかけます」
「それは助かるが……そんなことできるのか?」
「大丈夫です!」
私は崖崩れの現場のほうへ走る。
道を塞ぐ土をどける作業をしている場所の脇に、地面に座って休憩している兵士たちがいた。
突然現れた私に、不思議そうな顔を向けてくるみんな。
私は気にせず、精霊のルーに呼びかける。
「お願い、ルー」
『オッケー。みんなの疲れをとればいいんだねー』
私が唱えた術式をルーが展開させ、あたりに魔法の効果を浸透させる。
それはまばゆい白光となって、周囲に広がっていく。
「おお、疲れが取れたぞ!」
「交代だ! 一気に掘り進めてやる!」
回復した兵士が作業を再開する。
代わりに休憩に入った兵士に、私は引き続き魔法をかける。
休憩時間が短くなって作業の速度が一気に上がった。
「すごいな……こんな魔法も使えたのか」
正確には『使えるようになった』のだ。
砦に来たころは術式は知っていたけど使うことはできなかった。
魔法理論を人に教えたり、兵士のみんなの治療で実践している間に、使える魔法が増えているのだった。
道を塞ぐ土はどんどん避けられていく。
これならすぐにでも通り抜ける幅ができそうだ。
そう思っていたところに……。
「ウォオオオオン!」
遠吠えの声が耳に響いた。
それも一体ではない。
連鎖して、何頭も何頭も、大量の獣が群れているような声が聞こえてくる。
それは、道を塞ぐ土砂の向こう――ジルがいるはずの場所からのように思えた。
「今のは!?」
「……普通の狼かもしれんが、魔物の可能性が高いな」
「そんな……!」
ジルは大丈夫なの?
魔物と戦う体力なんて残ってないんじゃない?
不安で押しつぶされそうになっているところに、兵士の声が聞こえた。
「道が開きました! 一人ずつですが通れます!」
私は待ちきれず駆け出した。
兵士の脇をすり抜け、崖崩れの向こう側へ出る。
「ジル!」
「アリシア!?」
そこにはジルと数人の兵士がいた。
全員泥だけだ。
雨に打たれたようで濡れていて、疲労の色も濃い。
そして彼らを大量の魔物が取り囲んでいた。
学園から砦へ向かう私たちを襲った狼のような魔物と同じ外見だ。
それが数十体はいる。
「グルルルルル……!」
魔物のなかの数頭が私に気づいて向きを変える。
漆黒の巨体がこちらに迫ってきた。
「アリシア! くそ……魔力が残っていれば……!」
ジルが悔しげにうめく。
魔力がなくて戦えないということは、魔力があれば大丈夫ということだ。
それなら問題ない!
「ルー、魔力回復魔法、いくよ」
『りょーかいー』
術式発動だ。
私と、そしてジルたちを白光が包み込む。
「これは……!?」
「魔力が回復していく……」
続けて疲労回復魔法も発動させた。
ジルたちの顔色が生気を取り戻す。
魔物は瘴気から生まれる存在なので、聖魔法の効果を受けることはできない。
むしろ、なんだか嫌なものと感じるようで、それを発動させた私に怒りを覚えているっぽい。
「ガルルルルルル……!」
さっきまでジルたちを取り囲んでいたやつまで、私のほうに向き直って迫ってきた。
ちょっと!?
一頭が飛びかかってくる。
しかし――
――ジルの剣から放たれた炎が魔物を消し飛ばした。
すごい威力だ。
驚いている私に、ジルは言ってくる。
「成長してるのはお前だけじゃないんだぜ」
さらに数頭の魔物を炎魔法で消し飛ばした。
「やれ」
「「「はっ!」」」
ジルの命令に兵士のみんなも攻撃を加える。
回復した彼らのおかげで、魔物たちはあっという間に消滅させられた。
よかった……。
……あれ?
ホッとしたら急に力が抜けて……。
…………。
……。
目が覚めると、馬車の中にいた。
スティーブさんに乗せてもらった馬車ではなく、砦に来るときに乗った屋根付きの馬車だ。
「! 魔物は!?」
「もう全部討伐した。崖崩れで塞がった道も復旧できたし、問題は解決だ」
向かいに座るジルが言ってくる。
よかった……と思っているとジルは怒ったような顔になった。
「まったく、なんであんな無茶をしたんだ!? 下手をしたら死んでたんだぞ!」
「でもそうしなきゃジルたちが危なかったでしょ?」
私は笑って、固めた決意を口にする。
「ジルはこれまでどおりにしろって言ったでしょ? だからそうするよ。学園にいたときと同じ。協力が必要なときには協力するし、助けたいときには無茶だってする。だからジルも……私を置いていったりしないで」
その言葉にジルは一瞬ぽかんとした顔をしてたけど。
すぐに苦笑して、髪をかきあげた。
「ったく、避けてたのはお互い様だったてわけか」
「そういうことね」
ジルはガシガシと髪をかき回してから、真っ直ぐに私を見て言った。
「悪かったよ。これからは、協力してほしいときには声をかける。置いていったりしない。対等に扱わせてもらうぜ、パートナーとしてな」
「ええ……よろしくね」
なんだろう?
パートナーという言葉に胸がどきんと跳ねてしまったけど……。
とりあえずこれで問題解決かな。
今日は夜にもう一回更新予定です!




