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千年地獄の呪われ王  作者: 第八のコジカ
第1章 「風の宿命」
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act.37.5 「笑劇的寸劇、再び!! どうしてもこの二人が活躍するとロクなことにならない」


「アイツら……!! 」


 二人の姿を目にし、ジュウベエは思わず、腹の底から笑いが込み上げてくるのを感じた。


「随分とオイシイとこで、出てくるじゃねぇかよ、お前らぁっ!! ……おっと!?」


 魔虫鞭の乱打を躱しつつ、ジュウベエは風にのって宙に舞い上がる。空を駆け、鋭い鞭の打撃(スパイク)を刀でいなしながら――


「いいねぇ!! 助かるぜ、キィザ!! スケクロー!! 」


 二人に向かって笑い声を弾けさせながら、ジュウベエはありったけの声で叫んだ。


 魔虫鞭にジュウベエを追わせながら、仮面の女もその声に釣られるように、思い掛けない反撃をよこした者を確認しようと、ジュウベエの視線の先を追う。


 ――そこに。

 

 今しがた、シンザとリノの危機を救った二人。ジュウベエの幼馴染。愛すべきバカコンビ。


 キィザとスケクローの姿があった。


 二人は先の「救いの一撃」を放った姿勢のまま、大仰なポーズをキメ、ジュウベエに向かい「グッ」と親指を突き出していた。


 その二人の姿を見て、ジュウベエは更に笑い声を上げ、仮面の女は「カリッ!! 」と歯を噛みしめる音を鳴らすのであった。



+++++++++++++++++++++++


 ――巨大魔虫が召喚される少し前。


 キィザとスケクローは、岩陰に隠れるハクトの元にたどり着いていた。


 身を潜めながらも、心配そうに闘いの成り行きを見詰めるハクト。その胸には、先ほど組み上げた強化術式陣が、最後の「鍵言葉」をはめ込まれる寸前の状態で保持され、青く輝いている。


 二人の接近に気付かぬハクト。後ろから、驚かさないようにと、そっとキィザが声を掛ける。


「ハクトちゃん。……ハクトちゃん!! 」


「えっ!? あっ!? 」


 呼び掛けに反応し、振り返るハクト。


「やっほ。元気? こんな時だけど、やっぱ尊いね」


「何言ってんの、スケ」


 目を見開き、ホッとしたような、困惑したような表情でハクトは応えた。


「……デブガリさんっ!! 」


「かはっ!? 」


「ぶひぃっ!!」


 ハクトの呼称に、思わず、それぞれ別種の血反吐を吐きながら、その場で崩れ落ちるキィザとスケクロー。


「だ、大丈夫? デブガリさん? 」


 心配そうに、そして悪気など全くなく、更なる追撃を口にするハクト。ダメージを重ねられながらも、先に起き上がったキィザが、砂を払いながらハクトに懇願する。


「お、おう。平気平気。でもハクトちゃん」


「なに? デブガリの、ガリさん」


「おおおう。……出来れば、俺らのことは、キィザとスケクローって呼んでくれるかな? 」


「え? でも兄さまが、二人を呼ぶ時はそれでいいって……」


「あの野郎!! ……ともかく、頼むよ。ちゃんと名前あるんだから。毎回、心を抉られる方の身にもなって欲しい」


「うん? ……うん。出来るだけ、頑張ってみるね!! 」


「頑張らないと出来ないことじゃぁ、ないよ?なぁ、スケ……お? どした? 」


 見ればスケクローは、いまだ地面に突っ伏したまま、柔らかな豚の角煮が揺れるように、その身の贅肉を震えさせていた。


「お、おい? 大丈夫か? 」


 心配そうに、キィザがスケクローを抱き起そうかと手を伸ばした時、突然、弾けるように立ち上がってスケクローはガッツポーズを決めた。


「ブヒィィィッ!! いただきましたぁああ!! 」


「なにっ!? 怖いよ!! 」


 両手の指をワキワキと動かしながら、興奮したようにスケクローは早口にまくしたてる。


「輝く笑顔に、抜身の言葉!! なんというイノセントな殺傷力。さすがはサキカゼ一の美少女。さすがはハクトちゃん。さすが俺のヨメッ!! 」


 きぃひゃははははは!と、仮面女の金属的な笑い声もかくや、とばかりに不気味に笑うスケクロー。


 そんなスケクローの姿を見て、反射的に顔を引きつらせ、ハクトは怯えて叫んだ。


「やだっ!! デブ、キモイッ!! 」


 通常人なら立ち直れない「会心の一言」


 しかし、どうやらこの一言さえも、それがハクトの口から出たものである以上は、スケクローにとってご褒美となるらしく、さらに甲高い声で「プギィイイイイッ」と歓喜の鳴き声をあげるのであった。


「いい加減、うるさいよ!! お前はっ!! 」


 ――ビシィッ!!


 肉を打つ、鈍い音。


 鋭いツッコミと同時に、キィザは因縁の「ローキック」を、スケクローの左太腿に向かって放っていた。


 だがしかし!!


 萌ブタの鳴き声を上げながらも、この流れを読んでいたスケクローは、自らも同時に、キィザの左太腿目掛けてローを打ち込んでいたのであった。


「「くぅっ!!」」


 ――相討ち。


 二人は、ゆっくりと、互いの太腿に打ち付けた蹴り足を下ろしていった。そして短く笑った後、おもむろにガッシと手を握り合った。


「やるな。ス・ケ・ク・ロー」


「そっちこそ。いい蹴りだったよ。キ・ィ・ザ」


 健闘を讃え合いながら、妙な強調の仕方で互いの名前を何度も呼び合った。


「…………」


 ハクトはただ、この一連のやりとりを、すぐ側で怯えながら眺めるしか出来なかった。


 ゆっくりと、そんなハクトに満面の笑顔を向ける二人のコメディアン。


「ひっ……!! 」


 ハクトの口から怯えの声が漏れ出るのも無理からぬことであった。


「「っていうことで」」


「……ええ? 」


「俺、キィザ!! 」


「オイラ、スケクロー!! 」


「「名前だけは覚えてねっ!! 」」


 腰に手を当て、グッと膝を曲げて左右に倒れ込むような姿勢でポーズをきめる二人。


 そう。全ては、この一言のための茶番であった。


 ハクトの瞳から、一瞬で輝きが失われる。完全に死んだ魚のような目で、彼女は呟いた。


「……デブガリ。マジコワイ。マジキモイ」


 すぐ三十メートルほど向こうで、ジュウベエが、シンザが、リノが命懸けで必死に闘っていた。


 そうして、フリダシに戻る!!


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