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千年地獄の呪われ王  作者: 第八のコジカ
第1章 「風の宿命」
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act.36 「動的膠着状態」


 ―― まさに月夜を駆ける一羽の鳥が如く!!

 

 ジュウベエは風の加護の力を最大限に使い、縦横無尽に繰り出される魔虫鞭の攻撃をかわし続けていた。


「でもって、()けるばっかりじゃ……なあっ!! 」


 無軌道に宙を舞いながら、繰り出される攻撃の僅かな間隙を突いてジュウベエも斬撃を返す。


 だが、何度やっても一撃一撃の威力が足りず、斬撃は女の元へたどり着く前に掻き消されてしまう。


 「チッ!! こんなんじゃ何度やっても届きゃしねえ。……おあっ!? 」


 手近な岩の上に着地した瞬間を狙って、魔虫鞭が三本同時に別方向から飛んでくる。すんでのところで、再び宙へと飛び上がり(かわ)すジュウベエ。


 その足元で、まるで豆腐でも叩き潰すような軽さで岩が粉々に砕け散った。


 「なんちゅう威力。……人を挽き肉にでもするつ、も、り、かよっ!! 」


 回転しながら両手でしっかり刀を握り、怒り任せに横薙ぎの反撃を繰り出す。


 力のこもったその一撃は、途中で止めようとした魔虫鞭の一本を弾き飛ばした。


「む。そのまま、いけっ!!」


 だが、続けざまに割って入った二本目、三本目にみるみる威力を削がれ、やはり女の元へ届く前に消されてしまうのであった。


「ああーーっ!! もぉーー!!オイ、コラッ!! クソッ!! バカヤロッ!! 鬱陶しいんだよ、このニョロニョロ!! 」


 またすぐさま飛んでくる魔虫鞭に追いまわされながら、ジュウベエは眼下の女に向かって悪態を喚き散らした。


(鬱陶しい。それはコチラの台詞だ…… )


 地上から、宙で身軽に動くジュウベエを見上げつつ、仮面の女は、ジュウベエの悪態に心の中で反駁(はんばく)する。

  

(ここまで、この男が風を使えるとは……全く鬱陶しい)


 女は、若干の苛立ちを覚え始めていた。


 二人が闘い始めてしばらく経つ。


 互いに絶えず攻撃を繰り出し続けていたが、これといったダメージを加えられない。かわりに、自身の被ダメージもない。


 いまや事態は完全に「動的膠着状態」となっていた。


 (こうなると、体力と精神力の削り合いになるが…… )


 その点において、相手がこの若い男だと、どうにも始末が悪そうに思えてくる。


 若さゆえの体力は言うに及ばず。加えて、先のシンザと違い、どうやらこのジュウベエという男は、無尽蔵に「風」を操れるらしい。


 なおかつ精神力は――


「ヒャッフウーー!! ここまでおいでーーってかぁ!? 」


 空中で身を踊らせながら、ジュウベエが声をあげる。


 まともに喰らえば、骨ごと砕ける魔虫鞭の打撃(スパイク)をスレスレで躱しながら、まるでそのスリルを楽しんでいるかのような表情。


(削るにしても、随分と図太い神経らしい)


 どこにそんな、余裕を感じる心があるのか。それとも、あえての挑発か。

 

 叫ぶだけに飽き足らず、ジュウベエは魔虫鞭を躱しながら、女に向かって中指を立てたり、尻を叩いて見せたりしているのであった。


(まるで調子にのった猿…… )


 勿論、それ自体は大して効果的な挑発ではない。だが、正直なところ仮面の女はこの「状況」に()()()()()()()のだ。


 なぜなら、今の女の姿は「本気モード」であり、これと互角に渡り合えるものなど、サキカゼに居ると考えていなかったからである。


 加えて、影から魔虫を召喚する魔力もそろそろ残り少なくなってきているのもある。


(これ以上、あのお猿さんが調子に乗る前に何か手を……ん? )


 ――ふと。仮面の女はある違和感に気付いた。


(……なぜ? 最初はもっと大きく動いていたのに…… )


 攻撃を繰り返しながら、ジュウベエの動きを改めて注意深く観察する。


 どういうわけか、ジュウベエは()()()()()()()()()()()()()()()()()魔虫鞭を躱していた。

 

 逃げる範囲が狭まれば、当然攻撃も密集してくる道理である。 

 事実、最初に空を広く使っていた頃と比べて、今は魔虫鞭を躱すのに精一杯という風で、反撃も飛ばしてこない。


(何かを狙っている? ……いや、これは私の注意を逸らさないために、か。となれば…… )


 女は、仮面の下でほくそ笑み、一計を案じた。


 それと分からぬように、少しだけ魔虫鞭の速度を落とし、()()()()()()()()()()()()()()()()()の余裕を与えたのである。


 これにジュウベエは、まんまとかかってしまう。


 ほんの一瞬だが、連撃の合間に、チラリと()()()()()視線を飛ばしたのだった。


(なるほど。そういうことか…… )


 女はそのジュウベエの「視線」だけで、全てを悟った。そしてこみ上げてくる嗤いを抑えられずに身体を小刻みに揺らした。


「ん!? なんだぁ……!? 」


 唐突に、攻撃が止む。

 女が全ての魔虫鞭の動きを止めたのである。


 ジュウベエは地上に降り立ち、すぐさま女に刀を差し向けて、がなる。


「なんだ、なんだぁ? もうお終いか? 観念したか? なら、今度はこっちの番……うおっ!? 」 


 ジュウベエが言い終わらぬ内に、女の足元の影が波打ち、そこから一体の巨大な魔虫が召喚される。


「ケッ!! 性懲りもなく、また虫か。おーおー……このデッカイ奴は、さっき色々と世話になったのと同じのか。今度は速攻でバラバラにしてやるからな!! 」


 言うが早いか、ジュウベエが得意の竜巻を放とうと刀を構えたところに、再び魔虫鞭の攻撃が飛んでくる。


 その攻撃を躱し、刀で打ち払うジュウベエ。


「クソッ!! この隙に攻撃させようって……ことかよ!! 」


 仮面の女が聞こえよがしな嗤い声をあげ、巨大魔虫に命じる。


「おいき。……今度こそ、()()()を殺しなさい」


「なっ!? 」


 巨大魔虫は、くるりと180度方向転換し、女の背後の方角へと向かって歩きだした。


「テメェ!! 待て!! 」


 即座に魔虫を追おうとした、ジュウベエの動きを封じるように、魔虫鞭の連撃を繰り出す女。


「……どこ行くの? アナタの相手は私でしょう? 」


「この野郎……!! 」


 攻撃を躱して刀を構え直し、女を睨むジュウベエ。女は両手を広げて見せた。通せんぼ、の、ポーズである。


 スッと冷たい汗がジュウベエの頬を伝う。


 嗤いに肩を上下させる仮面の女。


 その背後。

 魔虫の向かう先。


 そこにはシンザが。

 そして、シンザを必死に治療しているリノがいるのだった。


 今の二人に、あの巨大魔虫をどうにかする力は、無い。

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