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千年地獄の呪われ王  作者: 第八のコジカ
第1章 「風の宿命」
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act.35.5 「笑劇的寸劇!! 戻ってきた二人組」

 キィザとスケクローは、目の前で繰り広げられる光景に唖然としていた。



「ちと、失礼」



 言うが早いか、スケクローの左頬を力任せに抓り上げるキィザ。



「痛い。痛い!! ちょっ⁉ いたいいたい、イタタタタタタタタタタタターー!! 」



 キィザの手を掴み、必死に振りほどこうともがくスケクロー。


 彼のふくよかな頬肉は、抓み上げるのにとても適した柔らかさらしく、加えてバッチリ爪まで喰い込ませてあるキィザの指は、そう簡単には振りほどけないのであった。



 ―― そんな二人の視線の先。


 

 約五十メートルほど前方で、ジュウベエが仮面の女との激しい闘いを繰り広げていた。


 その傍らにはシンザとリノの姿が。そしてその更に手前の岩陰には、何やら強い光を放つ術式陣を展開させ、闘いを見守るハクトの姿も見える。


 

 今宵、次から次へと起こる信じられない出来事に、ただただ困惑しきりの二人。


 だが、ここにきて、どうやらジュウベエが闘う相手が「ラスボスらしい」ということだけは理解できた。


 目にする状況のいちいちが、そのことを指し示していたからである。


 

 ―― ところでこの二人。なぜ、いまここに立っているか?



 飛ぶジュウベエに置いていかれてからこっち、キィザとスケクローの二人は、他の仲間と共に魔虫を必死に斬り払いながら、あっちへ逃げ、またこっちで闘いしながら、ついには仲間たちのいる「森」へとたどり着いた。


  だがしかし。そこでいつまで待っても、ジュウベエが、肝心の頭領一家が、誰も逃げてこない。


 皆の不安が「最悪の結末」を予想するに至る直前。キィザとスケクローは互いに顔を見合わせ頷き合い、様子を見に戻る役目を買って出た。



 「皆に比べて二人はほとんど怪我もなく、それなりに力も残っている事」


 「熟達・手練れの先輩方は残って守りを固め、いざという時に備えてもらう必要がある事」


 そのことを簡潔に主張し、誰も異を唱えないのを見て、二人はすぐさま駆け出した。



 そうして息せき切らせながら、駆け戻ってきて目にした最終局面。  


 ジュウベエはじめ、頭領一家が皆生きているのを確認し、ホッとしたのも束の間。

目の前で、見たことも聴いたこともない化け物が暴れまわっている姿に、思わず棒立ちになる二人なのであった。


 キィザは目の前の光景を「夢ではないのかしら? 」と思った。だから、頬を抓り上げた。自分の、ではなく、隣のスケクローの、だが。



「痛い痛い!! ちょっ、マジ痛いからぁっ!! 」



 その手を掴み、必死にもがくスケクロー。その様子を見て、キィザは今更ながら当たり前のことを口にする。



「あ。やっぱり夢じゃないんだ」


「夢じゃ、ないない。あと、痛い。抓るなら自分のほっぺにして」



 キィザの手を振り払い、赤くなった頬をさすりながら、スケクローが至極真っ当な訴えを口にする。


 すると「ああ、ごめんごめん。俺、痛いの嫌いだからさ」などと、雑な作り笑いでその訴えを受け流すキィザ。


 温厚なスケクローだが、さすがにイラッっとするのを抑えきれず、小さく舌打ちをしてキィザを睨んだ。


 だがまるでそんなもの、見えない聴こえないといった風な顔をしたキィザ(意識的に無視した不自然さは、すぐさまスケクローにバレているのだが)は、改めて目の前の光景に向き直り、言葉を続けた。 

 


「しっかし、笑えるくらい悪夢的な絵面だねぇ。なにあれ? 触手? 触手なの? 触手パーリーなの? アイツ、一体何と闘ってんの? 」


「……さあねぇ。いつだってジュウベエは俺たちの想像の斜め上いっちゃうから」


「でも今回のコレは……斜め上、からの~~ムーンソルト!! って感じだよなぁ」


「ムーンサルト。ああーー、たーーしかにねーー」



 キィザの言葉に適当な相槌を返しながら、スケクローは軽く身体を揺すって、キィザの方へ向き直る。


 その視線に気づき、口角をキュッと上げながら「ん? 」という表情で、スケクローを見返すキィザ。

次の瞬間、スケクローは素早く腰を落とした。



 ―― スパン!!



 鋭く乾いた音と共に、キィザの右足の裏モモに、スケクローの左ローキックが炸裂する。



「いっったぁ!! ……なに⁉ 」


「お返し。さっきの」


「えぇ!? ああ……コレの? 」


「そう。コレの」



 互いに頬に手をやりながら、目を合わせる二人。


 けっこうキレているのが伝わってくる、スケクローの視線にたじろぎながら、それでもキィザも減らず口で抵抗する。



「執念深い……デブだねぇ」


「違う」


「あ? 」


「……デブだから、執念深いんだよ」


「それは!! ……知らなかったから」


「気を付けて」


「ごめん」 


「分かれば、いいよ」



 うんうんと、二人は小刻みに何度も頷きながら、もう一度正面の異常事態な現実に視線を戻した。



「……とりあえず、手前のハクトちゃんとこ行っとく? 」


「だね。直接ジュウベエんとこに行ったら…… 」


「『ジュウベエーー!! 助けにきたぞぉおっ!! ……ウゲッ⁉ 』『ス、スケクローー!! 』とかなるパターンだものね」


「ああ、先にヤラレるのは俺なんだ」


「だってほら、デブって動き鈍いじゃない」


「たしかに鈍いね。でもだからこそ、こういう時って痩せてる方が、勇み足で先に出てヤラレるってこと多くなーーい? 」


「ああ。それもまた、モブの宿命か…… 」



 腰に手をやり、大げさに嘆息するキィザ。その背中を軽く手で叩き、先に駆け出すスケクロー。



「ま、そんな宿命に従ってやる義理なんて、これっぽっちもないからねーー」



 振り返ってそう言った。短く笑ってその言葉に応え、すぐさまキィザも後を追う。



「ハハは。んだんだ。宿命なんてクソ喰らえの巻だな」



 身体中に生傷を拵えながらも、ここまで自分たちの力で生き延びてきた強かさ。


 そして、無二の幼馴染・ジュウベエやその頭領一家を心配し、助けになろうとするその心優しさ。


 これらは紛れもない「本物」である。


 ここまでの二人のいい加減な会話によって、その二つの確かさは、何ら棄損されるものではない。


 キィザとスケクローの二人は「エッサ、ホイサ」と掛け声を合わせながら、ハクトの隠れる岩陰へと向かい、ひた走るのであった。


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