act.28 「女の本性」
「風よ集え我が刃に。業風となりて我らが敵を打ち千切れ!! 」
強力な一撃で女を吹き飛ばした直後、シンザは刀を振りかぶり、ありったけの力で高く跳んでいた。
ここが山場とばかりに、大技を繰り出そうというのだ。
リノの補助術式によって、にわかにもたらされた好機。形勢が逆転したこのタイミングを逃すまいと、闘いの経験と勘、その両方がシンザに告げている ― ここで決めろ! ― と。
(無論!! )
風の術式陣が、青く力強い輝きを放った。
「地獄風斬撃!! 」
術式詠唱と共に全力で振り抜いた刃から、これまでとは比較にならない数の斬撃が縦横無尽に、とめどなく吹き出してゆく。
「喰らえぇぇっ!! 」
渾身の大技を放ち、吼えるシンザ。
細く細く研ぎ澄まされた斬撃の束。それらがやがて渦を巻くようにして、女 目掛けて飛んで行く!
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横薙ぎの強力な一閃を受け止め、その勢いで吹き飛ばされながらも、女の意識ははっきりしていた。
空中で後ろ向きに一回転し、すぐさま体勢を立て直す。
後方へと飛ばされる勢いを殺すため、着地と同時に大きく開いた両足と、左手に持った短剣を地面に突き立てて踏ん張る。
「くっ!! 」
ズザザザザァッッ!!
砂煙を巻き上げ、五メートルほど地面を削るようにしてようやく止まった。
「…… 」
女は、のっそりと立ち上がった。
立ち上がりながら、魔虫鞭を掴む右手に力が込められる。苦し気に鳴き、あたかも主人の機嫌をとるかのように、魔虫鞭は周囲に立ち込める砂煙を払いのけた。
女は下を向いている。
先程までの妖艶さはなりをひそめ、代わりに全身からダラダラと色濃い殺気が漏れ出ていた。
剥き出しの臓器のような。
血濡れの。
ヌメヌメとした手触りの「殺気」。
どうやらそれは女の奥深い場所、まさに彼女の秘部から垂れ流されていた。いってみれば「本性」とも言うべきものらしい。
(おのれぇぇ…… 辺境の弱小部族ふぜいが、この私を二流の女だと…… !? )
仮面に隠れ、表からは見えないが、女はギリギリと歯噛みし、その顔は忌々しさに歪んでいた。
(不快だ。もういい。終わらせる。「例のモノ」はまだ見つけていないが…… まぁ、おおよその見当はつく。それに結局は皆殺し。そう。どのみち同じことよ…… )
女は歪んだ笑みを仮面の下で浮かべながら、クツクツと嗤った。
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シンザの放った斬撃の渦が、凄まじい勢いで女の眼前に迫っていた。
それでもまだ動こうとしない女を見て、シンザの胸がざわめき立つ。
(あの野郎、どういうつもりだ!? あきらめた? いや違う。あのテの手合いがそんな潔い真似するわけねぇ。とすれば…… )
ここからでも避けられる絶対的な自信がある。もしくはシンザ渾身の一撃であろうと、避けるまでもない、かだ。
(後者だったなら、いよいよヤバイがな…… )
シンザはリノの姿を目で追った。無事にジュウベエのところまではたどり着けそうだが、あのバカを動けるようにするには、まだもう少し時間が掛かるだろう。それまではなんとしてでも、時間を稼がねばならない。
そこまで思い至り、すぐさまシンザは次の術式詠唱に入った。
(頼むぜリノ。急いでくれ…… !! )
そう願うシンザの視線の先で、凶暴な風の渦が、今まさに女を呑み込もうとしていた。
―― だが、風の渦が女の元に届くよりも僅かに早く。
「……おいで」
そう女は囁いた ―― 。
次の瞬間。
女の身体は斬撃によるダメージを何一つ受けることなく、高々と空中に舞い上がっていた。
突如として女の足元から現れた巨大な魔虫。その頭を踏み台にして、女は攻撃をかわしたのである。
ズタズタに身体を引き裂かれた魔虫が、紫色の体液をあたりにぶちまける。
その上で、女が狂ったように高らかな嗤い声をあげていた。




