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千年地獄の呪われ王  作者: 第八のコジカ
第1章 「風の宿命」
33/45

act.27 「良い女」


「いいわね、ハクト。その時がきたらお願い」


「うん。わかったわ母さま」


 

 リノとハクトが、互いに真剣な表情で頷き合う。

 そしてリノは駆け出し、ハクトは岩場の陰で術式の詠唱を始めた。



 ジュウベエの元に駆けていく途中で、夫の闘っている姿が目の端に入った。



(あなた……! )



 思わずリノは、駆けながら補助術式の高速詠唱を始めていた。



++++++++++++++++++++



魔虫鞭(ワームウィップ)無尽(アンリミテッド )連撃(ストライク)。その本当の恐ろしさ…… たっぷり味わわせてあげる! 」


「やってみな。どんな攻撃も通さねぇ風の結界だ。斬撃(スラッシュ)塵旋風(ワールウィンド)!」



 連続して鳴り響く甲高い金属音。舞い上がる砂煙。闘いの規模(スケール)が、一気に2段階ほど引き上げられた。

 


 魔虫鞭が凄まじいスピードで暴れまわり、縦横無尽な攻撃を仕掛けてくる。しかしそのことごとくを研ぎ澄まされた風の斬撃が迎え撃つ。



 互いの(わず)かな隙をうかがおうと、二人は攻撃を繰り出しながら素早く動き回る。鞭の連撃と風の斬撃が激しく交錯して火花を散らした。



 一見すると互角。だが ――



(ちぃとばかり、キツイか)



 本能のまま暴れまわる魔虫鞭には、疲労も緊張もない。対して生身の人間であるこちらは、時間が経つほどに体力も精神力も削られてゆく。



(ジリ貧てやつだな、ここままだと……)



 冷たい汗がシンザの頬をつたう。豊富な闘いの経験が、早く次の手を打てと警告してくる。



(わかってんだよ。急かすんじゃねぇ! ……おっと!? )



 ガキィン!! ―― 飛ぶ斬撃をすり抜けて、鞭の一撃がシンザの刀と直接交わった。その後を追うようにして女が身体ごと突っ込んでくる。



 (体当たり!? いや違う。左手!! )



 いつの間にか女は左手に短剣(ダガー)を握っていた。突進の勢いに任せて、シンザのどてっ腹にそれを突き立てようというのだ。



 「……させるかぁ! 」



 身体を捻って短剣の一撃をかわすシンザ。

 すれ違いざま、内心の焦りを見透かすように女が(わら)う。



「頑張って。まだまだ私を楽しませて」


「……! このアマ!! 」



 せめてもの反撃にと、回し蹴りを繰り出すシンザ。しかし女はこれを難なくかわし、大きくジャンプして再び間合いをとった。



 一連の攻防で女は呼吸を全く乱していない。対するシンザは肩で息をしている。



「ハァハァ…… 色々いやらしい女だよ、お前さんは」


「お好きでしょ? 」



 妖艶な肢体をなぞりながら女がおどける。



「ハァハァ言ってるもの」


「けっ。ただ年ってだけだ。それに…… 」



 刀を構え直しながらシンザが続ける。呼吸を整えるための時間稼ぎである。



「それに、お前さんみたいなのは、好みじゃねえ。若い時さんざ手を出して懲りてる」


「やっぱり刺されそうになった? 」 



 女が短剣をヒラヒラと玩びながら言った。




「しょっちゅう」


「お盛んだったのね」


「そのお陰で、今は落ち着いた愛妻家だ」


「あら素敵。でも要するに…… 若い女は持て余しちゃうのよね? オジサンは」


「言うねぇ。……だが年食ってる分、手練手管ってのもあるんだぜ」


「事の最中に会話で繋ぐ……とか?」


「お見通しかい」



 荒い呼吸に上下していたシンザの肩が、平静に戻っている。呼吸は整った。刀を握る掌に再び力をこめる。 



 そんなシンザを見つつ、女が大げさな溜息をついてみせた。



「今更だろうけど教えてあげる。女はね、男の見栄を守るために色々と見ないふりをしてあげてるの。たとえ処女でも、だいたいのことはお見通しなのよ」


「耳の痛い話だ。男はいつも、手の平の上ってわけか」



 言い返しながら、油断なく刀を構え、腰を落とした姿勢でゆっくりと右回りに歩き出すシンザ。少しずつ、女との間合いを詰めてゆく。


 

 その動きに合わせ、女も構え直しながら話を続ける。



「長く楽しむために、女は努力しているのよ。動くばっかりのあなたたちと違って」


「そうかい。いい勉強になったよ。じゃぁ、年寄りからも一つ助言だ」


「あら、なぁに? 」



 ピタリと足を止めるシンザ。 

 そしてニヤリと笑って言い放った。



「本当にいい女ってのは、そういう諸々全部抱きとめ迎え入れて、自分の内で男を楽しませるもんだ」


「…… 」


「そうして自分も『愉しむ』。女の悦びってのは、深いところにあるんだろ? そこに達するためには、テメェの心が冷めてちゃ話にならねぇ。男が見栄を張る? 当たり前だ。男から見栄をとっちまったらただのゴミだ。その見栄ひとつ守るために努力しなきゃいけないなんざぁ…… 」



 刀を担ぐように構え、攻撃直前の姿勢となるシンザ。そして〆の一言。

 


「お前さん、女としてまだまだ二流だよ」



 容赦なくそう言い放った。



 「女として二流」。その侮蔑の言葉を聴くと同時に、女の髪が逆立つ。シンザの侮辱に少なからず逆上したのだ。


 そして再び魔虫鞭での攻撃を繰り出そうと、腕に力を込めたその時 ――



「風よ、我が愛する者にその大いなる加護を!! 」



 出し抜けに、女の背後からリノの声が響いた。



「!?」



 驚き、思わず振り返る女。三十メートルほど先で、リノが立ち止まり、かざした手の前に複数の術式陣を展開させているのが見えた。



「助かったぜ、リノ! 」



 待ってましたとばかりにシンザが叫ぶ。



「連続術式!。体力回復(リカバリー) 防御力(ディフェンス)向上(インプローブ)動体加速(エクサラレイション)! ……あなた、負けないで!! 」



 そう、全てはこの為の時間稼ぎ。


 リノがジュウベエの元へ駆け寄る途上、こちらの状況を察して、即座にサポート術式の詠唱に入っていたのを、シンザは気付いていたのである。


 術式を放ち、またすぐさまジュウベエの元へと駆け出すリノ。その後ろ姿に向かってシンザが応える。



「お前のお陰で百人力だ!! 」


「くっ! ……このぉ!! 」



 女が初めて垣間見せた苛立ち。

 

 その怒りの攻撃が繰り出されるよりも一瞬早く、青い輝きと共に加護の風がシンザの身体を包み込んだ。


 魔虫鞭の一撃が虚しく空を斬る。


 先程までと比べ物にならない移動速度で、一足飛びにシンザが女の間合いに入っていき、一撃を叩きつける。


 辛うじて短剣でそれを受け止める女。


 刃と刃が交わった刹那。シンザは余裕たっぷりといった表情……つまりドヤ顔をして女に囁いた。



「な? とびっきりに良い女ってのは、ウチのカミさんみたいなのを指すんだ」



 突進の勢いに押され、女が派手に吹き飛ばされた。



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