act.21 「一斉攻撃」
―― 闇の中に潜むものどもが、荒々しく動きだしていた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
無数の足音が重なり合い砂を踏み鳴らしてこちらに向かってくる。それはまるで軍隊が進軍してくるようだ。
「……! おいおい、マジか…… 」
どうやらジュウベエには、殺された若い二人を弔うための時間すら、許されないらしい。
何百という魔虫の群れが、ジュウベエ目掛けて押し寄せ始めていた。獣のような吠え声を上げない分、その無言の不気味さが際だつ。
さっき倒したくらいの大きさのものが大半だが、なかには更に巨大なものや、もっと小ぶりなものも混じっている。
共通しているのはただ一つ、白面に描かれた紫の瞳。何百もの不気味な瞳が、脇目も振らずにただジュウベエだけを見詰めて押し寄せてくるのだった。
「……やべぇ!!」
思ったよりも遥かに速い勢いで魔虫の濁流が押し寄せる。風の斬撃を繰り出すなり、飛ぶなりしてかわせば良いはずだが、とっさのことでジュウベエは思わずひるんでしまっていた。
魔虫はあっと言う間にジュウベエの周囲を十重二十重に取り囲み、四方八方から腕を伸ばして襲い掛かってくる。
「クソがっ……!」
やられる!そう思ったとき、突然後ろ側から飛んできた風の斬撃によって、ジュウベエの周囲5メートル内外の魔虫が吹き飛ばされた。
「ボサッとしてんなよ!! 」
「キィザ! 」
窮地を救ってくれたのが幼馴染の一撃だと知って、ジュウベエの顔にパッと生気が戻った。しかし敵は息つく暇を与える気はないらしく、またすぐさま獲物を取り囲み押し寄せようとしてくる。
そこへさらに別の斬撃が飛んできて、今度は魔虫を吹き飛ばしつつ周囲の砂を巻き上げ、砂煙による煙幕的な目くらましがはられた。
「スケクロー! 助かる!! 」
「走って! 走って! すぐ来るよ!! 」
言葉の通り、魔虫共は仲間が数体刻まれたところで一切ひるむ様子がない。死骸を踏み越え、またすぐさまジュウベエの元へと向かってくる。
「シッ!! 」
ジュウベエは風の力を借り、空高く飛びあがった。空中で刀を振りかぶり、力を込める。
「風よぉおおおおっ!! 」
叫びながら真下に群がる魔虫らに向かって攻撃を繰り出す。それはカマイタチが竜巻状になった斬撃で、大蛇がのたうち回るように、地上の魔虫ども数十体を巻き込みながらバラバラに斬り刻んでいく。
それでも魔虫たちには「恐怖」の感情がないのか、歩みをとめることなく進軍してくる。しかし、先頭集団をあらかた斬り刻んだことで、少しばかり時間を稼げたようだ。
ジュウベエは地面に着地すると同時に、キィザらのいる後方へと全力で駆け出していた。
見れば、すでに二人は仲間の元に向かって走り出している。
―― いい判断だ。中途半端に合流するのを待っていたら、下手すれば三人とも囲まれてしまう。
「おら!よっと!!」
ジュウベエは走りながら流れるような動きで回転し、振り向きざまさらに数発の斬撃を撃ち込んだ。砂煙と共に、魔虫たちが吹き上がる。これでもう少し時間を稼げるはずである。
「よし!」
走りながら、チラと殺された若い男女の亡骸の事をおもったが、この状況ではもはやどうにもならなかった。ジュウベエは奥歯を噛みしめながら、二人への詫びの言葉を思い浮かべていた。
(すまねぇ。二人の魂、呪い、この俺が……! )
そして気持ちを切り替え、ジュウベエは一気に仲間の元へ飛ぶことにした。
「風よ、頼む! 」
たちまちジュウベエの身体を風が包み込み、空へと舞い上げた。
まるで鳥のような飛翔っぷりである。下を走っていたキィザとスケクローの頭上を飛び越え、まさしく一足飛びに仲間のもとへと向かう。
。
「だぁああああっ! 俺らもついでに運んでけっての!! 」
「ジュウベエのバカー!! 」
二人が文句を叫んだのも当然だった。
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戻ったジュウベエが目にしたのは、完全な混乱。
サキカゼのものたちと魔虫が入り乱れ、さながら合戦のような状態になっていた。
「親父は!? 何してやがる!? 」
ジュウベエは、手当たり次第に仲間を助けるため、斬撃を繰り出しながらシンザの姿を探した。しかし見当たらない。助け起こした若い衆の一人にジュウベエは問いただした。
「どうなってんだ? 親父は!? 」
「あぁ、ジュウベエ様、よくぞご無事で! 」
「お互いにな。それより親父は? 」
「頭領は、女衆を逃がすために退路の先陣に居ます。一気に取り囲まれて逃げ道を塞がれて……」
「そうか。クソッ……!! 」
ジュウベエは、直感的に自分の過ちに気付いた。
(俺が不用意に闘いの口火をきったから……親父は女衆を逃がす暇がなくなって…… )
「南側の、森へ通じる道の方にいるはずです」
「わかった!」
若い男が指し示した方へと、ジュウベエは走り出す。
途中、たびたび斬撃を繰り出しては仲間を救いつつ、全速力で駆け抜けていく。
--いた!
女衆たちを囲んで守りつつ、応戦している者たちの姿が見える。しかしそこにはシンザの姿が見えない。
(親父はどうした!? 母さんは? ハクトは無事なのか?)
嫌な予感がジュウベエの心に走った瞬間。
「きゃぁああああああっ!! 」
聴き慣れた声の、聴き慣れない恐怖の叫びが、ジュウベエの耳に飛び込んできた。
(! この声は!! )
―― 見れば、大型の魔虫に捕らえられたハクトが、必死になってもがいた。
腰の辺りを掴まれ、高々と持ち上げられている。苦しそうに歪むハクトの顔が見えた瞬間、ジュウベエは叫んでいた。
「ハクトぉおお!! 」
風を纏い刀を振りかぶりながら、ジュウベエは妹を苦しめる魔虫に斬りかかっていた。




