最強は混沌と接す⑦
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
黙々と経験値スクロールを量産していた。
リアルでは狭い所で寝たり座ったりを好んでいたけど、ゲームではと言うかこの部屋はダメだ。何と言うか圧迫感が凄いし、何かに集中したい時に狭すぎる部屋で作業すると半端なく息苦しい気がする。そして、集中が途切れた時に窓の外を見る癖があったのか、つい自分の部屋の窓がある方へ顔を向けて一面壁だった時の虚しさがヤバイ。
ドアがノックされて返事をする。
先生がドアから顔を覗かせて、一歩部屋に入るなり数歩で机と言う状況に珍しく眉がぴくぴくしている。
「……笑いたいなら笑えばいい」
長い付き合いだからこそ判る先生の反応を目にしてジトっと見つめながら言えば、遠慮なく噴き出して笑いだす。後ろに白と宮ネェも居たようで、二人はドアから顔だけを覗かせていた。
「ren……可哀想に……」
「宮ネェ、本当にそう思ってる?」
「え、えぇ。お、ふっ、思ってるわよ」
「ダウト」
表情だけは憐れんでるけど、目が完全に笑ってるよ! バレバレだからね? 変な気をつかうぐらいなら遠慮なく笑ってくれた方がまだ気持ち的にマシだよ。
心の声が届いたのか、それとも私が机と壁の隙間を抜ける姿が面白かったのか、宮ネェまでも噴き出して先生の背中をバシバシしばきながら腹を抱えて笑っている。
爆笑する二人を何の感情も乗せず見ていた私が「白は良いの?」という意味を込めて視線を投げれば、白は口元に拳を当ててすっと視線を泳がせた。
「……白、部屋どこ?」
「あ、あぁ、こっちだ」
ずっと笑っている二人にイラつきを隠すことなく睨みつけた私は、白に先を促す。移動を始めた私たちを追いかけるようにして付いてくる二人は、ひぃひぃ言いながら涙を拭いついてきた。
今の時間帯、他のクラメンは皆狩りにでかけているようだ。そのおかげで道中ドアが開くことも無く、問題児三人と話しをした会議室に到着した。
白がノックして返事を待つことなく扉を開けば、雪継と千桜も既に揃っており、全員が座るのを待って宮ネェを含めた六人でPTを組んだ。
PTを組んだ理由は、今回の件が結構まずいため外部に漏れないための措置だ。
本題を知らない雪継と千桜へは先生から説明する手はずになっているし、宮ネェ、先生、白が主体で動いてくれる予定なので、私は言われた通りに黙って経験値スクロール量産する。
先生の説明に補足などは必要ないだろうけど、作業しながら話は聞いておく。私が口を挟むより先に宮ネェや白が動くだろうから聞くだけになるだろうけど。
『さて、雪継、千桜……』
『ちょ、セ、先生、なんで溜めてんの!!』
『怖いわいね』
きょどる二人に対して顎に手を添えた先生がじっと見つめている。その姿はまるで出来ない子を叱る父親のようで、私は笑いそうになるのを必死に堪えるはめになった。宮ネェと白は、とても真面目な表情を作っている。が、よく見れば口角がひくついていることから、場が場なら笑っていたであろうことが予測できた。
かなりの時間をおいて、深いため息をひとつ吐き出した先生が再び口を開く。
『お前たちに聞くが、血盟倉庫のログは毎日確認してるか?』
否定するように首を左右に振るアース主従。
ログを確認するということ自体クラメンを信用してないというようなものだから、確認することを恥だという考えがゲーム内にもある。だが、血盟倉庫はマスターの許可さえあれば、血盟に所属する全員が出し入れできる仕様だ。過去には、血盟倉庫から金目の物を盗み出し、血盟を無言で脱退していく荒しが流行ったこともある。そのことから、経験値スクロールを配布する上で、各血盟には倉庫のログの確認を義務付けたはずなのだが、アースではログ確認をやっていなかったようだ。
先生の眉がピクピクと動いている。宮ネェは明らかに不快感を表しているし、白はとてもいい笑顔をしている。これは相当な怒りがこみあげているようだと思い至った私は、心の中で雪継と千桜にごめんと謝って経験値スクロール作りに邁進しているフリをしておく。
『……そうか。それなら気付くはずないな』
『いったいどういう事?』
『はっきり教えて欲しいわいね!』
『簡潔に言うとだな。アースに配布している経験値スクロールが、誰かを経由して敵対勢力に流れてる』
『『は??』』
『は? じゃねーよなー』
先生の言葉が脳内で咀嚼できないようで目が点になったまま言葉が出てこないアース主従。その様子にイラだったのか、白が言葉を挟んだ。
『先生、この子たち分かってないわ~』と宮ネェがはっきり告げ。先生がまたもや大きくため息を吐き出して、再び口を開いた。
『アースは特に四次職が少ないからってことで、宮ネェとrenが話し合って他クランよりも多く渡してたんだぞ? ひとりあたり一日二枚。作るrenの苦労が分かるか? 同盟のためならって、狩りに行く時間削って作ってくれてたんだぞ? なのにだ。アースの古参メンバーの中で、一日一枚しか使えてない奴がいた。必要な奴に渡ってないってどういうことだ! 白が気付かなきゃ、永遠にお前たちはrenの優しさに甘え続けてたって事か? 血盟倉庫を誰かが使う度に調べてみれば、あの三人組が使った後に限って経験値スクロールが四枚、五枚と減っていた。お前たちがそれを許していたのか? それともクラメン全員の了承をとって、敢えて新人の奴らに多く分配していたのか? そもそもお前たちは、奴らが多く持っていった経験値スクロールが敵対勢力に渡っていることに気づいていたのか? 経験値スクロールは、各血盟での管理を徹底しろと伝えていたはずだ。アースでは、誰がどのように管理していた?』
『答えろ!』と言うと同時に机へ拳を打ち付けた先生の瞳には、憤りや怒りと言った感情が見えた。久しぶりの一喝を食らった、雪継と千桜がびくっと肩を揺らして背筋を正す。
そして、ついに雪継と千桜が質問に答え始めるのだった――。




