第七話
「婚約を解消ですか? それはどういう意味でしょうか?」
ダミアン殿下と婚約して半年くらい経ったある日のこと、私は彼に婚約を解消しようと告げられました。
ようやくこの時が来ましたか……。
しかし、ここで喜んだ顔を見せてはなりません。全て計算どおりですが、それを悟らせれば全部無駄になるかもしれないからです。
「はぁ……、貴様は人の言葉くらいは理解出来る程度の頭あるだろう? 貴様の望みが叶ったというわけだ」
「――っ!? な、何を急に仰るのです? ダミアン様との婚約解消が何故私の望みになるのですか?」
いきなり私の望みが叶ったと仰せになるダミアン殿下。
それでは、まるで私の目論見が全部バレているみたいではないですか。
いや、そんなはずはありません。妹に殿下を掠め取らせることが目的で敢えて婚約するという荒唐無稽、誰が予測することが出来るでしょう。
「イリア・ファウスト、貴様は勘違いしているぞ。貴様は妹に僕を取らせようとする為に僕と婚約したのだと思っているのだろう。だが、実際は君の妹を僕が頂くために僕が君に求婚したのだ」
「ど、どういうことです?」
「貴様の妹、姉のモノを何でも欲しがるのだろ? ならば、その性質を利用しない手はない。ちょっと都合が良い女が欲しかったのでな。ローザが原因で婚約破棄された貴様なら僕の悪評を逆に利用しようと考えると思ったんだ。あの女、面白いくらい僕に従順になってくれたぞ」
そんなバカな話がありますか。
ローザを手に入れたがっていたダミアン殿下は敢えて私に求婚を? そもそも、何で私が妹が原因で婚約破棄したことを知っているのですか?
それに、悪評って。私はたまたま王立学院時代の友人が殿下と婚約を解消したときに話を聞いた程度で、ローザの耳に届くほどの大きな噂でもないのに、それを利用しようと考えるなんて変です。
でも、確かに彼は私の計画を知っています。何がなんだかさっぱり分かりません。
「まぁ、混乱してるのは仕方ない。イリア、君には最後に全てを話そう。君の気持ちを利用してしまったからね。君の好きな銘柄の紅茶と菓子を用意した。取り敢えず落ち着いてくれ」
先程まで刺々しい態度が嘘のように消えて穏やかな表情になったダミアン殿下は、椅子を引いて私をそこに座るように促した。
紅茶の話も菓子の話もしていないのに、何故そのようなことをご存知なのでしょう?
紅茶に口をつけても、気になることだらけで味に集中が出来ません。
「手短に言えば、僕に結婚願望がないんだ。そして王位にも興味がない。来年には辺境の田舎で夢だった考古学の研究を開始する予定だ。父上には王位を継がないことと辺境で研究をすることは許してもらった」
「それがどうしてローザの話に繋がるのです?」
「父上は結婚しないことだけは許さなかった。一族繁栄の為に血は残せと。だから、僕は辺境暮らしが嫌だと泣いた二人の元婚約者にお願いしたのだ。僕の悪評を流せ、と。誰もが僕と結婚したくなくなるように」
では、殿下が傲慢で人を見下してばかりいる最低の人間という噂は彼が自分で撒いたもの?
結婚したくなくて、そんな噂を流すなんて考えられませんが……。
ちょっと待ってください。今、考古学と言いましたか? 考古学って、もしや――。
「君の元婚約者のガーランド。彼は僕の学院時代の友人なんだ。考古学を共に専攻していてね。君のこともローザのことも、彼から聞いていたんだよ」
「それで私の事情をご存知だったのですね。しかし、我が妹ながらローザはあのような性格です。殿下が彼女を欲しいと思う理由が分からないのですが」
「半分は懲らしめるためだ。親友の婚約を壊した女が許せなかったから。もう半分は傀儡のような女が欲しかったんだ。側に置いておけば、父上もうるさく言わないだろうし。何でも言うことを聞くように仕込んどけば、何かと便利だしな」
私は空恐ろしくなりました。
殿下は私も妹も全部利用して、親友の復讐と自分の目的を恙無く達成したのです。
ダミアン殿下という方は傲慢でこそありませんでしたが、とても褒められた人間性ではないと感じました。
彼の言うとおり目的は粗方達成しましたので、安堵の気持ちはありますが――。




