第三話
「イリア・ファウスト、僕に感謝しろよ。栄光あるアルカナ王家の血族に入る権利を与えてやるのだから」
3秒で私はダミアン殿下の婚約者になったことを後悔しました。
自分の決断に後悔したことは数あれど、このレコードは中々更新されないでしょう。
殆ど初対面の相手にこの物言い。噂に聞いていた以上の人物みたいです。
「はい。ダミアン様に選ばれたことを感謝しますわ。これから、婚約者として恥ずかしくないように――」
「恥ずかしくないようにするのは当たり前だ。いいか、これからお前には自由はない。瞬き一つ、僕の許可なくすることは許さんからそのつもりでいろ」
そして、一分で私は人としての尊厳を失いました。
今までに何人もの令嬢が精神的に病んでしまった理由がよぉく分かります。
しかし、ここまでくると逆に期待できました。
――この劇薬はウチの妹にも必ず効くと。
そうです。私はこの人と一緒になるつもりはありません。
ダミアン殿下の性格が歪んでいればいるほど、姉のモノを欲しがる困った妹に大きな鉄槌を下すことが出来る――そう考えれば今の彼からの圧力はむしろ望むところだったのです。
「何だ? その目は……。僕への反抗心が透けて見えるぞ。良いか? 君の父親はたかが侯爵。僕とはランクが違う人間なんだ。悪いが遠慮しないよ? 君が少しでも敵愾心を見せたら、君の家は消し飛ぶからな」
はいはい。分かりました。
せいぜい、無難に立ち回ってみせますよ。
この方、今までに何人もの女性に逃げられたのに1ミリも反省しないのですね。
そういうところも私の妹とお似合いかもしれません。
「この目は生まれつきです。気分を害されたのでしたら、謝罪致します。他にご不満がありましたら、何なりと申し付けて下さい」
「ちっ……、生意気な女だ。パーティー会場で見たときはもっと卑屈な女だと思っていたが。自己評価はなるべく低くしておけ。自分がゴミだと思うくらいが丁度いい。女に自己主張は不要だからな」
はぁ、これは同じ空間にいるだけで息が詰まりますね。
妹を嵌めるという目的が無かったら、逃げ出したくなっていたでしょう。
ええ、ええ。期待以上でしたよ。ダミアン殿下の性格は……、思った以上に最悪でした。
◆ ◆ ◆
「お父様、ダミアン様は素晴らしい殿方でしたわ! とても厳しいことを仰っていましたが、それは全て私のため……。将来のことを考えて王族の妻という立場になる私を案じて、心を鬼にして躾をしてくれるなんて普通の方では出来ません! 私、ダミアン様とでしたら幸せになれる確信が出来ました!」
私って演技の才能があったのですね。
意外な特技に戸惑いを禁じ得ません。
こんなにも、ペラペラと思ってもないことを嬉しそうに話すことが出来るなんて。
私は父と母、そしてもちろん妹にダミアン殿下が如何に素晴らしい人間かアピールしました。
彼がキツめの性格ということも敢えてプラスで受け取ることにして――。
「ダミアン殿下とお姉様が幸せに……。羨ましいですわ。私のことも紹介してくださいね。お姉様……」
「もちろん、可愛い妹を紹介しないはずがありません」
私はこれ以上ないほど朗らかに笑っていたと思います。
ローザ、あなたには一生私の笑顔の意味は理解出来ないでしょうね――。




