白雪姫の大ピンチ
小雪がいるはずのショッピングモールに向かう道中、結衣からの追伸があった。
書かれていたのは、モールに入ったゲームセンターで。
直哉はまっすぐ最短ルートでそこまで向かう。
果たしてたどり着いた先で、直哉を待っていたものとは――。
「あっ、直哉じゃん。やっぱり早かったねえ」
「笹原くん、この間はどうもー」
プリクラコーナーのすぐそばで、女子高生が五人ほど集まっていた。
小雪と同じ一組の女子達だ。中には結衣と恵美佳の姿もあって、直哉を見るなりぱっと顔をほころばせる。そんな彼女らに、直哉は息を切らせつつも問いかけた。
「……小雪は?」
「白金さんはねえ……」
薄い笑みを浮かべた結衣が、ちらりと視線を投げる。
その方向を見てみると――。
「ひっ……!」
プリクラ筐体の陰から顔だけ出して、小雪がこちらを覗いていた。
しかし直哉と視線が合うとすぐに物陰へ引っ込んでしまう。
慌ててそちらへ向かって、直哉は大きく息を呑んだ。
「小雪、その格好は……!」
「ううううう……無理矢理着せられたのよぉ……!」
真っ赤な顔を両手で覆う小雪は、俗に言うメイドさんの衣装を身にまとっていた。
白と黒を基調にしたエプロンドレスはミニ丈で、太ももに光るのはいわゆるガーターベルト。頭にはご丁寧に猫耳付きのヘッドドレスが飾られている。メイド喫茶に勤めたら、その日のうちに人気ナンバーワンをかっさらえそうなほどに可愛い。
そんな小雪を頭の先から爪先までじっくり見てから、直哉は全力でガッツポーズをしてみせた。
「よっしゃあ! やっぱりこういう展開だったか! 急いで来た甲斐があった!」
「ちっ、気付いてたか……」
「さすがって言えばさすがだね……」
結衣と恵美佳が、渋い顔を見合わせた。
「いやだって、わかりやすいだろ、こんなのは」
小雪に怪我でもあったのなら、結衣は必ず電話で詳細を伝えたことだろう。
要領を得ないメッセージだけを寄越すということは、何か隠したいことがあったのだ。
それで、ここのゲームセンターはプリクラ用のコスプレ衣装が豊富なのは有名な話だった。
以上の情報を総合すれば、この展開は簡単に予想が可能だったのだが……そう説明すると、その他の女子生徒達がため息をこぼしてみせる。
「話に聞いていたとおり、白金さんの彼氏って変わり者なんだね……」
「いや、聞いてた以上かもしれないよ、これ……」
ドン引きと微笑ましさが入り交じった、生暖かい目を向ける女子生徒達だった。
結衣と恵美佳は慣れたもので、軽く苦笑するだけだ。
「みんなでプリクラ撮ろうってなってさ、それで白金さんにいろいろコスプレしてもらったらすっごく可愛くて」
「これは笹原くんに見せなきゃ恨まれるなーって。それで呼んでもらったの」
「GJだ、ふたりとも。この恩は必ず返すからな」
この展開は予想していたが、ここまで可愛いメイドさんに会えるとは思っていなかった。
真剣に感謝する直哉の隣で、小雪はがっくり疲れたように肩を落とす。
「うう……なんで私がこんな目に……もう脱いでもいいでしょ……?」
「いや、せっかくだし、そのまま直哉とプリクラ撮ってきなよ」
「はい!? なに言ってるの夏目さん!?」
「いやー、それならお言葉に甘えようかな。小雪借りてもいいか?」
「どうぞどうぞ。たくさん惚気話を聞かせてもらったから、もう私たちお腹いっぱいだよ!」
恵美佳は満面の笑みで言う。顔はいつになく艶々していて血色も良い。ご馳走さま、といったところらしい。
そんな恵美佳の台詞に、小雪は声を裏返らせて叫ぶ。
「の、惚気話なんかしてないし! なにを言ってるのよ鈴原さん!」
「えっ、あれだけ笹原くんのこと話しておいて? ねえ、みんな」
恵美佳が話を向けると、あとの三人はうんうんと神妙な顔でうなずく。
「ほんと後から後から惚気が飛び出したもんね。彼氏とお幸せにー」
「また何かあったら聞かせてよ。お家に呼んで、お父さんに気に入られる話とか超面白かったし」
「進展あったら報告してよね、約束だから!」
「うううう……!」
あたたかい声援をもらい、小雪はぷるぷる震えて俯いてしまうのだった。
続きは明日更新します。
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