自室にご招待
「ふう……ごちそうさまでした」
食べさせてもらったおかげですこし時間はかかったものの、お粥を無事に完食できた。
空のお椀の前で手を合わせると、小雪はほっと相好を崩してみせる。
「よかった。食べ切れて。おかわりいる?」
「いや、もう十分かな」
「そう。顔色もよくなったみたいだし……残りは台所に置いてあるからね」
小雪は手早くお椀を片付けはじめる。
(なんかこう……お嫁さんって感じだ……)
気を抜くと口に出してしまいそうだったので、ぐっと堪えておく。
小雪が動揺してお椀を取り落とす光景がはっきり脳裏に浮かんだためだ。
直哉がそんなことを考えているとも知らず、小雪はさっぱりとした笑顔を向ける。
「よし、それじゃあ寝ちゃいなさい。しっかり食べて休むのが一番よ」
「そうさせてもらおうかな……」
ペットボトルを片手に立ち上がる。自室は二階だ。
おぼつかない足取りでふらふらと階段を目指そうとするも……数歩も行かないうちに立ち止まって、後ろの小雪を振り返る。
「……部屋までついてくる気か?」
「当たり前でしょ。ふらふらしてて危なっかしいんですもの」
エプロン姿のまま、小雪はあっけらかんと言ってのける。
女の子――しかも人生初彼女が自室に来る。大事件と言ってもいいハプニングだ。
普通の男子高校生なら、彼女に見られるとヤバい品々を抱えて、右往左往するところだろう。
しかし、直哉はこんな展開ももちろん想定済みだった。
(うん、あの漫画は全部親父の書斎に放り込んだし、あのゲームは押し入れの奥にしまったし……よし、大丈夫だな)
やっぱり夜中に掃除しておいて正解だった。
それでも彼女と一緒に自室に向かうのは想定よりドキドキした。
階段を上ってすぐ右手が直哉の部屋だ。扉を開けて中に招き入れると、小雪はまたも呆れたような顔をする。
「ここも綺麗に片付いてるし……そんなことしてるから風邪が悪化するのよ」
「あはは……ごもっともです……」
窓際のベッドに入りつつ、直哉は苦笑を返すしかない。
小雪の言う通り、部屋は整理整頓されている。本棚の本もレーベルごとにきっちり並んでいるし、床に物も置かれていない。学習机にも無駄な物はひとつもない。お手本のような学生の部屋だ。夜中の掃除が功を奏した。
呆れつつも、小雪は興味深そうに部屋を見回す。
「男の子の部屋に入るのなんて初めてだわ……へえ、こんな感じで……うん?」
そこで小雪がぴしっと凍り付く。
視線の先にあるのは学習机の前に張られたコルクボードだ。
学校の予定表や写真がいくつも貼られていて――その一角を指さして、小雪は素っ頓狂な声を上げる。
「なんで私の写真が飾ってあるのよ!? しかも小さい頃のやつ!」
「なんでって、この前朔夜ちゃんにもらったから……」
「あの子ほんとに渡してたの!?」
七歳くらいの小さな小雪が、川辺で水遊びしている写真だ。キラキラしたしぶきも、ご機嫌そうな満面の笑みも、なにもかもが直哉にクリティカルヒットだった。
先日、朔夜から買収の材料として提示された報酬である。
あのあとちゃっかりとデータでもらったため、せっかくなので現像しておいたのだ。
そう説明すると、小雪はむすっとした顔で直哉をにらむ。
「……不公平だわ」
「はい?」
「あなただけ私の写真を持っているなんて、不公平だって言ってるの」
ベッドで横になる直哉に、小雪はびしっと人差し指を向ける。
「私も直哉くんの写真がほしいわ。できたら子供の頃のかわい……間抜けな写真! 私も部屋に飾……ゆくゆく脅しの材料に使えるように持っておくのよ!」
「ああ、そう言うだろうと思ってさ……」
「へ?」
直哉は身を起こし、ベッドの下から準備しておいた物を取り出した。
それは数冊分のアルバムで――。
「家族アルバム、親父の書斎から出しておいたから……好きに見てくれよ……」
「だーかーらー……そんなことばっかりしてるから熱が上がるのよ!」
ぴしゃっと叱られてしまった。
小雪に父親の書斎を覗かれると、直哉が隠したエッチめの漫画などが見つかってしまうので、先手を打つ必要があったのだ。写真を片付けるのは惜しかったため、こうするしかなかったのである。
続きは明日更新します。お暇潰しになりましたら幸いです。






