今日は彼女がぐいぐいくる
腕を組んで密着する。
言葉にするとなかなかの破壊力だが、これくらいの近さなら何度も経験があった。
しかし今日はお互い水着なので、肌と肌とが直接ぺたっと密着する。その威力は凄まじいものだった。
先ほどまでプールに入っていたため小雪の腕はしっとり濡れていて、それが余計にドキドキさせられた。自慢の銀髪からも玉のような滴が滴り落ちて色っぽい。押しつけられて形を変えた胸を見下ろす形になって、その谷間もはっきり見えるし――。
(い、いや……たしかに色々期待したけど……これはちょっと心臓が持たないぞ……!?)
だいたいやることは読めていたので、この展開にもさして驚きはしない。
それでも実際に我が身に降りかかると話はまったく違ってきた。
小雪も恥ずかしいのは直哉と同じか、もしくはそれ以上らしい。顔を真っ赤にして黙り込んでしまうので、腕を絡めたまま棒立ちになってしまう。
そんなふたりを見て、恵美佳はにっこりと笑う。
「ほんとにふたりともラブラブだねえ。カップルになれてよかったね、白金さん!」
「えっ……う、うん。ありがとう……?」
小雪は恥ずかしがりつつも『なんか思ってた反応と違う……』と顔に書いてあった。
恵美佳をドキドキさせるつもりが、ほのぼのさせてしまっただけだということに気付いたらしい。
釈然としない様子だったが――。
「あら……?」
そこで小雪はふと気付いたように声を上げる。
直哉の二の腕をしげしげと見つめて、小首をかしげてみせた。
「服の上からじゃわからなかったけど……直哉くんって意外と筋肉があるのね」
「え? いや、言うほどじゃないかなあ。特に部活とかもやってないし」
「っていうことは、これが男の子の平均なのかしら。へえ、女の子とはこんなにも違うものなのね」
「ちょっ……こ、小雪!?」
小雪は興味深そうに直哉の腕や胸元をぺたぺたと触ってくる。
さすがにこの展開は予想外だった。
小雪の手つきはまったく邪念がなく、だからこそ余計に心臓が大きく跳ねた。水着姿の彼女からのボディタッチを平常心でやり過ごせるほど、まだそんなに経験も積んでいないので。
「わわ、かたーい。やっぱり男の子なのねえ」
「わざとやってるんじゃないのがタチ悪ぃ……!」
直哉はその場でガチガチに凍り付くほかなくて……それは見ていた恵美佳たちも同じことだった。顔をぽっと赤らめて視線をそらす。
「し、白金さんって、けっこう大胆なんだね……」
「すごいな……これが付き合いたてのカップルってやつか……」
「へ……えっ!?」
竜太もそっと顔を背ける。
そうして自分がとんでもないことをしていることに気付いたらしい。小雪は顔を真っ赤に染めてばっと直哉から距離を取る。
「ち、違うの! これはそういうんじゃなくって……!」
「えーっと、列進んでるぞー……」
しどろもどろで言い訳を始める彼女の手を取って、直哉は待機列を進んでいった。
先日後ろからぎゅうっとされたときは『おかわり』をせがんだが、さすがに今回は見送った。
自分もいっぱいいっぱいだったからだ。いつもグイグイ行くのはこちらだが、今日は珍しく反撃されてしまった。
しかし怪我の功名と言うべきか、おかげでちょっとだけ恵美佳と竜太の間にはいくぶんドギマギした空気が流れはじめたという。
続きは来週木曜日、5/28(木)に更新します。
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