彼女の水着
三十分後。
そわそわとプールサイドで待っていると、小雪がやってきた。
土壇場で恥ずかしくなって、上にシャツやバスタオルを羽織ってくるものかと思いきや、意外にも堂々たる水着姿を見せてくれた。
直哉の前でふんっと鼻を鳴らし、胸を張ってみせる。
「さあ、お望みどおりに着替えてきてあげたわよ。せいぜいその足りない頭を使って、私の美貌を褒めちぎりなさい」
「はあ」
言葉は居丈高だが、顔はかなり真っ赤に染まっていた。
どうやら恥ずかしさを『猛毒の白雪姫』モードで乗り切る作戦らしい。
しかしそう言われたからにはじっくり褒めなければなるまい。
直哉は改めて小雪の水着を見つめる。
上下に分かれたビキニスタイルだ。胸の部分は首の後ろに回した紐で固定して、ショーツ部分は大胆に小さい。小雪のスタイルの良さをこれでもかと引き立てる水着だった。
そういうわけで、肌の露出がとても大きかった。
最近は夏服になったので素肌も見慣れていたものの、鎖骨やおへそ、くびれ部分にくるぶし、小さな足の指……そういう部分はもちろん初めて目にする。破壊力は抜群だ。
さらに一番目につく、胸部分もすごかった。
直哉は見ただけで相手の体重、身長、スリーサイズがわかる。だから小雪のことも具体的なアルファベットと数字でサイズが分かっていたはずなのに、実際に目にするとそのたわわさに驚かされた。
つまり総評――すごい。
直哉はそっとその場に膝を突き、手のひらを合わせて万感の思いを口にした。
「ありがとうございます……!」
「拝んだ!?」
ぎょっとする小雪だった。
そのまま涙を流して拝み続ける直哉のことを、心配そうな目で見つめてくる。
「ええ……そんな、泣くほどのこと……?」
「当たり前だろ! 人生初彼女の水着だぞ!? 一生の思い出になるに決まってんだろ!」
「喜んでもらえたなら嬉しいんだけど、ちょっと怖い……」
「うう、ありがとう小雪……俺、死ぬときはこの光景を思い出すからな……」
「やめなさい。もっと他のシーンにして。まったくもう……」
ジト目をしつつも、小雪はぷいっとそっぽを向く。
指先で髪をくるくるしながら言うことには――。
「で、感謝の気持ちは分かったけど……具体的にはどうなのよ」
「もちろん可愛いよ。最高。すごい」
「ふ、ふふん。そうでしょ、そうでしょ」
小雪は顔をほころばせる。
そこで直哉は立ち上がり、彼女の手を握って畳みかけた。
「うん。すっごく似合ってるし最高に綺麗だ。待ってる間に水着の女の子をたくさん見てきたけど、やっぱり小雪が一番可愛いよ。こんな子と付き合えて、俺は幸せ者だなあ」
「うっ、ぐう……! と、当然でしょ、だって私は完璧、ですもの……!」
「おっ。今日は耐えたかー」
この前のデートでは私服を褒められて逃げようとしたが、ちょっとだけ耐性がついたらしい。
ぷるぷる震えて恥ずかしがる小雪の手を取って、直哉はプールの方を指し示す。
「よし、それじゃあ最初は流れるプールだ。行こうぜ」
「し、仕方ないわね。付き合ってあげようじゃない」
そうは言いつつも、小雪の顔は期待にキラキラと輝いた。
さすがは流れるプールの魅力だ。直哉はニヤリと笑う。
「もしもプールの中で水着の紐が外れるなんてハプニングが起こっても、俺が全力で対処するからな。安心してくれ」
「大丈夫よ。これ、飾り紐だからほどけても問題ないの」
「ちっ……二次元なら絶対そういう展開になったのに……」
「今日の直哉くん、ほんとにテンション高いわね……」
やや白い目を向けられながらも、ふたり仲良くプールに向かった。
続きは来週火曜日更新します。
まだしばらく毎日更新できそうにありません。申し訳ない……。
ただ書き溜め自体は三十本以上できたので、毎日更新開始したら楽しんでいただければ幸いです。






