夏の定番デートスポットとは
昼休みはいつも生徒で溢れていた中庭も、夏の日差しが厳しい今の時期は、さすがに閑散としてしまう。
かわりに盛況となる場所があった。クーラーのよく効く学生食堂だ。
さすがマンモス校なだけあって席数が多くてメニューも豊富。
「いただきまーす♪」
ハンバーグカレーを前にして、小雪は行儀良く手を合わせる。
先日衣替えが済んだため、周囲の生徒達と同じ半袖セーラー服だ。
ほっそりした腕は透けるように白い。首回りも冬服に比べて大きく開いていて、細い首筋がよく見える。
平たく言って眼福だ。真正面に座ることの出来る幸福を、直哉はしみじみ噛みしめた。
そんな直哉には気付くことなく、小雪はカレーを一口食べる。
「うーん、おいしい。涼しい場所であったかいご飯を食べる……これこそ夏の贅沢ってやつよね。明日は何にしようかな。ラーメンとかもいいわよねえ」
見た目は非の打ち所のない美少女なのに、庶民じみたセリフがやたらと似合っていた。
そんなふうにしてカレーに舌鼓を打っていた小雪だが、ふと気付いたようにきょとんとする。
「あら、直哉くんは食べないの?」
「へ? あ、ああうん。食べる食べる」
直哉の前に置かれた日替わり定食は手つかずのままだ。
小雪に言われて初めてそれに気付き、直哉もいそいそと食べはじめた。
それを見て、小雪は訝しげに眉を寄せる。
「どうしたの、ぼんやりしちゃって。何かあったの?」
「いや、実はさ……」
夏服の小雪に見とれていた、というのがひとつの理由。
そして残るもうひとつの理由は、わりとのっぴきならないものだった。
「ちょっと、次のデート先について悩んでて……」
「へ?」
直哉の絞り出した告白に、小雪は目を丸くする。
「ほら、こないだはショッピングモールでデートしただろ。あんな感じでまたふたりで出かけたいなと思ってさ」
「う、うん。それで?」
「で……ちょっととある情報筋から、よさげなデートスポットを聞いたんだけど」
「なに、その情報筋って……」
胡散臭そうに顔をしかめる小雪だった。
まさかその情報筋が自分のクラスの委員長で、さらに自分の隠れファンだなんて思いもしないことだろう。
ちなみに恵美佳は、直哉に『鈴原さんはあいつとデートに行かないの? ほらあの、顔の怖い……』と、彼女に思いを寄せる幼馴染み・伏虎竜太のことを聞かれて『りゅーくん? まっさかー、デートとかないない』なんてあっけらかんと言っていた。さすがの直哉も、ちょっと竜太に同情したという。
ともかくその恵美佳から聞かされたデートスポットは、非常に魅力的な場所だった。
「俺はめちゃくちゃ行きたい。でも小雪が渋るだろうから、どうしたものかって悩んでてさ……」
「なんだ。そんなことだったの」
小雪はどこかホッとしたように相好を崩す。
「私にばっかり合わせてくれなくていいのよ。次は直哉くんの行きたいところに付き合うわ」
「……ほんとにいいのか?」
「もちろんよ。だ、だってその……」
小雪はそこでごにょごにょと言葉を濁してしまうが、やがて頬を赤らめて小声で言う。
「私はあなたの彼女でしょ。直哉くんがよろこんでくれるなら、私もうれしいし」
「小雪……! ありがとう!」
やっぱり自分はいい彼女を持った。
直哉はじーんと感極まりつつ、先ほど恵美佳からもらったチラシを取り出し、開く。
そこに書かれているのは、隣の市にある温水プール施設で――。
「ここのプール、今カップル割引キャンペーンをやってるんだってさ。一緒に行かないか?」
「却下!!」
「……やっぱりなー」
にべもない返答に、直哉はため息をこぼすしかない。
絶対にこうなると思っていたからだ。
続きは来週木曜日に更新します。
それ以降、書籍発売日の6/12まで、最低一ヶ月半は毎日更新予定です。五月投稿分は書き切りました!
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