次のデートプラン
「笹原くん! ちょっといい?」
「あれ、鈴原さん?」
衣替えも終わった初夏のある日。
直哉は学校の廊下で、鈴原恵美佳に呼び止められた。
小雪のクラスの学級委員長だ。今日も眼鏡に三つ編みといういつもの委員長的スタイルではあるものの、厳格さはみじんも感じられない。
浮かべる笑みはどこまでも人なつっこくて、ご機嫌なのが丸わかりだった。
「何か用かな。白金会のミーティングのお誘い……じゃないか」
「さすがは笹原くんだね。話が早くて助かるよ」
恵美佳はにっこりと笑みを深めてみせる。
そんな彼女をしばし見て……直哉はぽんっと手を打った。
「ああ、なるほど。わかった」
「へ?」
ぽかんとする恵美佳をよそに、直哉は頬を掻いて笑う。
「朔夜ちゃんのことだろ。たぶん俺のこと恋のキューピッドだとかなんとか言ったんだと思うけど……そんな大層なことはしてないよ。鈴原さんに褒められるほどのことじゃないって」
「たしかにそんな話をしたかったけど、私まだ何も言ってないよ!?」
ドン引きの悲鳴を上げて後ずさる恵美佳だった。
今日はたしか昼休みに白金会の会合があったはず。
そこでおそらく恵美佳は朔夜から、先日のこと――桐彦との一件を聞いたのだろう。
あの会で一番親しい女子は恵美佳だし、初恋の顛末を誰かに聞いてもらいたかったに違いない。
根拠をつらつら並べてみるが、恵美佳の表情は渋いままだ。
「うん……会長からこっそり話を聞いたのも本当だし、好きになったのがどこの誰かも分からなかったのに笹原くんが引き合わせてくれたって言ってたのも、『やるじゃん!』って褒めたかったのもやっぱり本当のことだけど……先回りにもほどがあるよね?」
「いやでも、話が早くていいだろ?」
「まったく良くはないんだよねえ……会話なんだからキャッチボールしようね。なんでこっちが投げる前にホームランを打つのかな」
恵美佳はため息まじりにぼやき、頬に手を当ててしみじみする。
「ほんとに白金さんはすごいよね……笹原くんとお付き合いできる人類なんて絶対他にいないと思うし、大事にしてあげるんだよ?」
「言われなくても分かってるっての」
さすがに人類という大きな括りなら、他にも気の合う人がいるとは思う。
とはいえお付き合いするのは小雪だけでよかった。
鷹揚にうなずきつつ直哉は得意げに笑う。
「でも、小雪ももう慣れたもんなんだからな。多少俺が変に察しが良いとこ見せても、全然動じなくなってきたし」
「おーっ、すごい! 付き合いだしてまだ一ヶ月なのに、すっかり熟年夫婦だね!」
「あはは、そうだろ? でもこの前、夜中に音声通話しながら小雪が食べてるアイスの銘柄当てたときにはちょっと引いてたかな……」
「監視カメラとか仕込んでないよね? いくらご家族公認の交際だからって、さすがに弁護できないよ?」
「好みと生活パターンでだいたい分かるだけだっての。でも久々の反応で、あれはあれで良かったな……通話口でドン引きしてる顔が浮かんだって言うか。よし、また今度当ててやろ」
「めんどくさっ! 白金さんはほんとにいい子だよ……」
恵美佳は肩をすくめるばかりだった。
直哉の株が微妙にストップ安を記録する中、小雪への好感度がますます高まっているようだった。
釈然としなさそうに顎を撫でつつ、うーんと唸る。
「うーん、でも会長が喜んでたのは事実だしなあ……仕方ない。教えてあげるか」
「えっ、なに。恋のキューピッドをしたご褒美に、小雪とのデートプランを提案してくれるって? 詳細まではわかんないから聞かせて欲しいな」
「うん。これ以上ツッコミ入れるのも面倒だし、もう手短に言うね!」
どんどん遠慮が無くなってくる恵美佳だった。
胸ポケットから取り出すのは丁寧に折りたたまれたチラシである。
「もうすぐ夏休みだし、最近ずいぶん暑くなってきたでしょ。で、うちの郵便ポストにこんな広告が入ってたんだけどさ……」
ぺらっとチラシを開いてみせて、恵美佳はいたずらっぽく笑ってみせた。
そこに載っていたのは、隣県の某スポーツ施設で――。
「白金さんを誘って、ここに行ってみたらどうかな?」
「こ、これは……!」
続きはまた来週木曜日。
そして再来週の4/30(木)から六月半ばの発売日まで、一ヶ月半ほどは毎日更新予定です。さめはアホです。お楽しみいただければ幸いです!






