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三次元の彼女がいい

 映画館そばのベンチにふたり並んで腰掛けて、映画の感想を語ることにした。


「しかし評判通り……いや、それ以上の出来だったなあ」

「わかる……! わん衛門がにゃんじろーを裏切ったと見せかけて、宇宙船に唯一残った脱出ポッドを譲る展開は、もう、もうほんとに……すごかった……!」

 

 小雪はジュースを持つ手に力を込めて、息も絶え絶えに相槌を打つ。

 朔夜からも『わかる』というメッセージが届いていた。真後ろで妹が同じ映画を見ていたことに、小雪は最後まで気付かなかった。


 とはいえよほどお気に召してもらえたらしい。気が良くなって、直哉はにこやかに言う。


「楽しんでもらえてよかったよ。このシリーズ他にもあるし、気に入ったなら今度見てみたら?」

「ほんと!? にゃんじろーの冒険がまだ見れるの!?」

「うん。いくつもシリーズがあるからさ。俺が好きなのはツチノコ帝国に拐われたお菓子の国のお姫様を助け出す話かなあ」

「なんでツチノコ……でも、にゃんじろーなら多分間違いなく面白いのよね?」

「もちろん面白いよ。それにお姫様がすっごく可愛くてさあ」

 

 シリーズの中でも屈指の人気キャラクターだ。健気で可愛くて、さらに有名声優が声を当てたため、随所の演技が涙を誘う。

 きっと小雪も気にいるはず。そう思って、しばしそのお菓子の国のお姫様の解説を続けてみたのだが――。

 

「……むう」

「えっ、なんでご機嫌斜め?」


 語り終える前に、小雪は何故か眉をちょっぴりひそめて唇を尖らせ、わかりやすい不機嫌顔になってしまう。

 そのまま目を逸らしながら、ぽそぽそと言うことには――。

 

「い、今は私とデートしてるんでしょ……アニメキャラとはいえ、ほかの女の子の話をするなんて……減点、なんだから」

「…………」

「えっ? な、なによ、黙るのやめなさいよ、ねえ?」

 

 言葉を失う直哉に、小雪がおどおどし始める。

 そんな彼女の手をそっと握り、直哉は真顔で言う。


「アニメのヒロインも悪くないけど……やっぱ俺は三次元の彼女の方がいいかな」

「ま、真顔でよくそんな恥ずかしいことが言えるわね!?」

 

 裏返った声で叫ぶ小雪だった。

 その頃にもなれば涙も落ち着いて、いつもの調子が戻ってきたらしい。

 空になった紙コップを突っ返し、小雪は腕を組んで居丈高に言ってのける。

 

「まったくもう。でもその心構えは立派だわ。直哉くんの今日の役目は私を楽しませることなのよ。下僕になったつもりできちんとエスコートし、な……」

「どうした?」

 

 セリフが尻すぼみになって、小雪が目を見張って黙り込む。


 彼女の視線を追えば、そこにあったのは映画館の隣に位置するゲームセンターだ。店頭にはUFOキャッチャーの景品見本なのか、キャラクターもののぬいぐるみがいくつか飾られている。


 なかには今し方見たばかりの映画のキャラクターもいて――。

 

「にゃんじろーだわ! 私ちょっと見てくる!」

 

 小雪は目を輝かせてゲームセンターへと小走りで吸い込まれていった。

 声をかける暇もなかった。

 残された直哉は頰をかいて苦笑するしかない。

 

「エスコートっていうか、これじゃ子守だな……」

「それもまたお義兄様の仕事だから」

 

 空いた隣の席に、朔夜がちょこんと座ってくる。小脇にはパンフレットやグッズを抱えていて、かなりの満喫ぶりだった。


 映画館の中ではカメラが使えないので、姉の姿を目に焼き付けていたのかと思いきや――しっかり映画を堪能したらしい。

 

「はいはい、もちろん俺が面倒見るよ。朔夜ちゃんももういっそ、ばったり会った風を装って一緒に行く?」

「ううん。私は壁とか床とか観葉植物だからお構いなく」

「あ、はい」

 

 カメラの設定などを弄りつつ、淡々と言う朔夜だった。いつもの無表情ではあるものの、戦場カメラマン並みの気迫がにじむ。


 しかしふと朔夜は小首を傾げて、直哉の顔をちらりと見やった。

 

「それにしても、お姉ちゃんは変わった。家族以外にあんなふうに素顔を見せるなんて、ちょっと前までは考えもしなかった」

「まあ、小雪はけっこう人見知り激しいもんなあ」

 

 その結果が『猛毒の白雪姫』だ。それが変わったのだとすれば――理由は一つしかない。

 直哉はニヤリと笑って朔夜に告げる。


「ほら、恋すると人は変わるって言うじゃん。これがいわゆる愛の力ってやつだよ」

「へえ、そうなの。びっくりね」

「……せめてちょっとはニッコリしてくれよ」

「この顔は仕様。諦めて」

 

 直哉から見てもピクリともしない無表情で朔夜は言う。完全なボケ殺しだった。居たたまれなくなって、直哉は腰を上げる。

 

「えーっと……それじゃ、もう行くな。可愛い彼女をエスコートしてくるよ」

「ファイト、お義兄様」


 朔夜はぐっと親指を立てて見送ってくれた。苦笑しつつその場を立ち去る直哉だが――。

 

「恋か……そんなにいいものなのかな」

 

 朔夜のしみじみした呟きが、少しだけ気になった。

続きは2月2日(日)更新します。

こんな前振りしつつも、もちろん朔夜と直哉にフラグは立ちません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物が魅力的すぎる。 [気になる点] クーデレとは… [一言] 朔夜はやらん。朔夜はやらんぞぉぉぉ!
[一言] 今日も小雪ちゃんが天然記念物レベルの可愛さ‥wそして朔夜ちゃんは忍者かな?w朔夜ちゃんの相手は一緒に推しカプの観察に付き合ってくれる人が良さそうですね╰(*´︶`*)╯ しんちゃん映画は昔よ…
[良い点] 二次元に嫉妬する小雪ちゃんは大層可愛らしいのですが 直哉くんがどうかは知りませんが、世の野郎どもには、 大抵二次元には嫁が何百人といることを知ったら卒倒しそうですね。笑 その娘たちを束ね…
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