即落ち二コマなクーデレヒロイン
窓口横で小雪の分を渡すと、ぶすっとした顔でそれを受け取った。
まじまじと見つめて……それからゆっくりと口を開く。
「ねえ、直哉くん。これは一応デートなのよね……?」
「えっ、今さら? もちろんそのつもりだけど」
「だったらこのチョイスはマイナスよ! 私たちは高校生なのよ!? それが初めてのデートで見る映画がお子様向けアニメとかありえないでしょ! それになによ、この間抜けな顔の猫は!」
「なにって、主人公のにゃん次郎だけど」
小雪がずいっと突き出してくるのは、もらったばかりのキーホルダーだ。
映画の主人公であるにゃん次郎――ジト目が特徴的な三毛猫の男の子である。よく言えば愛嬌のある顔立ちで、悪く言えばぼんやりした顔だ。
小雪はそれが不満なのか、キーホルダーを睨んだまま不服そうにぼやく。
「まったく信じらんない。せっかくのデートなのに……」
「でもこのまえ、似たような遊園地のマスコットに大興奮してたじゃん」
「あれはあれ、これはこれよ!」
「匙加減が難しいなあ」
とはいえ、子供扱いされているようで面白くないのだろう。
膨れっ面の小雪に、直哉は笑いかける。
「でもこの映画、大人が見ても面白いって評判でさ。キャラクター人気もすごいんだ」
「ほんとにー……?」
「ほんとほんと。それに小雪、猫好きだろ。こういうのも好きじゃないかと思ったんだけど……違ったかな?」
「ま、まあ、たしかに猫は好きだけど……」
そこで小雪は怒気を収め、キーホルダーを目の前に掲げてみせる。
ため息のようにこぼすのは「私のために選んでくれたんだ……」という小声だった。
やがて小雪はキーホルダーをぎゅっと両手で握りしめ、つんと澄ました顔をする。
「ふん、だったら許してあげるわ。せっかくだし、見てあげなくもないんだから」
「よかった。それじゃドリンクとか買ってから入ろうか。みんな泣いたって評判だから、小雪もハンカチの用意をしておいた方がいいぞ」
「はあ? こんな子供向けアニメで泣けるなんて、みんな粗末な涙腺をお持ちなのね。私は絶対泣いたりしないんだから」
そう言って、小雪は颯爽と歩き出す。
「これは即落ち二コマの気がする」
「フラグは迅速に回収されそうだなあ」
同じ映画のチケットを買ったばかりの朔夜とこっそり顔を見合わせて、直哉はしみじみするしかなかった。
かくして約九十分後。
ふたりそろって映画を楽しんで、親子連れの多い客たちに混じってシアターの外に出たとき――。
「うっ、うっ、うううう……! にゃんじろー……にゃんじろぉ……おかあさんにあえてよかったねえ……にゃんじろぉ……!」
小雪はボロボロと涙を流していた。
売店で買ったばかりのパンフレットを抱きしめて、手には最初にもらったキーホルダーをふんわり優しく包んでいる。
「やっぱりこうなったかー……はい、ハンカチ」
「うえっ……あ、ありがとぉ……」
直哉がハンカチを差し出すと、小雪はぐすぐす言いながら顔を拭う。
ハンカチがあっという間におしぼりのようにぐっしょり濡れた。
「あーあー、それ以上泣いちゃ脱水起こすぞ。ほら、水分取ろうなー」
「うん……もらう……」
直哉の残ったジュースを差し出すと、小雪は力なく飲んでいく。かなり憔悴しているため、落ち着くのを待った方がよさそうだった。
続きは1月31日(金)更新します。ひでえサブタイだ。






