王道デートスポットへ
まず最初に二人(と尾行するひとり)が向かったのは、ショッピングモールの三階だった。
壁に並ぶポスターを見て、小雪が首をかしげてみせる。
「……映画館?」
「うん、あれこれ考えたんだけどこれが一番ベタかなって」
映画デートなど、定番中の定番すぎて面白味に欠けるかもしれない。
だが、ふたりにとってはこれが初めてだ。
「こういう定番イベント、実は俺たちまだほとんどできてないだろ? だからいい機会だし、今日はそういうのをこなしていこうと思ってさ」
「ふ、ふーん、そう。殊勝な考え方ね、その、嫌いじゃないわ。うん」
尊大な物言いで、小雪はほんのり頰を染めてもごもごと言葉を濁す。
どうやらお気に召してくれたらしい。
「うん……?」
しかしそこで、直哉のスマホがぴろんと鳴った。そっと確認してみると、朔夜からのメッセージだ。
『お姉ちゃんを暗がりに連れ込んでどうするつもり? 薄い本展開?』
見回してみると、朔夜が柱の陰からじとーっとした目を向けていた。
「映画を見るだけなんだよなあ……」
「えっ、なに?」
「あ、なんでもない。ははは、こっちの話」
目を瞬かせる小雪に、直哉は爽やかに誤魔化した。
尾行を許可したのを早速後悔しはじめた。朔夜を睨む直哉に気付くことなく、小雪はそわそわと映画館のシアター入り口を見やる。
「まあ、変人のあなたにしては真っ当なデートプランじゃない。それで、見る映画はもう決めているの?」
「ああ、小雪が気に入りそうなのがちょうど一本やってるみたいだから」
「私が好きそうな映画か……」
小雪はそわそわとあたりを見回す。
壁には現在上映中の映画のポスターがずらっと並んでいた。
そのなかのひとつ――人気の若手俳優と女優が仲睦まじげに寄り添いあった一枚を指差して、小雪は得意げに言う。
「わかったわ、あの純愛ラブストーリーね!」
「違うなあ。ネットで見たけどあの映画、爽やかそうな見た目に反して十八禁のスプラッターサスペンスらしいから。あのふたりが二時間の尺をたっぷり使って殺し合うとかなんとか」
「さ、詐欺じゃないそんなの……えっ、それじゃあれ? 海辺でカップルが抱き合ってる海外映画?」
「あれも違う。あっちはZ級サメ映画で、あまりに酷い脚本とお粗末なCGで『金返せ!』って絶賛炎上中。そういうマニアからはめちゃくちゃ好評らしいけど」
「ろくな映画やってないわね、ここ……」
小雪はげんなりと眉をひそめてみせる。
そのままあちこち見回すが、とあるポスターを目にして「ぴゃっ」と小さく悲鳴を上げた。
「そ、それじゃ、まさかとは思うけど……そっちの、お化けのやつ……!?」
「いや、小雪はああいうのダメだろ。デートでトラウマこさえちゃ可哀想だし、あれも違う」
「だ、ダメなわけないでしょ、あんなの作り物じゃない。お化けなんて幼稚園で卒業しただけよ」
血塗れの女性が真正面を睨み付けているポスターから、小雪はしっかり目を逸らしつつ強がってみせる。
しかし、それで候補はなくなってしまったらしい。
訝しげに眉をひそめて首を捻ってみせる。
「じゃあ、いったい何を見るつもりなの?」
「うん、それじゃチケット買いに行こうか」
そういうわけでふたり揃って窓口に向かう。
係のお姉さんに向かって、直哉は堂々とそのタイトルを口にした。
「『にゃん次郎のドキドキ大冒険・母を訪ねて三万光年』、高校生二枚お願いします」
「かしこまりましたー」
「お子様向けアニメ映画!?」
背後で小雪が悲鳴のような声を上げたが、係のお姉さんは動じることもなく映画のチケットとおまけのキーホルダーを人数分用意してくれた。
続きは1月29日(水)更新予定です。
あと四回か五回分あるのでお付き合いください。






