表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/212

デート前からテンションが上がる

 そんな小雪のことを、直哉は頭の先からつま先まで、じーっと見つめてから顎を撫でる。


「あれ、その服は見たことないかも。新しい服?」

「えっ、そ、そうだけど……この前お出かけして、買ってもらって……」


 小雪は恥ずかしそうに頰を染めてもじもじとする。

 今日はすこしシックな落ち着いた出で立ちだ。

 丈の短い黒いワンピースに、白レースのボレロ。


 いつもより大人びた服装で、可愛いというより大人っぽい。小ぶりなアクセサリーや髪飾りも上品で、直哉よりも年上に見える。

 あまり見たことのないタイプの格好だ。


 それに直哉は朗らかに感想を伝える。

 

「すごく似合ってる。やっぱり小雪はセンスいいなあ」

「はあ……? こんなの普通でしょ。休日に女の子とお出かけしたこともないのかしら。非モテさんはこれだから嫌ね」

 

 小雪はつーんと澄ました顔で毒を吐く。

 よく手入れした髪を人差し指でくるくるしたり、爪先で地面をとんとんしたり。あからさまに浮き足立っているのが見てとれた。おしゃれを褒めてもらえて嬉しいらしい。


 そういうわかりやすいところも可愛いなあ、と思えるし――。

 

「うん。すごく可愛い。いつもより大人っぽいって言うのかな、新鮮ですごくいいと思うよ」

「えっ……そ、それは言い過ぎなんじゃ……」

「そんなことないって、モデルさんみたいだ。こんな可愛い子と丸一日デートできるなんて光栄だなあ。今日はよろしくな、小雪。全力でエスコートさせてもらうから」

「うぐっ、う、ううう……!」


 小雪はぷるぷる震えてうつむいてしまう。

 しかしすぐにバッと踵を返して逃げようとするので、直哉は慌ててその手をつかんで引き留めた。

 

「こらこら、どこ行くんだよ」

「帰るの! 私無理! こんなの無理!」

「無理って……まだデートも何も始まってもないだろ」

「始まらなくていいの! これ以上は身が持たないわよ!」

 

 小雪は涙目で直哉をにらみつけ、悲痛な声で叫ぶ。

 デートだというのに、まるで捕虜になったかのような反応だ。そのまま彼女はしゃがんでしまい、頭を抱えてため息をこぼす。

 

「恋人らしいことがしたいとは言ったけど、意識するとダメなのよぉ……恥ずかしくて死んじゃいそう……」

「自然でいいと思うんだけどなあ」

 

 直哉は肩をすくめるだけだ。

 だが、小雪の言い分も理解できる。これがカップルになって初めてのデートなのだし、これまでと別種の緊張があるのだろう。


(つまり裏を返せば、俺のことを意識しすぎなくらい意識してくれてるってことで……?)


 もうそれだけで直哉の心は踊っていた。デートもまだ始まっていないのに、テンションは無駄に上がっていく。

 とはいえ、だからといってここでデートをやめるわけにはいかなかった。小雪の顔を覗き込み、子供を諭すような柔らかな声で語りかける。

 

「でも俺は小雪と恋人デートしたいなあ。だって、ずーっと楽しみにしてきたし」

「うぐっ……」

「この前の遊園地だとエスコート合戦みたいになったけど、今回は俺が丸っと請け負う番だから。小雪に楽しんでもらえるように計画も立ててきたんだけどなあ。あーあー、デートしたいなー」

「うううううっ……!」

 

 シンプルな泣き落とし作戦である。

 自分でも雑なセリフ読みだと思うが、小雪には効果覿面だったらしい。しばし顔を真っ赤にしてぷるぷると震えて――観念したように肩を落としてみせた。

 

「わかった、わかったわよ。デートしてあげようじゃない。そのかわり……」

 

 そこで小雪は勢い付けるようにして、直哉の鼻先にびしっと人差し指を突きつける。

 

「ちょっとでもつまんないと思ったらすぐに帰るから。せいぜい私を楽しませることね!」

「『エスコートされるなんて、なんだかお姫様みたい……! 直哉くんってば、どんなデートにしてくれるのかしら……ちょっとワクワクしちゃうかも!』って?」

「言ってないわよ! 私のセリフ量の倍翻訳するのやめてくれる!?」


 小雪はつんけんしながらも直哉の隣に並んで歩き出す。

 口振りは剣呑なものだが、その足取りはわりかし軽い。

 そんなふたりの後を朔夜が物陰に隠れながらついてきて――彼女の妹同伴の、奇妙なデートが幕を開けた。

続きは1月27日(月)更新予定です。

ブクマや評価ありがとうございます!お楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 小雪さん可愛い(*゜▽゜*)
[良い点]  この、甘くて緩い感じ。やっぱり好きですわぁ [一言]  毒リンゴver.の白金ちゃんのセリフとデレデレの心情···。とても、いいっ!!  デート(完全版)が楽しみです
[一言] 待ってました! 直哉君のデートプラン楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ