デートで食事中にするベタなこと
「まあそれはさておき。何食べる?」
「そ、そうね……」
メニューを手渡せば、小雪は真剣な顔で悩み続ける。
コンセプトレストランなだけあって、マスコットキャラクターたちにちなんだメニューが多かった。サメが泳ぐカレーライスだったり、クマの人形が飾られたローストビーフ丼だったり。
「むう……やっとふたつに絞ったけど、どっちにしようか迷うわね……」
「どれとどれ?」
「えっとね、これなんだけど……」
メニューを広げて指差すのはオムライスだ。
お昼寝しているトラに卵の布団をかけたような形で、片方はデミグラスソースが、もう片方にはホワイトソースがかかっている。
さらに寝ているトラも微妙に造形が違っていた。
小雪はへにゃりと眉を下げつつ、ぼそぼそと言う。
「これね、とらくんと、その恋人のとらこちゃんなの……どっちも可愛いし……悩むところだわ」
「だったらふたつ頼めばいいじゃん」
「えっ、でも、お腹いっぱいになっちゃうし……残すのも悪いじゃない」
「そうじゃなくて、俺と半分ずつすりゃいいんだって」
「へ」
小雪は目を瞬かせる。
「で、でも、直哉くんはほかに食べたいものがあるんじゃ……」
「俺もオムライス好きだから気にすんなって。すみませーん、注文いいですかー」
「はーい。お待ち下さいませー」
「あわわ……」
やがてほどなくして、注文の品が運ばれてきた。
直哉を付き合わせるのに申し訳なさそうにしていた小雪だが、その二品を見てぱあっと顔を輝かせる。
「か、かわいい!」
「うん。たしかにいい感じだな」
仲良く卵の布団で眠るトラ猫二匹。
メニューに載っていたとおりの料理を前にして、直哉もおのずとテンションが上がる。
とはいえ小雪とは比べものにならないだろう。
目を輝かせて皿を回し、三百六十度でその可愛さを堪能している。それを見ると、連れてきてよかったなあ……としみじみ思えた。
(桐彦さんたちにもお土産買わないとなあ……)
帰りに三人分のお土産、と脳内にメモしておく。
そんな中、小雪はバッグからいそいそと携帯を取り出した。
「ありがとね、直哉くん。ねえねえ、写真を撮ってもいいかしら?」
「ああ、どうぞどうぞ。こんな感じで並べりゃいい?」
「うん! よいしょっと」
「へ?」
なぜか小雪は席を立ち、直哉の隣にやってくる。
そうして腕同士が密着するくらいくっついて――。
「はい、ちーず!」
インカメラにして、料理と自分たちとをぱしゃりと撮った。
画面を確認し、小雪はますます顔をほころばせる。
「えへへ……あとで待ち受けにしないと。あっ、直哉くんは撮らないの?」
「あ、はい。それじゃ遠慮なく……」
「? その角度だと、お料理入ってないでしょ?」
小首をかしげる小雪のことを、直哉は真顔で連写した。
今のは凄まじい破壊力だった。桐彦たちへのお土産をグレードアップしないといけないな……と静かに決意する。
そのまま小雪は元の席に戻るのかと思いきや――。
「……半分こするなら、隣で食べた方がいいかしら?」
うかがうように直哉の顔をのぞきこみ、そんなことを言い出したのだ。別に向かい合ったままでも料理のシェアは可能だ。単に戻りたくないだけなのだと一瞬でわかった。
おかげで直哉は天を仰ぐしかない。
「俺……これからあの三人に足向けて寝られねえや……」
「なんの話?」
「完全にこっちの話。うん、並んで食べような」
「うん!」
小雪は満面の笑みでうなずいてみせる。
もうすでにその笑顔だけで、直哉はお腹いっぱいだった。学校でもこうやって隣同士でお弁当を食べることもあるが、今日はデートということもあって破壊力がましましだ。
スプーンを手にして、どこから食べようか悩む小雪も可愛いし――。
(あっ、ちょっと待て。これはベタなことをするチャンスでは?)
デートで、隣に並んで食事をする。
そんなシチュエーションなら、やることはひとつだ。
直哉もそっとスプーンを手にして、ホワイトソースのかかったオムライスをそっとすくう。そうしてそれを小雪に向けた。
「なあに?」
「はい、あーん」
「へうっ!?」
きょとんとした顔が、一瞬で真っ赤に染まった。






