遊園地へいざ出陣
祈りが通じたのか、その日は気持ちのいい快晴となった。
晴れ渡った空には雲ひとつなく、強い日差しが肌を焼く。
それでもまだ夏本番には遠いため、湿気が少なく、気持ちのいい陽気が満ちる。
つまり絶好のお出かけ日和だった。
「おお、すごい人だなあ」
遊園地のゲート前で、直哉は感嘆の声をこぼす。
開園すぐという朝早い時間帯ではあるものの、あたりは人でごった返していた。はしゃぐ子供も多く、見るからに明るい空気が満ちている。
おまけにゲートの向こうからは楽しげな音楽がかすかに聞こえてきていた。
門を隔てたこちらとあちらで、まったくの別世界が広がっているように錯覚する。
事前に下調べしておいたので、当然このゲート付近のことも写真で見て知っていた。
だが、実際に肌で感じるのはまったく別物だった。
柄にもなくワクワクしていたところで――。
「ふふ、はしゃいじゃって。まるで子供みたいね」
「は?」
澄ました声に振り返ると、小雪がくすくすと笑っていた。
今日は一段とおめかしだ。
花柄の白いミニ丈ワンピースに黄色のカーディガンを羽織り、足元はおろしたての動きやすそうなスニーカー。手にした小さなカゴからは、遊園地のパンフレットがのぞく。
髪は黒いリボンで飾っているし、ほんのりとお化粧までしている。デートに挑むには万全の装備だ。
直哉以上に大はしゃぎしそうなものを……なぜか小雪は平然としている。
まるで子供の付き添いでやってきたお姉さんのような……冷めた目を直哉へ注いでいる。『猛毒の白雪姫』の再来だ。
おかげで直哉は首をひねるしかない。
「え、なに急にクールキャラを気取りだしたんだよ。いまさら手遅れなんだけど?」
「手遅れとか言うんじゃない!」
びしっと一喝して、小雪はふんっと鼻を鳴らす。
「私ももう高校生だもの。遊園地ではしゃぐ年じゃないってわけ」
「あー。なるほど」
直哉はぽんっと手を打つ。
「テンション上がりすぎてやばいから、ブレーキかけてるんだな」
「ぐうっ……!」
どうやら完全に図星だったらしい。
小雪はぐらっと揺れてから、真っ赤な顔でうつむいてしまう。
人差し指を突き合わせて、ぽつぽつ言うことには――。
「だってだって……こんなの心臓が保たないんですもの……ドキドキするし、わくわくするし……」
「うん。それは知ってた」
今朝は小雪の最寄り駅まで迎えに行って、そこから三十分ほどふたりで仲良く電車に揺られてここまで来た。
その間、小雪はずっと上の空だった。
緊張と期待で胸がいっぱいなのはひと目見てわかったし、落ち着くまで直哉もそっとしておいたのだ。どうやらその短時間の間で、虚勢を張ることを選んだらしい。
だから直哉はやんわりと笑う。
「どうせ俺しか見てないんだから。好きにはしゃげばいいんだよ」
「……子供っぽいって、呆れたりしない?」
「まさか」
不安げな上目遣いに、直哉は肩をすくめてみせる。
「むしろテンションが限界まで上がった小雪を見てみたいかな。せっかくなんだし、ふたりで全力で楽しもうぜ」
「あ、あなたがそう言うなら……うん。わかったわ」
小雪は決意を込めるようにうなずいてみせた。
まだすこし表情は固いが――それでも、瞳にはキラキラした光が宿る。
直哉の手……ではなく袖をそっと握って、ゲートを指し示して小雪は笑う。
「だったら早く行きましょ! 予習はもう完璧なんだから!」
「奇遇だなあ。俺も下調べしてきたんだよ」
かくしてふたりは遊園地へ足を踏み入れた。
予習もイメージトレーニングも万全だ。これはただのデートではなく……直哉にとって一世一代の勝負になるだろう。
(今日こそちゃんと告白して、返事をもらうんだからな……!)
うきうきはしゃぐ小雪を横目に、直哉はぐっと拳をにぎるのだった。






