仁義なき戦いの幕開け
「ま、そういうわけだからさ。俺は家事を片付けてるから、小雪はみんなと楽しんでてくれよ」
「むう……それはそれで寂しいんだけど」
眉をへの字に曲げて、小雪は小さくこぼす。
そんな顔をされて放っておけるはずもなかった。しばし直哉は思案して――ぽんと手を打つ。
「じゃあこうしよう。俺と小雪がチームを組むんだ。それで五回に一回くらい、俺が攻撃に回るってことで」
「っ……それならいいかも!」
途端に小雪がぱあっと顔を明るくする。
「ふふ、共同作業ってやつね。直哉くんがいるなら百人力だわ」
「お、おう……」
共同作業という単語に、結婚式のケーキ入刀を連想して、おもわず言葉を詰まらせる直哉だった。
小雪には他意はまるでなさそうだし、気付いてもいないようだった。
「ふーん。そんじゃ俺たちもタッグを組むか?」
「そうだねえ。私たちは勝率とんとんだし、交代でいいかな」
巽と結衣も流れで手を組むことになった。
そうなると直哉チームと巽チーム、そして桐彦の三つ巴になるかと思いきや――。
「ふふ、話がまとまったようね。それじゃ……もっとゲームを熱くしちゃおうかしら!」
あぶれた桐彦は、待ってましたとばかりにニヤリと笑う。
そうして懐から取り出したのは――一通の白い封筒だった。
「じゃーん! 遊園地のペアチケットよ! 勝ったチームにプレゼントしちゃう!」
「っ……!」
それに、直哉は雷を受けたような衝撃を覚えた。
隣の小雪もハッと大きく息を飲んだ。
「そ、それって隣の県に最近できたとこ?」
「うわ、しかも優先券付きじゃん。並ばなくてもジェットコースターとかに乗れるんだろ」
「そうよー。大盤振る舞いしちゃうんだから」
はしゃぐ巽と結衣にウィンクして、桐彦はチケットに軽く口付けする。
「出版社のパーティでもらったものなんだけどねえ。気付いたらもう期限も近いし、行く相手もいないし……あんたたちにあげちゃうわ」
「なあ、桐彦兄ちゃん……俺ら以外に友達いねーのか?」
「真正面から痛いとこ突いてくるんじゃないわよ! 自営業が平日気軽に遊んでもらえる相手なんて、学生のあんたたちくらいしかいないのよ! 悪い!?」
物悲しげにツッコミを入れる巽のことを、桐彦はキッとにらみつけた。
三人がわいわい騒いで盛り上がる中、直哉は膝の上でこぶしをにぎる。
(遊園地って……デートのど定番ルートじゃねえか!)
好きな女の子と遊園地に行く。
ほとんどの男子にとって、最高に憧れのデートだろう。
(つまり告白にもうってつけ……! これはもう、勝つしかない!)
闘志をガンガンに燃やしたところで、ふと隣の小雪のことが気になった。
横目で見やれば、彼女は桐彦の持つ封筒をじっと見つめていた。その目は真剣そのものだ。そこから伝わるのは――直哉が先ほど抱いたのと同質の熱で。
直哉はこっそりと小雪に問いかける。
「……ひょっとして同じこと考えてた?」
「なっ……! なんの話かしらね!?」
小雪は真っ赤な顔でしらを切った。
完全に肯定したも同義だが……それをわざわざあばき立てるほど直哉は野暮ではない。
(でもそうか、小雪も同じ気持ちなのか……)
直哉がそれを噛み締めていると、小雪もそれに気付いたらしい。
直哉の目をしっかり見つめて――決意を込めるようにしてうなずいてみせる。
ふたりの心は一つだった。
どちらからともなく右手を差し出し、ぎゅっと強く握る。
「よし、やるぞ! 勝ってふたりで遊園地デートだ!」
「もちろんよ! 全力で勝利を掴みましょ!」
すべては最高のデートと――最高の告白のために。
そんなふうに決意を固める直哉たちを横目に、桐彦はやんわりと笑う。
「それじゃあ、シンプルなルールの方がいいわよねえ。えーっと、そうなると……あっ、これとかいいかも」
そばのタンスをガサゴソとあさり、取り出したるは――。
「じゃーん、ごきぶりポーカー!」
「ごっ、ごきぶり!?」
そのタイトルに、小雪がぎょっと声を上げた。






