ボードゲームでわいわい遊ぶ
そんななか、桐彦は「そうだわ」と手を叩く。
「せっかくだし、今日は初心者の小雪ちゃんでも遊べるようなシンプルなゲームでもやりましょうか。頭数もいるし」
「ええっ、私、こんなゲームで遊ぶの初めてなんですけど……うまくできるかしら」
「大丈夫よぉ。ルールはちゃんと説明するから」
「は、はい。がんばります」
小雪はこぶしをにぎって意気込んで、直哉にびしっと人差し指を向ける。
「ふふん、直哉くんにだけは負けないんだから。見てなさいよね。いつもやられっぱなしの分、ゲームでコテンパンにしてあげるんだから!」
「ああいや、俺はパス」
「へ?」
不敵な笑みを取り払い、小雪は目を丸くする。
「な、なんで? お仕事があるから?」
「そういうわけじゃないけど……」
今日のノルマは洗濯と台所まわりの掃除だ。すこしくらいなら息抜きしても問題無い。
だが、直哉はゲームに参加できない理由があった。
それを説明するより早く――小雪が直哉の袖をちょこんと摘まむ。
「直哉くんは、私と一緒に遊んでくれないの……?」
「……遊ばせていただきます」
うるんだ上目遣いでそんなことを言われたら、抗うすべはなかった。
「えっ、あなたたち、いつの間に下の名前で呼びあうようになったのよ。そこ詳しく。具体的にはシチュエーションと、それに付随する感情の変化も」
「自作で使う気満々じゃないっすか。言いません」
「えー」
ぶーっと口を尖らせる桐彦だった。
話したが最後、確実に次の新刊で使われることだろう。自分たちのイチャイチャが全国流通するのは全力で避けたかった。
直哉の意思が硬いとわかったのか、桐彦はそれ以上追及しようとはしなかった。
そのかわりに、玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべてみせる。
「それじゃあ笹原くんもやる気みたいだし、心理戦ゲームでもしましょうか」
「よりにもよってそのチョイス……まあでも、そしたら白金さんも分かってくれるだろな」
「わー、久々のクソゲー大会だね!」
「な、なにが?」
奇妙な盛り上がりを見せる三人に、小雪は首をかしげてみせる。
そんな彼女に――直哉はさわやかな笑みを向けるのだ。
「そんじゃ、やるからには本気でいくから。よろしく、小雪」
「はあ、よろしく……?」
きょとんとする小雪だった。
そこから桐彦含めた五人で、さまざまなボードゲームをプレイした。
ワンナイト人狼、ラブレター、髑髏と薔薇……エトセトラ。エトセトラ。
どれもこれも読み合いが行われる心理ゲームだ。
それらを順番にこなしていき――最終的に小雪が叫んだ。
「ひどい……! こんなのあんまりだわ……!」
「ほら、だから言ったじゃん」
ちゃぶ台にわっと突っ伏す小雪の背を、直哉は雑にさする。
ゲームは直哉の全戦全勝で終わった。
小雪はコテンパンにされる側で、一切攻勢に転じる暇もなく完膚なきまでに負かされたため、今の不貞腐れモードである。
巽たちも恨みがましい目を直哉に向ける。
「おまえさあ……ラブレターの一ターン目ノーヒント状態で兵士使って刺してくるんじゃねえよ。なんで俺の持ち札がわかるんだっての」
「人狼も話し合う前に当ててくるしね……やっぱりクソゲーすぎるよ」
「ブラフかけるのも上手いし、ほんと天賦の才よねえ」
頰に手を当てて、ため息をこぼす桐彦だった。
直哉がゲーム不参加を宣言したのはこういう理由である。
ボードゲームは、えてして相手の心を読むものが多い。つまり直哉の得意分野だ。
「運オンリーのゲームなら、まだ負ける余地があるんだけどなあ。手加減するのもそれはそれで悪いし、結果的に無双しちゃうんだよ」
「ううう……だからっておとなげなさすぎる……」
「あはは、ごめんごめん。小雪の反応が可愛くて、ついついやりすぎちゃった」
「ぐうっ……そ、そんなこと言ったって許してあげないんだから!」
ふんっ、と小雪は頬をふくらませてそっぽを向く。
それがまた可愛くて、ますます虐めたくなる直哉だった。
(おかしいなあ……そんな性癖なかったはずなのに。小雪がかわいいのが悪いよな、うん)
直哉が己の性癖を見つめ直しているうちに、巽たちはひそひそと話し合う。
「でも直哉のやつ、外国のカジノとか行ったら大儲けできそうだよなあ」
「あら、ダメに決まってるでしょ。イカサマを疑われて、怖いお兄さんたちに連行される破滅ルート待ったなしよ」
「あ、私それ知ってる! そのままえっちな調教されて、最終的にイケメン鬼畜カジノオーナーの情夫にされちゃうやつだ!」
「なんでBLルートなんだよ」
「しかも、そこそこハードなやつね」
なぜか目を輝かせて語る結衣に、男性陣は白い目を向けるのだった。






