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カレーの味と重大命題

「それじゃ、早速……いただきまーす」

「いただきます!」

「まーす」

 

 三人そろって手を合わせ、いっせいに食べ始める。

 ひと口すくって口に入れてもぐもぐしてから――小雪は目を丸くした。

 

「あっ、ほんとにカレーだわ」

「何を作ってると思ってたんだよ」

「だってだって、初めて料理したのに、ちゃんとカレーができるってすごいことでしょ? ふふん、やっぱり笹原くんを呼んで正解だったわね」

「うん。私たちだったらコンビニの弁当一択だった」

「まあ、それも手軽でいいけど……自炊もなかなかいいもんだろ?」

 

 直哉もカレーをぱくつく。

 にぎやかな食卓は久々だ。桐彦も少し前まで仕事が忙しかったので、邪魔にならないように食事は自宅で取るようにしていた。

 おまけに今日は好きな子が作ってくれたカレーだ。

 いつも食べているはずの市販の味が、いっそう特別なものに感じられた。 

 

「たくさん作ったからどんどん食べてくれよ。残ったら明日のお昼にカレーうどんとかドライカレーにしてもいいし」

「残り物でアレンジってやつね! でもそんな高度なこと、私たちにできるかしら……」

「レシピをメモしておくよ。白金さんや朔夜ちゃんでもできるくらい、簡単なやつにするからさ」

「それなら安心ね。明日こそは手伝いなさいよね、朔夜……朔夜?」

「むーーーーーん」

 

 朔夜は難しい顔をして唸る。

 カレーが気に入らなかったのかと思ったが、一定のスピードで食べ続けていた。彼女はジト目を直哉に向けてくる。

 

「お義兄様、私のことは『朔夜ちゃん』って呼ぶよね」

「へ? それがどうかしたか?」

「私のことは下の名前で呼ぶのに、お姉ちゃんを未だに名字呼びなのはおかしいと思う」

「うーん……まあ、たしかにそうかもな」


 実を言うと、直哉もそこはちょっと気になっていたのだ。

 

(いまいち変えるタイミングを見失ってたんだよなあ……)

 

 呼び方を変える前に、距離ばかりがぐいぐい縮まってしまった。

 ちらりと小雪の様子をうかがってみると――。


「やっぱり、名前で呼んだ方がいい?」

「へうっ!? べ、別にかまわないわよ。呼び方なんてなんでも」

 

 小雪は平然と――だが、わかりやすく動揺しつつ――水を飲む。

 その態度がありありと『なまえでよばれたらはずかしくてうれしくてしんじゃうかも……!』という思いを物語る。


 ……だったら、これはいい機会かもしれない。

 かねがね呼んでみたかったその名前を、そっと舌に乗せてみる。

 

「…………小雪?」

「ぶふーーーーーっっ!」

 

 小雪が勢いよく水を吹き出して、キラキラした滴が散った。

 直哉は慌てて駆け寄り、その背中をさする。


「ご、ごめん。急だったよな? やっぱりもうちょっと段階を踏んでから――」

「な……」

「な?」

「直哉、くん」

「ぐはっ……!?」


 小雪が真っ赤な顔で、蚊の鳴くような声で絞り出したため、今度は直哉がくずおれる番だった。

 床に沈むふたりを前にして、朔夜はやはり一切表情を変えなかった。代わりに携帯をかまえて、鬼のような連写を続ける。

 

「新鮮な供給をありがとう。私、しばらく部屋に戻った方がいい?」

「気を使わなくていいから!」

「むしろいてちょうだい!? ふたりっきりだと耐えられないから!」

「そこでヘタれるところもさらにグッドだよ、ふたりとも」

 

 ぐっと親指を立てて、朔夜は熱いファンコールを送るのだった。

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