好きな子へはグイグイいくけれど
まさに青天の霹靂だった。
直哉だけでなく、小雪もぽかんと目を丸くする。
そんなふたりを前にして、朔夜は相変わらずのポーカーフェイスで平板な声で続けた。
「私、こう見えてお菓子作りが得意なの。うちに遊びにきてくれたらご馳走してあげる。そのあとはいくらでもお姉ちゃんとイチャイチャしていいから。どう?」
「いやあの、魅力的なお誘いだけど……」
直哉はたじろぐしかない。
お誘いの内容自体は、すぐにでも飛びつきたくなるくらい魅力的だ。
だがしかし、それには重大な問題がある。
「白金さんは……どう?」
「えっ……!?」
「俺、君の家に遊びに行ってもいいかな?」
好きな子の家に行くなんて、心臓がいくつあっても足りないイベントだ。
ならば小雪にとってもドキドキするイベントに違いない。
小雪は真っ赤な顔になりつつも、うつむき加減でぽつりと尋ねる。
「え、えっちなこと、しない……?」
「しません」
「ほっ……」
直哉が即答すると、小雪はあからさまに胸をなでおろしてみせた。
この前ふたりきりになってから妙に意識しすぎるところがある。
なので直哉は改めて彼女に向き直り、堂々と告げるのだ。
「俺はその、好きな子には真正面から好意を伝えてグイグイいくタイプだけど……そういうのは、じっくり段階を踏んでいくから」
「ほ、ほんと……?」
「うん。嫌がるようなことはしないって約束する」
健全な男子高校生なので、好きな子とどうこうしたいという欲求は当然持っている。
だが、相手の意思をちゃんと確認せずに手を出すような男でもない。好きな子だから大事にしたい。当然のことである。
しかし一方で朔夜が「えー」と不服そうな声をあげるのだ。
「そういうのも含めて、もっとグイグイいけばいいのに。いまさら草食系を気取らないで欲しい」
「なんだよその反応は。白金さんに『男と二人っきりになるな』って言ったのは朔夜ちゃんだろ」
「もちろん言った」
朔夜は無表情のまま、こくりと一つうなずく。
「そういうのはふたりきりの時じゃなく、私がそばにいるときにしてほしいから。恥ずかしがるお姉ちゃんをこの目に焼き付けたいの」
「そういう意味かよ!? そんな高度なプレイ絶対にやらねーからな!」
「そんな……私はただ、推しカプのスケべが見たいだけなのに」
可愛くしょんぼりしつつ、邪悪なことを言ってのける朔夜だった。
小雪は「おしかぷのすけべ……?」と小首をかしげている。意味が理解できていないらしく、直哉はホッとした。
ともかく小雪はごほんと咳払いをして、あらためて切り出す。
「えっと……そういうことならいいわよ。家に来てもらっても」
「あ、ああ。ありがとう」
おずおずと許可を出してもらえたので、直哉もまたガチガチになりながら頭を下げてみせた。
好きな子の家にお邪魔するという人生初の重要ミッションがこうして発生した。
(白金さんの家か……緊張してきたな……)
やっぱり可愛いぬいぐるみが置いてあったり、いい匂いがしたりするのだろうか。こういう場数はあまり踏んでいないため、口から心臓が飛び出しそうなほどにドキドキした。
「それじゃ土曜でいい? お姉ちゃんもお菓子作り手伝ってね」
「仕方ないわね。ママにも言っておかないと……あ」
相談しあっていた白金姉妹だが、不意に小雪がハッとおし黙る。
そうして渋い顔で言うことには――。
「……たぶん今週のお休み、パパがいるわよね」
「あー……」
「パパさん?」






