白雪姫の意外な一面
とはいえ、申し出は非常にうれしい。
直哉は苦笑しつつ、人参とピーラーを小雪に手渡す。
「じゃあこれ、皮を剥いてくれ。それくらいならできるだろ?」
「う、うん。包丁はちょっと怖いけど、これならなんとか」
「よし、じゃあ任せた。気をつけてな」
小雪は真面目な顔でそれらを受けとって、直哉の隣の流しに立つ。ちょっと手つきはぎこちないが、仕事は丁寧だ。
それを横目で見守りつつ、直哉は内心で首をかしげる。
(ありゃ、意識してるのは俺だけか……? 白金さんは普通だなあ……)
ひとつ屋根の下で好きな人とふたりきり。
直哉以上にドギマギしそうなものだが、小雪には一切そんなそぶりがない。じーっとその横顔を見ていて……ふと気付く。
「あっ、なるほど。気付いてないのか」
「なにが?」
「……いや、なんでもないです」
きょとんと首をかしげる小雪に、直哉は苦笑する。
どうやら今日は情報量が多すぎたせいで、頭が上手く回っていないらしい。
(うん、できたらこのまま気付かずいてほしいな……)
直哉ひとりがドギマギするだけなら問題無い。
だが、小雪までそうなってしまうと……確実にまずい空気になるだろう。直哉としてはそんなつもりは毛頭なかったが、『いかがわしいことをするために連れ込んだ』と思われても仕方ない。
ビクビクする直哉に反して、小雪は自然体だ。手元に目を落としたまま口を開く。
「ところで笹原くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「な、なんでしょうか……」
「なんで敬語?」
小雪は首をかしげつつも、ぽそぽそと続ける。
「その……お料理ができない女の子より、できる女の子の方がいいわよね……?」
「は?」
直哉は目を瞬かせる。
「いや……別にどっちでもいいと思うけど。なんでまた?」
「で、でも、やっぱり男の子なんだし、彼女にお手製のお弁当とか作ってもらいたいって思ったりするんでしょ……?」
「まあ、そりゃちょっと憧れではあるけどさ」
不恰好なおにぎりとか、ちょっと焦げた卵焼きとか……そういう不慣れなメニューの詰まったお弁当を、照れ臭そうに渡される。男の夢といっても過言ではないだろう。
そこは素直に認めつつ、直哉はゴボウを洗っていく。
「得手不得手は人それぞれだと思うからさ。料理ができないからって別にどう思ったりもしないって」
「ふん。単にあなたができるのに、私ができないことがあるっていうのが嫌なだけよ」
小雪はつーんと澄ました顔で言ってみせる。
それは素直な本心らしい。負けず嫌いなところも可愛いなあ、なんて直哉は内心噛みしめる。
「ふふん、今以上にお家のお手伝いをしてすぐにマスターしてみせるんだから。見てなさいよ、いつかお弁当とか作って見せびらかしてあげるわね」
「いや、見せびらかすだけかよ」
「食べさせてもらいたいのなら、ちゃーんとおねだりすることね。私の足元に跪いて、足でも舐めてくれるっていうのなら考えてもいいわよ」
「俺、マジでやるけどいい?」
「…………よくないです」
しゅんっと真っ赤になる小雪だった。
反撃されるのが予想できるはずなのに、こういう挑発をやめないのは何故なのだろうか。
(ひょっとして白金さん、俺に反撃されるのが好きだったりするのか……?)
もしかすると、ちょっとMっぽいところがあるのかもしれない。






