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いつ来る時の月夜まで  作者: 蒼華零
第一章
9/53

過去話(3)

ち、違うんです!文字数少なめでクオリティも低めなのは日本海より浅く、箱根山より低い理由がありまして…ハイ、サボってました。次はしっかりさせていただきます…

月夜が城にやってきて、二ヶ月が経った。そして、訓練場には模擬剣同士で打ち合う、月夜とルミナリアの姿があった。


「遅いよ、ゲツヤ。もっと集中して」


「はい!」


この調子で3時間(・・・)ほど、月夜はルミナリアから手解きを受けていた。しかし、いかに無限体力お化けこと月夜であっても、3時間も続ければ集中力も削られるというものだ。


月夜は今一度深く集中すると、剣をしっかりと握りしめて振るい始める。しかし、その悉くはルミナリアによって叩き落とされ、ルミナリアにはついででこちらの脇腹なりを剣で小突いてくる余裕まであるのだ。勝つことはできないと確信するほどの実力差がある。でも不思議と、この打ち合っている時間は楽しいと思った。しかし、そんな時間は終わりを告げてしまった。


「ゲツヤ。そろそろ食事の時間だから、一旦訓練はやめて、ご飯を食べよう。シャワーを浴びた後だけどね」


「わかりました。シャワー室B使っても大丈夫ですか?」


「うーん、どうしよっかな〜」


「なんで迷ってんの?迷う要素ないよね?」


月夜は師匠としてのルミナリアを相手にする丁寧な口調から友人としてのルミナリアを相手する遠慮のない口調へと変化させた。これは敬語を使うな、というルミナリアの意見と師事してくれる人間には敬意を払って然るべき、という月夜の理念の折衷案である。


「いや、ふふっ、ね?」


「なに?不気味なんだけど。こわ」


「ゲツヤも男の子だし、乱入したら面白いかなーって」


「ルミナリアって相当な馬鹿だろ、実は。馬鹿なんだろ?俺にはわかる」


「なにをー。私は学院で主席だったんだぞ」


「ダメそう。すでにダメそう。それよりさっさと身体流して飯食おうぜー。腹減った」


「あ、じゃあ先に使わせてもらおうかな。女の子が入った後のシャワーだぞ〜。喜びたまえ」


「………」


「そんな冷えた目で見ないで、凍えちゃう」


「勝手に凍えててください」


「ふえーん、ゲツヤの人でなしー」


「人外クラスの人間がなんか言ってら」


「ちょっと、それを出すのはずるくない?」


「ずるくない。当たり前。というか行くならシャワー行ってくんね?汗ベタベタの気持ち悪いまま過ごすの嫌なんだが」


「意地悪言うゲツヤが入るシャワー室なんてありませんー。知らないよーだ」


月夜の反応を聞かないまま走って消えていくルミナリアを尻目に、月夜はため息を吐く。


「これは長くなりそうだ…俺の作った霊符がアランに届くのとどっちが早いかな」


そういうと月夜は懐から1枚の霊符を取り出す。この霊符は、月夜が練習で作った飛行可能な防護符である。しかし、飛行速度はめちゃくちゃに遅く、戦闘についていくにはまったく頼りにならないものだった。それの術式をちょいとばかしいじってメッセージ連絡用にすれば、『超遅延便、低速メッセージ届けるくん』の完成である。ちなみにこの名前をつけたのはリタだ。


(メッセージの内容は…男用シャワー室(男専用スペース)に入ることと、おふざけしてるルミナリアは遅くなるってことだな)


この後、ルミナリアの到着は少し離れた男用シャワー室に向かった月夜よりも遅れたのだった。


**********


「グランツェ法皇国?」


「そうだ。勇者一行への救援要請…いや、この場合は待機要請だな。いざという時に対処してもらうため、戦争の前線にそれなりに近い街を訪れ、滞在してほしいそうだ」


「つまり俺たちに対して兵士たち指揮を上げるために来て欲しい、ということかな?」


「半分正解、というところであるな。法皇国はすでに首都が落ちている。今は戦力をできる限り集中させ、絶対に落としてはいけない線引きをしてなんとか持ち堪えているようだ。それに対する援助の目的でもあれば、法皇の身を守る護衛としての目的でもある。様々な理由を押し込めた待機要請であるな」


「地図を見せてください。現在の戦線はどうなっています?」


「これが今の状況といっても3日前のものであるが。すでに法皇国は存続が危うい状況となっている。それに加えて、大隊長クラスと思しき魔族が1人、確認されている。今の法皇国の戦力では襲撃を受けた場合、良くて壊滅的被害、最悪は国家消滅だ。そのままの勢いでアルカナ帝国まで攻め込む可能性もある。そうなれば被害は甚大。人類は衰退と滅亡の一途を辿るだろうな。法皇国はそれを危惧して、今回の待機要請を出したのだと思われるな」


「っ…わかりました。ですが、ゲツヤの件は…」


「連れていくのだ。法皇国には拳王がいるだろう?問題なかろう。すまんがアラン、これは要請ではない。命令だ。ゲツヤを含めた勇者一行全員で法皇国の商業都市、アルマへと向かうのだ。アラン、頼んだぞ」


「っ、ま、任されました」


「うむ。すまんな、お主にだけ荷を背負わせて」


「いえ…勇者ですし」


「あまり抱え込みすぎるでないぞ。たまには仲間に思いの丈を吐き出してもよいかもの…それはそうとして、リタとの関係は良好かの…?もちろん、意味深な方だ」


「!?ゲホッ、ゲホッ!な、なななにを?」


「ぬ?余の思い違いでなければお主とリタは夫婦と称されるほどに仲が良いとの噂じゃが」


「誰から出た噂ですか!?そんな根も葉もない…」


「ソースはミルムであるな。あやつの話す噂話は今のところすべて真実であるからな…信用できる」


「じゃあ今この瞬間信用できなくなりましたね!嘘ですから!」


「そうかそうか。そういうことにしておいてやろうではないか」


「納得してないじゃないですか!」


「ハッハッハ。では、改めて、任せたぞ、勇者アランよ」


「はぁ…任されました」


**********


1ヶ月後、アルカナ帝国とグランツェ法皇国の国境付近。


「腰が…痛い…」


「いやおばあちゃんか」


「ゲツヤ…お前は何故無傷なのだ…」


「ガキの時にばっちゃんに尻叩かれすぎたからかもな」


「意味がわからん…」


グランツェ法皇国へと向かう馬車の中。2台の馬車に4人ずつ分かれ、月夜の乗っている馬車では半分が馬車の揺れで腰と尻を痛めていた。ルミナリアとガルムだ。一方、月夜とミルムは涼しい顔をしている。


「まったく情けない…なんであんたらがダウンしてるんだか。ゲツヤを見習いなさい」


「ミルム…夕食抜き」


「うぇっ!?」


「ミルム、お主の杖についてる神晶石は誰が手に入れたんだったか?うん?」


「スイマセンデシタ、モウアラガイマセン」


「「よかろう」」


「みんな仲良いよな、やっぱり」


息ぴったりなところとか。


そんな時、後方の馬車からアランの声が聞こえた。


「みんな!そろそろ野営の予定地に着くから、止まってすぐ野営の準備に取り掛かれるように道具の点検をして!」


「わかったわ!すぐに取り掛かる!」


ミルムがそれに対して言葉を返す。ちなみに、4人の班分けには理由が存在している。まず、指揮ができるという点でアランとミルムは別々。さらに前線で万能(オールラウンダー)に戦うルミナリアもアランと被るため別々。後方から高火力を叩き出すエルミナも、ミルムと被るため分ける。レイクとガルムも多方面で動く盾役ということで被り、リタと月夜は男女の比率を合わせる形で班を決めてある。当然それぞれのリーダーはアランとミルムである。ちなみに、道中ミルムが寝ている間に野営に必要な道具の点検は終えている。


「さあみんな、点検を…」


「終わってるぞ」


「終わってる」


「終わってるな」


「はえ?い、いつの間に…」


「お前さんがグースカ寝とる間に、だな。気づかなさすぎて逆に心配になったぞ」


「ゴ、ゴメンナサイ…」


「ガルムさんが相手の時のミルムさんってなんか異様に弱くないか?」


「ゲツヤ、この痴女一回ガルムに拳骨落とされてる」


「ひっ!?思い出させないで!」


「えらくいい音のする頭だったな…再体験するか?」


「ひぃっ!?」


そのやり取りの中、月夜は笑い出してしまう。面白くて、可笑しくて…そんな月夜に釣られるように、ルミナリア、ガルム、ミルムも笑う。そんな時、騒がしい4人に対する御者の冷ややかな目が突き刺さったことが、月夜の心にチクリとダメージを与えたのは、仕方がないと言わざるを得なかった。

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