第三十一話 "REVERSE CORD"『証』
飛風・土倉での超級妖襲撃騒動から1週間が経った。残った爪痕は深く、土倉家は大幅な戦力ダウン、飛風家は飛風風莉が行方不明となった。それに加えてOKTS創設者、縁妖篩が未だ意識不明であり、陰陽師陣営は混乱へと陥っていた。
「でもこの状況下で御前試合の日程をゴリ押すとは思わなかった。どうやら西日本方面のやつらはまだ対抗手段を手元に残しているようだな」
「そんなもんないよ。無駄に気が強いだけさね」
「あまりにも自信満々だからそうだと思ったのだけど…」
「それよりも問題は月夜だよ。なんとか誤魔化してるが、少なくとも土倉にはその実力の高さを観測されたよ」
「他の家は3年の修行で鍛え上げてきたと言えても土倉だけはもう誤魔化しようがない、か」
雹牙家として、月夜の実力についてどこかのタイミングで説明する必要があるだろう。
「月ちゃんに色々お願いしなきゃかもね。御前試合なんていう高戦力が集まる日に凪勿一派が手を出さないはずがないからな」
「今は篩のところにいるんだろう?呼ぼうと思えばいつでも呼べる。それより話すべきは…」
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「凍河殿、何故儂を?秋梨の方が良かったのではないか?」
「俺を呼ぶのも、イマイチわからんな」
「私としては異論はないけど…なんの話かな?」
凍河に呼び出され、前飛風家当主飛風羽蜜、現雷轟家当主雷轟元、現土倉家当主土倉春華が凍河とともに同じ部屋にて集まっていた。
「決まっている。御前試合についてだよ」
「それはそう、か」
「西日本の連中はいまだに何もされていないからって対岸の火事とでも思ってるんだろうね…まったく、この状況で御前試合をやろうとするだなんてイカれてるよ」
「仕方あるまい。西日本の家は基本頭が無駄に硬い上に腐敗した上層部で構成されているんじゃからな」
「過半数の拒否がなければ御前試合は行われてしまう。我々が協力しようが、西日本の家のうち1つでも拒否をしない限り致命的な隙を凪勿一派に見せることになるぞ」
「…羽蜜、凪勿はそれなりの傷を受けて逃走したのだろう?」
「そうじゃな。いくら治癒の術があろうと、治すのは一筋縄ではいかないはずじゃ」
「…具体的にどの程度の傷かわかるか?」
「少なくとも左腕欠損と一部内蔵破裂は起こしてるはずじゃ…細かい骨折等はわからんがの」
「凪勿っていうのは少なくとも超級妖を従えてるわけでしょ?そんな存在を羽蜜殿1人では倒せるようには思えないんだけど」
「実際にやったのは儂じゃないからの…詳しいことは月夜殿に聞くんじゃな」
「…まあいいだろう。凪勿が重傷ならそれでいい。少しは襲撃のリスクが低下しているだろう」
「ずっと駄弁ってるわけにもいかないからね…本題に入るよ。今回の凪勿一派による襲撃が甚大な被害をもたらすであろことはわかった。それを考慮し、家に戦力を残すか否か…考えなくてはならない。雹牙は氷柱と華蓮を置いていくことになってる。参加者は私、朝陽、最後の枠はまだ未定だよ」
「…雷轟は今回若者に経験を積ませるべく、電、櫂、慧磨の3人での参加予定だ。例年は護衛を連れてくるのだが…今年は護衛なしでの俺を含めて4人での移動になるな」
「土倉は琥珀、和葉、百花だね。というか戦力が削られすぎてこの3人以外の選択肢がないんだ。僕含めて4人での行動になりそうだ」
「飛風はまだ決まってないのぅ…このまま進めば儂、羽瀬、美桜の3人での参加かつ移動になると思うぞ。秋梨は飛風家邸宅の復旧で忙しくての、当分動けそうにないそうじゃ…む?電話じゃ、少々席を外させてもらう」
羽蜜が部屋を出てからスマホを取り、何者かと通話を開始した。その3秒後…
「なんじゃってぇぇぇえええええ!?」
馬鹿みたいな声量で叫んだのだ。ここは雹牙家邸宅。こんなところで騒げば当然、
「うるさいねえこの馬鹿ジジイが!」
「ごぶぇっ」
「まったく…誰からの通話だい…誰かは知らんが切るよ、この馬鹿が騒ぐもんでね」
『ばっちゃんか?ちょうどいい、ばっちゃんにも共有事項があるんだ、後から連絡入れておく』
「この声…月夜かい?何故羽蜜に?」
『色々連絡事項は多いんだが…まず1つ、飛風風莉の帰還を確認した。やっぱり予想通り、俺が行ってた世界にルーナが転移させてたよ』
「…そんなあっさり帰って来れるものなのかい?」
『稀に異世界から人が迷い込むらしくてな。その世界に『帰還』させることだけができる転移門があるんだ。まぁ、俺を除く勇者一行全員と女神の許可がないと門は開かないんだけどな』
「それで帰って来たと?」
『ああ。それともう1つ。向こうの世界にいる知り合いの妖術師に聞いたんだが…』
「は?なんで異世界に妖術師がいるんだい?」
『こっちの世界だと肩身が狭いからだろ。んでもって…篩さんが使用した正体不明の術、『REVERSE CORD』について、その詳しい実態がわかったぞ』
「…聞こう」
『自分自身に悪魔を憑依させ、その力を利用する妖術と祓魔師の技術を融合させた術だ。妖術師の家系の1つ、信条家で常に秘匿されていた術で、家が滅んだ今も『存在する』ことはわかっても術を扱うための詳細は秘匿され続けているらしい。秘匿されているなら問題はないはずなんだが…この術は使うため"だけ"に肉体改造をしなければならないらしい』
「つまり篩は肉体改造を行っていると?」
『正確には肉体改造されている、だな。篩さん自身は肉体改造された記憶なんてないらしいが、誰にも教えられていないのに幼い頃からREVERSE CORDの存在を知っていたらしい。嫌な話をすると、篩さんの肉体改造を行ったのはおそらくーーーー
ーーーー彼の父親だ」
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月夜と羽蜜が通話を繋ぐ少し前、篩がいる陰陽師関連の特別病院の病室にてーーーー
「帰って来たまではいいと思うが…なんで俺のところなんだよ」
「最初に思いついたのが月夜さんだったので…」
「はぁ…ここ病室だから、静かにしろよ。当の病人が突然現れた風莉さんのせいで気絶してるけどな」
「え、えへへ…」
風莉はフラフラと歩いて倒れ込むようにして月夜の背中に抱きついた。
「にゃ〜」
「ベタベタすんな」
「やだ、無理」
「家族でも恋人でもなんでもない存在にベタベタされてたまるか」
「あっ、それで思い出しました。はい、ルミ姉様からお手紙です」
「ん?ルミ姉様…?ああ、ルミナリアか、助かる」
月夜は風莉を引っ剥がすと、ルミナリアからの手紙を開封して読んでいく。
「えっ〜と?『久しぶり。この手紙の内容はフウリと一緒にいる時に読んでね』一緒にいるな…」
「いる〜」
「『フウリにいくつかの質問をしてわかったことだけど、フウリは恋人として付き合ったり結婚したりじゃなくて、"家族になる"願望が強いことがわかった。だから、フウリに居場所がなくなったらゲツヤの家で拾っといて。実現できたらそっち行ったらご褒美あげるから』やりますやらせていただきます」
「…月夜さんがルミ姉様に弱いって本当のことだったんですね…他の人と対応が違いすぎますし。それともう少ししたら乃々華さんからお手紙の返事が送られてくるそうです、私がいない場で、可能なら"それ"を使用した妖術師と共に読むように、だそうです」
「…わかった。俺が篩さんの意識を起こすから、風莉さんは部屋を出ていてくれますか?話が終われば呼びます」
「わかりました」
風莉が部屋を退出したことを確認すると月夜は力強く、思い切り篩の頬を引っ叩いた。バチィン、といい音がなり、その痛みで篩は飛び起きた。
「痛い!?」
「目、覚めました?」
「ああ、うん、とっても…すごく痛いけど…」
「そりゃあよかった」
「よくはないと思うけど…」
「そんなことより…詳しく聞かせてもらおうか、縁妖篩…信条家が本気で秘匿し、妖術師たちが禁忌として歴史から消そうとした術…『REVERSE CORD』についてな」
「…何故その名を知っているのですか?」
「…『信条菜夏』この名に覚えはあるか?」
「…嫁入りする前の、母さんの、名」
「当たり、か。外れてくれる方が好ましかったが…信じる信じないは篩さん次第だが、結論から言おう。18年前、篩さんの母は死んでいなかった」
「え…?」
「異世界…と言って伝わるか?俺は3年ほど、諸事情でそちらにいたのだが…」
「母さんは…母さんはどうしていましたか?」
「…言いづらいですが、人間に敵対し、魔神の配下として四天王の1人となっていました。俺は魔神を滅するべく結成された勇者一行の1人…真逆の立場です。そして俺は…戦いの末に彼女を殺した。その戦いの時に見たのが、『REVERSE CORD』なんですよ。私が見たのは白…つまり『BLANC』です。篩さんのは特徴からして黒…『NOIR』といったところでしょう」
「…1つ聞いてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
「母さんは、最後に、なんと?」
「『人を愛せ。決して憎むな。私にはできなかったが…お前なら、きっと』。そう言っていました。最初は俺に向けた言葉かと思っていましたが…篩さん、よかったですね。貴方の行いは、今のところ決して間違っていないですから」
「…月夜殿、ありがとう。そうか…私は、間違ってなかった…」
「思いを馳せているところ悪いが、話は終わりじゃない」
「その手紙は?」
「俺の知り合いの妖術師からいただいた代物だ。『REVERSE CORDについて、秘匿必須の情報が大量に記されている。何故篩さんや菜夏さんが『REVERSE CORD』を扱えたのか…その推測も書いてあるはずだ」
「読もう。何が書いてあるか、知っておく義務がある」
篩の返事を聞いて、月夜はそっと、手紙の封を取り外したのだった。
テスト期間につき、来週、再来週の投稿はありません。
ご理解の程、よろしくお願いします。




