第二十二話 合同合宿!Day2
米も卵も値上がり…財布に優しくないよな!そう…だよな?
「ぜ、全身筋肉痛ェ…」
「明日もやるぞ、あれ」
「いやぁぁぁぁ!」
「朝っぱらから騒がしいね…特に透子。もう少し静かにできんのかい?」
「うっ…すみません凍河様…」
「それに月夜、あんたはしっかり弟子の手綱を握りな、飼育放棄するんじゃないよ」
「精神三歳児相手したくないが?」
「誰の精神が三歳児だ!もう17歳だぞ!」
透子の反応に、月夜と凍河は顔を見合わせ、ため息を吐いたのだった。
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「本日の組み合わせは雷轟・雹牙と飛風・土倉とする!昨日は時間がなかったが、本日はバトルロワイヤルも行う予定だ!」
「げっ、2日目にして雷轟とかよ…いや向こうも同じ気持ちなんだろうけど」
華蓮が嫌な顔をしたのは当然理由がある。雷轟家と雹牙家はとても仲が悪く、バッチバチなのだ。今代は幾分かマシな状況とはいえ、以前として関係は険悪なままなのだ。しかし、元が雷轟と雹牙の組み合わせを2日目に持ってきたのもまた理由があった。単純に仲が悪い2家を早い段階で終わらせることでその後をいい気分で終わらせるつもりなのだ。
「そっかー。透子、GO」
「サーイエッサー」
次期当主だったり、依頼を1人でぶん回してたりする都合上、雷轟家と関わりのある朝陽、華蓮は面倒事が多いだろうが、月夜と透子は別だ。月夜は3年いなかったことで関係は薄いし、透子に至っては関係性は0だ。さらに透子はコミュ力が異様に高く、距離の詰め方が上手い。故に月夜は特攻隊として透子を突撃させたのだ。指示を出した月夜もまた、透子に着いていく。朝陽と華蓮はそんな2人に困惑したが、少しすると月夜の背を追ったのだった。
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「な、中々話がわかるじゃない。ぺ、ペアを組んであげてもいいんだからねっ!」
「そうなの?じゃあペア組もうよ!一緒に頑張ろうね!慧磨ちゃん!」
「え、ええ。あ、貴女のために頑張るんじゃないんだからねっ!」
「え〜もう、可愛いんだから〜」
「や、やめ、あうう」
「ふん!この俺様と組みたいのか?だが貴様は実力不足だ!精々足掻くといい!」
「あ、そう?じゃあ別の人と組みますね」
「ま、待て待て待て。俺は何も貴様と組まないなどと言っていないぞ?この俺様が?ありがたく?組んでやると言っているのだが?」
「あー…多分その調子だと人離れて行っちゃいますよ…?」
「なぬっ!?も、もしや貴様も俺様とは組まないのか?」
「組みますよ。そうですね…まあ似たような境遇なところもあるのでちょっとした雑談でもしませんか?」
「お、俺s…んんっ、俺は構わんぞ。少し語らい合おうぞ」
「「コミュ力どうなってんだよ…」」
「あれ?月夜と透子って仮にも雹牙所属なんだよね?そうなんだよね?」
「そ、そのはずだけど…ええ…?ええ?」
「お、おい、お前らも同じこと思ってんのか?」
「あ、電。なんか…おかしくないかい?」
「お、おかしいぞ。特に櫂はもっと凶暴なはずなんだが…」
「「解かされてる、ね…」」
「よ、よくわからんが、俺たちも組まねばならんな。朝陽、足引っ張るなよ?」
「そっちこそ。わかってるよね?」
「…はぁ」
険悪な関係…だったっけ。華蓮がそう思ってしまうほどには、割と平和な雰囲気がそこにはあった。
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「げ、月夜。本当に良いのだな?自由に動いて」
「ああ。俺は基本支援しかできないと思ってくれていい。多少の格闘術はできるが、本職は支援だからな。状況に応じた術の使い方は任せてくれ」
「う、うむ…3年前とは本当に印象が変わったな…何か大きな変化でもあったのか?」
「そうだな…大きな変化といえば、婚約者ができたこと…とか?」
「おお!婚約者ができたのか。それはよかった…やはり百花なのか?」
「いや?百花じゃないな。ま、詳細はまた今度ってことで」
「おうおう、教えてくれたっていいじゃねえか。…いや、俺も知らないってことはまだ伏せられてる情報なのか。うむ、詮索はやめておこう」
「助かるよ」
「じゃあ行こうぜ。次はもう俺らの番だ。相手は…叶と風莉だったか?」
「あ、そうか。櫂は雷轟だから対戦スケジュールも知ってるのか」
「おう。今日俺らは計5戦やることになるな。最後のバトルロワイヤルも含めると」
「まあ、適度に心引き締めてやっていこう」
「ああ、足引っ張んなよ」
「任せてくれ」
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「それでは…開始!」
「いいんだな!本当に!」
「ああ!好きに動け」
「おうよ!《雷獅子奮迅》!」
櫂は自分に雷属性の術を付与し、爆発的な速度を生み出すことで叶と風莉を撹乱する。なんとか攻撃は回避しているものの、このままではジリ貧と踏んだのか、《竜巻》の術で櫂を巻き込むことで状況を脱しようとする。櫂は1人ではなく、月夜がいる。しかし、風莉と叶はあまりにも動かない月夜のことを、認識から外してしまったそれが不味かった。
「対霊術特殊防御結界、《泥の拘束》」
「っ!風莉ちゃん、風の術で先抜けてて!」
「わかりました!上空から援護します!」
風莉の放った竜巻はいとも容易く無力化され、しかも月夜は足場も泥とすることで動きを制限。しかも《イザナイ》は術を弾く性質のため、櫂の速度なら泥の上を滑るように移動することも可能だ。異常な速度で駆け巡る櫂、そして完璧な支援を通し続ける月夜。その相性は抜群だった。さらに、櫂は身動きの取れない叶を仕留めようと接近して槍を振るうが、叶はそれを首を振るだけで回避する。
「櫂!一旦引くんだ!」
「よくわからねぇが、わかった!」
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「おい、どうすんだ?風莉に上取られちまってるから動くに動けないぞ」
「ん?ああ、それか。叩き落とせばいいだろ」
「俺空飛べないんだが?それとも月夜が飛ぶのか?」
「いいや?だが、飛ぶと言っても空中移動には様々な種類がある。今回使おうとしてるのが結界型だな。特定の人物に対してのみ可視化した結界を足場にして空中で戦う戦法だ」
「なるほど?つまり俺はその結界の上を歩けばいいんだな?だがよ、月夜。どう考えても結界の展開が間に合わないだろうが」
「あんまり俺を舐めないでくれ。そのくらいはこなしてみせる」
「ふっ、頼りになる限りだぜ」
「俺が結界を展開したら行動開始がだ。道筋と叶の方は任せてくれ」
「おいおい、本当にできるのか?」
「基本的に自分のキャパを超える宣言をするのは愚か者だ」
「そうか…んじゃ、任せたぞ」
直後、月夜は即座に大量の結界を展開し、空中の風莉へと向かう櫂用の道と、自分で作り出した泥沼を素早く超えるための自分用な道を作り出した。櫂は一迅の雷となり、凄まじい速度で風莉に接近し、月夜は姿勢を低くして櫂と月夜が飛び出したタイミングで放たれた風莉の攻撃の隙間を蛇のようにすり抜けて叶に接近する。
「風莉ッ!」
「叶さん、そっちは任せました!」
叶は咄嗟に風莉の名を呼んだが、風莉はさらに高く飛び上がって櫂から逃れようとしていた。しかし、櫂は多少速度は落ちているものの、空気を蹴るようにして空へと登っていく。いまだに速度では櫂が上回っているため、時間が経てば追いつかれてしまうだろう。そう考えた風莉は時間を稼いでいる間に月夜を倒してもらい、2対1に持ち込もうとした。しかし、風莉には誤算があった。それは、月夜自身の実力が普通に高く、さらにはその実力の一端を叶は知っているため、まったく勝てる気がしないのだ。
「ああ、もう!やるだけやってやるわよ!」
1つの戦場の2つの戦い。それはそう時間をかけずに月夜と櫂の勝利に終わった。
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「今日はありがとな、月夜。過去一戦いやすかったぜ!」
「それは嬉しい言葉だ。また機会があれば組もう」
「おうよ!んじゃ、あと2日間よろしくな!」
ともに戦った月夜と櫂は固く握手を交わすと、櫂はすぐに手を振りながら走り去ってしまった。しっかり櫂がいなくなったことを確認すると、廊下の角に隠れていた人物に声をかけた。
「さて、と。気づいてますよ、盗み聞きとは趣味が悪いですね…風莉さん」
「…気づいてましたか」
「この後透子の鍛錬があるからあんまり長話はしたくない。だからすぐに本題に入ろう。何の用だ?」
「月夜殿。明日、私と組んでいただけませんか?」
風莉の口から発せられたのは、たったそれだけだった。想定以上にどうでもいい内容に、月夜は怪訝そうな表情をする。
「本当にそれが用か?」
「はい。私自身、今日の月夜殿と櫂殿との戦いでの失敗がわかりませんでした。なので、明日ご教授願えればと」
そう言う風莉に、月夜は一瞬ぽかんとしたが、すぐに呆れたような表情になった。
「はぁ…悪いがあれに俺からのアドバイスほぼない。そもそもの実力不足だ。それと、思い込みによる判断ミスだな。風莉さん…貴方、俺の霊力量を測りましたね」
「はい。私より少なかったので実力を低く見ていました。結果としては判断ミスですが、普通は霊力が多い方を警戒すると思いますが、どうでしょうか?」
「まぁ、それもなくはない。だが、風莉さんの右眼…翡翠眼に頼りすぎない方がいいですよ。それは同格までしか正常な機能を発揮できないので」
「つまり、月夜殿はーーーー」
「おっと、ダメダメ」
月夜は両手で風莉の顔を挟み、無理矢理黙らせる。
「いいかな?こういうことにはあまり深入りしないのが吉だ。『もしかしたら何かに気づかれてもしれない、一応殺しておこう』と考えて風莉さんを殺す可能性もないわけじゃないんだ。その辺、しっかり考えるんだね」
「ふぁ、ふぁいぃ…」
「よろしい」
月夜は風莉の顔から手を離すと、そのまま歩いて消えていってしまった。そこに残ったのは、顔を真っ赤にして頭から蒸気をあげている風莉が残された。
(あ、あれは反則ですよ…そもそもタイプなのにあんなに近寄られたら…はうぅ)
「何しとるんじゃ、風莉よ。廊下の角で不慮の事故でキスでもしてもうたんか?ガッハッハッハ!?あ、あぶ、ごめんて儂が悪かったわい」
と、空気の読めない老人が1人。羽蜜は風莉の攻撃を回避し、なんとか話に持ち込むことができた。
「まったく…どうしたんじゃ?風莉がそんな表情をすることなんてあまりないじゃろうに」
「お祖父様、ここでは人の耳もあります。人のいない部屋に行くことは可能ですか?」
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「わざわざ人のいない部屋に来たということは、大事な話なんじゃな?まさかどうでもいい話でもあるまい」
「お祖父様…私、結婚する人決めました!」
「ぬぉ!?だ、誰じゃ!どこのどいつじゃ儂の孫を誑かしたのは!」
「月夜殿です♡」
「そうか、なら仕方ないの」
(篩坊に月夜殿に関しては色々と諦めろと言われていたが…こういうことなのかのう)
「あら、お祖父様あっさり引き下がるんですね」
「あらやだ儂の孫幸せそうな顔しとる」
「明日、正式に掛け合ってみますね。どは、私はこれで〜」
そういうと風莉はすぐに部屋を飛び出し、羽蜜を置いていってしまった。
「はぁ…どうしたものかのう。月夜殿に婚約者がいること、言いそびれてしまったわい」
「じゃが、まあええかのう。風莉よ、道は険しいぞ」
飛風羽蜜、御年67歳。かつて『狂風』として恐れられた陰陽師の姿は、孫ができたことで無惨にも崩れ去ったのだった。




