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いつ来る時の月夜まで  作者: 蒼華零
第一章
33/53

過去話(11)

両者最大の一撃は、一瞬たりとも拮抗することなく、勝敗が決した。


吹き飛ばされた剣が地面に突き刺さり、その剣の持ち主は敗北を認めた。


「…俺の、負けだ。まさか、重傷の怪我人に、負ける、なんてな」


「わざわざ俺の誇りを重んじてくれて感謝する。貴方は生粋の騎士だよ」


「しょ、勝者、ヒョウガゲツヤ殿!」


両者の打ち合いは、月夜の勝ちだった。一撃ですべてを抉り取るであろうテルマの一撃を月夜の一撃によって生じた圧倒的なまでの冷気が打ち消し、テルマの手から剣を弾き飛ばしたのだ。それでも尚、残った冷気は周囲を凍りつかせ、氷の幻想を創り出しのだ。剣も弾き飛ばされ、身体の所々が凍ってしまったテルマはしっかりと己の負けを素直に認めたのだ。観覧席のラグザ公爵は怒り心頭といった表情をしており、観覧席から声を荒げた。


「ふざけるな!見たこともない術式を使いおって…魔族の使いか何かか!そんな紙のようなものも見たことはない!魔道具の持ち込みは禁止したはずだ、何故持ち込んでいる!それでも勇者一行の一員か!」


「…恥晒しが。グランよ、ラグザ公爵をここから摘み出せ!」


「ハッ!皆の者!陛下の命だ、ラグザ公爵を拘束せよ!」


「「「ハッ!」」」


「なっ!?やめろ、触れるな!私はラグザ公爵だぞ!わかっているのか!第二皇子のことだってーーー」


「其奴を牢に放り込め!最大級の侮辱行為と認定する!」


「ふざけるな!全員絶望の底に沈めてやる!覚悟しておけ!」


暴れるラグザ公爵は何やらありがちな捨て台詞を吐き捨てるが、大人数の騎士に取り押さえられ、建物の奥の方へと連れて行かれた。


「無粋なものを見せてしまったな。この度の神聖な場での無礼を理由にテスタローザ・ラグザ公爵の職と社会を剥奪する。テルマよ。お主がテスタローザの跡を継ぎ、我が国に仕えよ。正当でないと判断した事象に対し、この多くの貴族や皇族がいる場で対抗する姿勢を見せたことを大きく評価する。精進せよ」


「ありがたき幸せ。誠心誠意、皇帝陛下、しいては帝国のために全力を尽くすと誓います」


「うむ。さらにゲツヤ殿、この度の非礼、重ねて謝罪する。我の管理不足であり、責任も我にある。ここで怒りをもって我を殺しても構わない」


「いえ、問題ありません。私個人は陛下に怒りの感情はないので。ただ、私が心配しているのは…ですね」


月夜は無言で観覧席にいる勇者一行の方向を見る。そこでは、今にも飛び出そうとするリタ、それを止めるエルミナ、なんだがすごく嬉しそうにしてるルミナリア、ため息を吐くレイク、若干笑いが漏れてるアラン、月夜に向けてグッジョブしているガルム、面倒くさそうに現実逃避して紅茶を啜っているミルムの姿があった。月夜が懸念しているのはぶちぎれたリタを止められる人材はいない、ということだ。月夜は実際に体験していないが、体験済みの勇者一行メンバーからリタだけは本気で怒らせるなと聞き及んでいるのだ。リタの様子を見るに、あの暴れ方は今までに見たことのない暴れ方のため、まず間違いなく関係者は全員説教されるだろう。当然、1番最初に説教を喰らうのは月夜だろうが、その他全員も逃げることすら許されず正座させられることも、月夜にはなんとなくわかってしまい、月夜は少し憂鬱な気分になった。


リタはエルミナの拘束をゴリ押しで脱出すると、観覧席から飛び降りる。そのまま走って月夜の元に駆け寄ると、すぐさま腹部に向けて手を向け、《継続万能治癒》をかけ直す。すると、ここでリタの全力の説教が始まった。


「ゲツヤ、いいかしら?言いたいことは沢山あるけれど…まず、無茶な状態で模擬戦を強行しないでちょうだい。家の誇りとか私にとっては何一つとして関係はないから、次があれば無理矢理にでも中断させてやるわ。ゲツヤは普段からなんでもかんでも無茶をして…一々治癒魔法で傷を治す私の負担も考えてほしいわね。でも…自分で治療できるようになったのねぇ…そう、じゃあ今度から鍛錬でできた傷は自分で治してちょうだい。私の負担が減るからありがたいわぁ…」


「善処します」


「信用ならないわね…次、皇帝陛下!」


「むうっ!?」


「あんたの管理体制どうなってんのよ!明らかに情報が伝わってない上に、あれは故意に行われた術式解除よ。多少の魔法知識があれば『治療中』というだけで《継続万能治癒》とわかるでしょうに。あまりにも杜撰だわ、もっとしっかり臣下達の手綱を握ることね。いつか寝首を掻かれるわよ」


「うむ…すまない聖女殿。我でさえ術式解除の件を伝えられていなかった。我の杜撰な統治体制が招いた事象だ。精進させていただく」


「まったく、国の頂点なんだからもっと頑張りなさいよ…次ーーーーーーー」


**********


「ゲツヤ」


「ん?ルミナリアか。夜会はどうしたんだ?」


怪我の悪化を理由に勇者一行を歓迎する夜会を欠席し、自分に割り当てられた部屋のベランダで夜風に当たっていた月夜に、夜会を抜け出してきた挙句当たり前のように月夜の部屋に入ってきたルミナリアが話しかける。


「人多い。あと邪な視線を向けてくるガキどもが多くて疲れるから勝手に抜け出してきた」


「それ、後でエルミナ辺りから説教を喰らわないか?そうなっても俺は庇わないからな」


「大丈夫。エルミナからは許可もらってるから。私が人がごちゃごちゃしているところが好きじゃないのはわかってるだろうし」


「そうか…んで、何か用か?」


「ん、ゲツヤと一緒にいようと思って。お酒、飲む?」


「いや…遠慮しようかな。俺の世界じゃ酒は20歳からだし」


「こっちでは15歳から。ゲツヤ、今15歳だっけ?こっちでは大丈夫だけど」


「いや、やめておくよ。俺がめちゃくちゃに酒に弱い可能性もあるし、酔った途端に見境なく襲い出す可能性も0じゃない」


「襲う…そう」


「なんでちょっと満更でもなさそうな表情してるの!?拒否しとくべきだろそこは!」


「酔ったら人を襲うなら鍛錬で疲れ切ったゲツヤに酒を飲ませれば無理矢理鍛錬させられる」


「いや鬼畜すぎるだろ。普通に死にかねないが!?」


「実際にしたりしないから大丈夫。ゲツヤは水でもいい?」


「あ、ああ。ルミナリアは酒を飲むのか?」


「アルカナ帝国にはワインの名産地がある。飲まなきゃ損」


そういうとルミナリアは月夜のグラスに水を注ぎ、自分のグラスには赤ワインを注ぐ。


「それじゃあ、乾杯」


「ん、乾杯」


**********


「チッ…ここで大人しく陛下の沙汰を待つといい」


牢屋から、その騎士が離れていく。最悪だ。


(何故…何故私がこんな目に…第二皇子を人質としたカードを切ったというのに…気付かぬふりをして強行作戦とは。やられた、今代の皇帝の才を見誤ったか)


「おや…テスタローザさん、お久しぶりですね。こんな薄暗いジメジメしたところで一体何をしているのですか?」


テスタローザが悔しそうな顔をして床を睨みつけていると、突如として待機していた2人の看守が倒れ、フードを深々と被った男が牢屋の外からテスタローザに話しかける?


「『五人衆(シエル)』第三席、"幻想師(イマジネーター)"」


「おっと、覚えていらっしゃいましたか。この度、雇い主より命を受け、貴方様個人の救出とヒョウガゲツヤの実質的な封印を行いに参りました」


「実質的封印…だと?」


「ええ、そうです。我々の目的のためには少々邪魔でしてね。私の固有魔法である《幻想楽園(エンタメイトイマジン)》を持ってヒョウガゲツヤを半永久的に封印させていただぎす」


「やはりいつ見ても素晴らしい上に末恐ろしい能力を持っておられるな、貴殿は。それ以降の話を聞かせていただくことは可能か?」


「禁則事項ですねぇ。自分で調べていただく他ありません」


「む…いいだろう。それで、脱出ルートは確保されているのか?」


「当然です。行きましょう」


**********


「ゲツヤー!もう朝だぞー!まだ寝てるのか〜?」


「返事…ないですね」


「おかしいな…おーい、鍵勝手に開けるぞ〜?」


アランとレイクは月夜を朝のランニングに誘うために声をかけるが、一向に反応は返ってこない。普段であればすぐに

返答が返ってくるのだが、今日に限って何一つアクションがないようだ。仕方なく月夜に渡されていた合鍵を使ってアランとレイクは月夜の部屋に入る。その瞬間に絶句した。


…月夜がいない。


「!?レイク、勇者一行の面々(みんな)や陛下達に伝達を!俺はこの部屋自体の精査をする!」


「わかった!」


レイクはすぐに走り出し、あっいう間に姿は見えなくなった。アランもまた、すぐに部屋に魔力を行き渡らせ、隅々まで精査する。


(ベランダの扉は空いていない。床にも異常はない。天井に、壁もか。入り口の扉は施錠されていた…一体どうやって…?)


この日、月夜はアルカナ帝国帝城から忽然と姿を消してしまったのだった。


**********


「…きて、起…て、起きて!月夜!朝だよ!」


「ぅん…おはよう…」


いつも通りの朝。起こされて、食事を摂って着替え、準備をして仕事に出発する。


(いや待て待て待て待て!)


色々とおかしい。まず、何故か現代に戻ってきている。しかも、今ご飯を作っていたのは百花だった。自分は百花とルームシェアを始めた記憶も、付き合ったり結婚した記憶もない。月夜は百花に恋愛感情を持っていないのだから、このようなことは起こるはずがない事象なのだ。つまり、これは月夜にとって全くもって意味のわからない現象・体験である。しかし、これらはこの事象だけで終わることなく、連続して起こっていくものであった。

聖域は既に滅んだ『神聖国家ルベリオン』によって厳重な警備を敷かれていましたが、魔の神による世界への宣戦布告とほぼ同時に攻撃が行われ、初動で聖女の力を制限される自体になってしまいました。

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