Episode.Enmyo Nagina 『Target』
「主様、板無家、ひいては飛風家への復讐、どのようにして行うのですか?」
「…レンだけでも充分滅ぼせるだろうが、私が奴等に覚えさせたいのは"絶望"だ。レン、君でさえ手も足も出ないほどの圧倒的力を持ってして、奴等を絶望の底に陥れてやるのだ。だが、今の私には致命的に足りていないものがある。わかるか?」
「失礼ですが、本音を言いますと、主様自身の"力"が足りていないと思います。私が"手も足も出ない"存在を従えるのであれば、最低でも私を超える超級クラスへと鍛えていただく必要がありますが…その覚悟はおありですか?」
「当たり前だ。私を扱き上げてはくれないか?レンよ」
「承知しました、お任せください」
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8年後、新潟県のとある山奥の一角に建てられた小屋では、レンが凪勿に報告を行っていた。
「ふむ。我々の初動が気取られ始めている、と」
「ええ。ここ最近、明らかにこちらの動きに対する彼らの行動は異常です。我々の知らない何かしらの手段を利用してこちらの動きを観測している可能性もあります。充分な警戒が必要でしょう」
「例の実験はどうでしょうか?あれは早い段階で作ったもの、未だ気取られた様子はないですが」
「滞りなく。すでに試運転を済ませ、その効力が確かであることは確認してされています。私もテストで入りましたが、外部の統治機構を止めない限りあの領域が閉じることはないでしょう」
「素晴らしい研究結果です。まだまだ新しいことを調べますよ。そうそう、人口妖"試妖"の試運転及び妖玉の作成の進行度合いはどうでしょうか?」
「篩からの多少の妨害は受けていますが、祓魔師の協力を得ることで実験は進んでいます。"試妖"の実験は一部成功したようです」
「具体的には、どのように?」
「妖の枠組みとも言える核自体は完成したようです。ですが、そこから妖にするためのエネルギーが不足しているようです」
「なるほど…わかりました。地下の霊脈に接続するための術式を新しく組みましょう。霊脈と接続できればエネルギーの供給は問題ないはずです。あとは取り入れる霊力を調整するための制御機構も作る必要がありますし、その霊力を効率よく核へと流し込むための特殊な術式の開発も必要ですね。ああ、本当にすることが多い。嬉しい悲鳴ですね」
「成果のためには一歩ずつ、でしたね。それと、最後に重要な報告をよろしいでしょうか?」
「ほう…聞きましょう」
「板無家、その中枢に近しい人物との接触に成功。第一印象は好感触、とのことです」
「レン!素晴らしい、素晴らしいですよ本当に!あとはジワジワと指揮系統を乱していき、家全体のまとまりを緩くし、力を弱めていくのです!ああ、楽しみだ。私が捻り潰すのが先か、衰弱して自然に消えるのが先か。嗚呼、嗚呼!本当に待ち遠しい!」
縁妖凪勿、御年33歳。その明晰な頭脳は衰えることを知らず、また、彼が身につける力は、増していくばかりであった。
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さらに9年半後、凪勿は『神代の世』に存在する生命体との接触に成功した。
「初めまして。私の名は縁妖凪勿と申します。以後お見知り置きを」
『貴様の名など覚えるつもりはない。矮小な虫ケラよ、我に"直接"連絡を寄越したのだ。なんの用だ?どうでもよい連絡ならば直接貴様の元へ出向き、滅ぼしてくれるわ』
「理解しています。1つ、面白い話がございまして」
『ほう?面白い、とな?聞いてやろう』
「阿部家の血筋は途絶えました」
『は?貴様、今なんと?』
「途絶えたんですよ、阿部家の血筋。私も調べて驚きましたよ…まさか、我が一族に最後の生き残りがいたとは」
『どういう意味だ、説明せよ』
「18年ほど前、我が一族は私と甥を除き、陰陽師共の手にかかり全滅致しました。その死んだ者の中に、阿部家の血が通った者がいたのです。数多の手段を利用しましたが、その者が本当に最後の生き残りだったようで、いくら調べても実際に阿部家との血の繋がりが存在する人物は見つかりませんでした。もっとも、『阿部家』を名乗る家は存在するようですが」
『チッ、我が直接叩き潰してやろうと考えていたのだがな…いや、過ぎたことだ。どうでもよかろう。それよりも貴様、何が目的だ?一向に見えて来ぬではないか』
「失礼であると理解していますが、1つ願いを聞いていただけないでしょうか?」
『聞いてはやろう。言うだけで言ってみよ』
「今現在陰陽師界隈を牛耳っている陰陽八家。板無、水野、火戸、飛風、土倉、雹牙、雷轟、樹林。我が一族を滅ぼすために動いた板無、飛風を滅ぼすための協力をしていただきたい。お願いできないだろうか?」
『ククク…復讐、復讐か。面白い、いいだろう。だが、我にも世間体というものがあるのでな。"仮"の対価でも用意してやろう。そうだな、血筋関係はないと言っていたが、阿部家を名乗る者50人の首を持ってくるがいい。さすれば貴殿の願い、聞いてやらんこともない』
「ありがたき幸せ。そのように取り計らわせていただきます」
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「レン、進捗はどうです?」
「現在、阿部を名乗る人々は46人確保しております。残り3人は当てがありますが、最後1人は…この場所では難しいかもしれないですね」
「なるほど…どこか県外で良い場所はありますかね?」
「そうですね、陰陽師拠点もそれなりに離れていて手薄、という点を考えれば…ここでしょうか?」
レンは地図を取り出すと、とある地点を指で指し示す。
「長野県佐久市。この家のご令嬢が狙い目かと。陰陽師との関わりが薄いにも関わらず、保有霊力も豊富です。神代の世に接続するための生贄としても優秀です」
「ふむ…それはいいですね。"幻妖"の特級個体を一体連れていきましょう。万が一を考え、レンも近場で待機していてください」
「お任せください」
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「くっ…すみません、足を引っ張りました」
「仕方がありません。あれは対策なしでは到底勝てない」
「どう致しますか?弟達との接触のきっかけを作ってしまいましたが」
「《滅ぶことなき化け物》のいる領域に封じ込むか、相手の得意分野を潰し切った上で戦うかですね。《滅ぶことなき化け物》は失敗すれば取り返しはつきませんが、ガンメタ作戦は試す価値はあります。彼の性格的に殺すことは躊躇わないでしょうが、他の人間がいる目の前で堂々と殺すかと言えばそれは"No"ですからね。さらに領域を利用して人質を取ることができればさらに成功率は上がるでしょう。一考の余地はあります」
「ええ、今は一旦行動を抑えましょう。チャンスさえあれば、終わらせにいきましょう」
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「まさか、こんなにも早い段階でチャンスが訪れるとは思いませんでした。いやはや、祓魔師とのラインを強化しておいてよかった。なんとか、すべて間に合わせることができました」
「相手の実力のすべては未知数です。十分にご警戒ください、主様」
「当たり前ですよ。では…領域の取り込み設定から『雹牙月夜』のみを除外し、取り込むものはその他すべての生命体に設定する…さて、これにより…人質も確保可能です」
「最初の数分は様子を窺いましょう。もしかすれば無理矢理領域に干渉する方法がある可能性もあります。そういったものが確認されれば即時行動に移す、どうでしょうか?」
「良い案です。採用しましょう」
レンと凪勿は少しの間、『カエラズ』とは別の建物から様子を窺っていた。そして、ついにその瞬間が訪れる。
「主様」
「ええ、こちらでも確認しました。突入と同時に、雹牙月夜以外の全員が領域に取り込まれましたね。む?電話ですかね?」
「ここからでは流石に聞こえません。気配を消して少し近づきましょう」
レンと凪勿は気配を消し、静かに『カエラズ』までやってきたが、既に月夜は通話を終了していた。
「さて、彼はどうする…!?な、なんですかあれは…?」
「ここに来て見たことのない新しい力…まったく、面倒極まりない。レン、戦いの時は私が雹牙月夜を請け負います。貴方はできるだけ早くあの狼との戦闘を終わらせ、加勢してください」
「承知しました」
この時の凪勿は、明確に1つの目標を見定め、そのために必要な小さな目標を多数組み上げていた。しかし、その小さな1つは、諦めざるを得なくなる。凪勿には知りようのない、未知の力によって…
凪勿は、18年の間にメキメキ力を上げています。ちなみに、神代の世から凪勿と交信していた生物は神代の世に住まう生物の中でも割と温厚な方であり、面白そうなことにすぐ首を突っ込む性格のため、凪勿に手を貸すことを決めています。過去に阿部晴明によって無理矢理神代の世に押し戻されたことを恨んでいたが、その血筋が途絶えたと聞いて現在は肩の力を抜いている。




