過去話(8)
ラークとの戦闘で月夜がたまたま胸ポケットに入れてたスマホ君(充電切れ)は蹴り飛ばされた時に粉々になってお亡くなりになりました。
泣いている。自分と同じくらいの年齢の少年が、泣いている。1人、無残にも焼かれ、黒と紅だけが残る街の中でーーーー
手を伸ばそうとする。届かない。どこまで伸ばしても、距離は縮まるどころか離れていく。無理矢理引き離される感覚。
(届かない。届きそうなのに…なんで…だ、助けなくちゃ)
誰なのかもわからない。どこかも知らない。どういう状況なのかもわからない。なのに、何故か助けなくてはならない衝動に駆られる。
もっと手を伸ばしてーーーー
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「ッ!はぁ、はぁ、はぁ…」
(ここ、どこだ?)
月夜は朦朧とする意識の中、情報を得るために身体を動かそうとする。その時、普段寝てる時は感じない重みを腹部に感じた。
(なんか寝てるんだけど…)
ルミナリアだ。椅子に座ったまま、月夜の腹の上で可愛らしい寝息をしながら寝ていた。普段のルミナリアは果たしてこんなことするだろうか。わからなかった。月夜は他人の気持ちを考えるのが苦手だ。良くも悪くも、一般人の感性を持っているのだ。一部おかしなところもあるが、月夜は人並みであり、当然ながら恋愛経験もないため、女心もわからない。故に百花からの好意にも気付かないわけだが…それはまた別の話だ。普通に考えて、寝込んでいる人間の腹の上で寝るのだろうかという純粋な疑問が浮かんだ。そうやって考えていると、ルミナリアが目を覚ました。
「ん、んん…あ、れ?ゲツ、ヤ?」
「どうし、ぐえっ!?」
「ゲツヤ!良かった、良かった…」
ルミナリアはゲツヤに抱き着くと、涙を浮かべて喜ぶ。自分が心配をかけてしまったと月夜は理解した。
「その、なんだ?ごめん…」
「…ばか。無理しないでって、言った」
「ごめん。でもきっとこれからも俺は無茶し続けると思う。自分の中に譲れない何かがある限り」
「だったら…せめて、自分の身体くらい、大事にして…」
「わかった。できる限りやるよ」
((((こいつら仲良いな…))))
扉の隙間から様子を窺っていたアラン、リタ、ガルム、ミルムは全く同じことを考えた。何故ならこの会話、ルミナリアが月夜にちょうど乗っているように抱きついてる状態で行われているのだ。彼らの知るルミナリアはここまでスキンシップの激しい人間ではないので、ちょっと驚いているのだ。
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「「ゲツヤ、意識が戻って良かったな!ア゛ア゛ン?」」
「なんであんたら喧嘩腰なんだよ、昨日まで仲良かっただろ」
「ゲツヤさん…ごめんなさいね。ガルムがアランが風呂後の楽しみにしてたシャーベットを食べちゃったのよ。それで怒ったアランに売り言葉に買い言葉で…はぁ」
「エルミナさんも大変ですね…いや、本当に」
「ふふふ…わかってくれますか?この勇者一行は問題児しかいなくてですね…あ、ゲツヤさんもその1人なのでお忘れなく」
「いやまあ…その自覚はありますけど」
「なら直してくださいよ!?勇者一行関係の面倒事が起こった瞬間私かレイクに話が行くんですよ!?6人分の面倒を2人で見るなんて冗談じゃありません!なので大人しくしててくださいね?頼みますよ?」
「ぜ、善処します」
「はぁ…まぁいいわ。ほら2人とも、そろそろやめなさい。法皇陛下も来る頃合いよ」
「「………」」
「無言で睨み合わないでちょうだい…リタ、レイク」
「えー?私ですか?しょうがないですね…アラン、離れるわよー」
「また俺か…ガルムさん、もう少しで法皇陛下方来ますよ。ほら、落ち着いてください」
リタとレイクが2人の首根っこを掴んで無理矢理引き離す。しかも手つきがもう慣れているのだ。
「え?何?もうペットか何かと扱い同じじゃないですか?」
「ん?ああ、こうした方が手っ取り早いのよ。無駄に時間を消費させるくらいだったらこっちの方が断然いいわ」
「ソウナンデスネ」
月夜はめんどくさくなって片言で返事をした時、部屋の扉が勢いよく開いた。
「お主らー、体調は大丈夫かのー?」
「陛下…もう少し落ち着きを持ってください…」
「おうバルトラ、お主には言われとうないぞ。結構な頻度で情緒が安定しないお主からは特に、な」
「あ?」
「ん?」
法皇とバルトラは目線だけでお互いを牽制している。実際には見えないが、両者の視線はバチバチとぶつかり合っているように見える。
「法皇陛下、落ち着いてください。ゲツヤの回復を待ってからわざわざ呼び出したってことは、何かしら重要な連絡事項があるのでしょう?」
「おっ、そうじゃったな。アルカナ帝国から連絡があったんじゃよ。法皇国から帰還する前に帝城に顔を出して欲しい、とな。何を考えているかはわからんが、アルビアの王も許可しておるし、まぁ大丈夫じゃろ。帰還する前に数日ほど帝城に滞在するといい。今は重大な問題という問題も発生してないからの」
「勇者一行全員で顔を出せってことであってますよね?」
「その通りじゃな。…アランよ。そんな警戒しても私にはどうにもできないんじゃよ。諦めて帝城に行くのじゃ」
「だあぁ!あんな場所行きたくねぇよぉぉ!」
勇者アラン、魂の叫び。唯一事情を知らない月夜からしたら凄まじい困惑以外を感じることはないのだ。そこで月夜は1番近くにいたレイクに聞く。
「アランって何かあったんですか?その…死ぬほど錯乱してますけど」
「あ、ああ…そうだな…強いて言うなら、アランはモテモテであったとだけ」
「どういうことなんですかそれは」
レイクはお茶を濁した。もう、この上なくオブラートに包んで解答した。おそらく、レイクにできるのはこれが限界だろう。月夜が察することを祈るばかりだが…
「あー、うん、なるほど…なんとなく理解したわ。あれだ、俺の兄貴と同じパターンだ。あれだろ?色仕掛け連打するやつ」
「!ゲツヤ…お前もしかして俺の気持ちわかってくれるのか!?」
「どういう事かは知ってるけど俺は生憎経験した事ないんでな。共感はできん」
「くっ…お前もそっち側か…早くこっち側へ来い」
「嫌だが?」
「チッ…なんとかして道連れにしてやるからな」
「あのなお主ら…悠長に喋ってる時間は他に割ける時間を削ってるんじゃぞ?もう少し落ち着きを持てないかのう」
「無理ですよ、だって個性に塗れた実力のある変人集団。それが勇者一行なので」
「それをサラッと言う辺りお主も大概じゃな…」
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「ゲツヤー!もう行くぞ!」
アランが月夜の名を呼ぶ。先程までルーグ、ネア、レオンの3人に散々引き止められ、1人だけ遅れて来たのだ。
「みんな!ゲツヤさんも困ってますよ!ほら、くっつかないの…!」
「ううー☆」
「可愛いポーズ取ってもダーメ。ほら、お見送りしますよ」
「はーい」
最後の最後まで月夜にくっついてたネアだが、ローズに諌められて渋々月夜から離れる。すると月夜はネアの頭を軽く撫でてやり、晴れやかな声で言った。
「行ってくる。お前ら、ローズさんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「任せて!ゲツヤお兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
「わかった!行ってらっしゃい、お兄ちゃん!」
「お、お兄ちゃん…行ってらっしゃい」
「ゲツヤさん、この子達も心待ちにしてると思うので、また来てくださいね。くれぐれも訃報が届かないように」
「ああ、行ってくるよ。ローズさんも、任せてくれ。簡単に死ぬつもりはない」
月夜はそういうと馬車に駆け込む。すると馬車はすぐに出発し、月夜はローザ達に向けて大きく手を振る。ローズ達もそれに、手を振り返すのだった。
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アラン、ゲツヤ、エルミナ、ルミナリアの乗る馬車の中。
「それにしても…ゲツヤ、頑張ったとは言っていたが、どうやってあの魔族を倒したんだ?話では隊長クラスらしいが…」
「ああ、アラン達になら見せてもいいか。これだよ。《十二夜月符》」
月夜は手元に12枚の霊符を出すと、それを見せる。
「こいつは結界を張ったり、霊力を溜め込んでおいたり、身体強化もできるな。しかも空中で自由に動かせるから理論上空を飛べる」
「なるほど…便利だな。それでどうやって倒したんだ?」
「んなもん本気で身体強化してぶん殴っただけだしな…なんか変なことしたわけじゃないぞ」
「腹に穴が空いた状態でそれをやったら変なことに属するだろ…」
「確かに。ぐぅの音も出ないな」
「くっ…ゲツヤは常識人の枠であって欲しかった…!」
「感性自体は普通ですよ?率先してその感性を飛び越えてるだけなので」
「どこが常識なんですかそれの!」
「ん、ゲツヤは馬鹿、どうしようもない」
「これでも学業の成績はかなり良かったんだがな…」
「ふっ、私は次席。ぶい」
ルミナリアは月夜に見せつけるようにピースサインを押し付けてくるが、そこにアランが小声で突っ込んだ。
「確かに次席だけど実技によるゴリ押しだったような…」
「アラン、黙れ」
「わー、すごい短くてわかりやすく誤魔化した」
「首打ち「申し訳ありませんでした」…早い」
「ぶふっ」
「おいゲツヤ、今笑ったか?笑ったよな?ぶっちんぶっちんにしてやるよ」
「怪我人に死体撃ちしようとする勇者…リタにでも伝えてみようかしら」
「うぐっ…」
「やっぱアランって勇者なのに立場低いよな…おもろ」
「クソが…どうしてこうなった…!」
「はっ、最初からそういう運命」
「なんでだよ!最悪だよ!」
「まぁ…なんだ。アラン、どんまい」
「ゲツヤァ!お前は新入りだろうが!なんで新入りに憐れまれなきゃいけないんだよ!」
今日も勇者一行の会話は平和だ。この平和がずっとつづけばいいな…と、月夜は願った。
ーーーーーーー全てが始まる日まで、後3ヶ月。




