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いつ来る時の月夜まで  作者: 蒼華零
第一章
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過去話(6)

先に言っておきます、テスト期間中は投稿を行えません。そろそろテスト期間なので、5月1日〜5月20日までは執筆活動を控えますので、その間投稿はないと思います。ご了承いただけると幸いです。

「ようアラン。今暇か?」


「暇だけど、どうしたんだい?」


「ゲツヤとルミナリアが今バチバチに模擬戦やってるから一緒に見学でもしないかってな」


「ああ…確か、見学自由なんだっけ?」


「おう、鍛錬の邪魔にならなきゃいいらしい」


「じゃあ見に行こうかな。ゲツヤの成長も気になるし」


「おう、10分後訓練場集合だ」


**********


「剣聖流…"羽衣(はごろも)"」


「っ…どっせい!」


柔らかく、それでいて凄まじく鋭い剣戟。月夜はそれをギリギリでいなす。ルミナリアが手加減してなお、月夜はそれを受け流すことが限界であった。パワー、技術の両方が

負けているからだ。唐突に「今日はずっと模擬戦。準備運動したらすぐ始める。技は身体で覚えて」である。正直言って、理解に苦しんだ。


「甘い」


「ぐっ…あぶねっ!?」


ギリギリで受け流した隙を突かれて脇腹を蹴り飛ばされ、追撃で剣を振るわれたが、剣の方は顔面スレスレのところで回避した。一歩間違えれば大怪我を負うような苛烈な攻撃である。


この模擬戦の様子を始まった時から心配そうに眺めている人物がいた。リタだ。ルミナリアが月夜が怪我した時に治療する係として呼んでいたのだ。しかし、それはリタが毎回ボロボロになってもやめない月夜を見なければいけないわけで…あまりいい気分ではなさそうである。


「ぐえっ」


そうしている間に、ルミナリアの持つ模擬剣が月夜の腹部を突いていた。月夜は「もう一本」と言うが、流石にルミナリアが止めに入った。すでに100本を超える模擬戦を行なっている。これ以上は治療しても月夜の肉体に疲労が蓄積し、回復に時間がかかるからだ。


「お?もう終わっちまったのか?」


「はいはい、終わったみたいだから戻るよー、ガルムはやらなきゃいけないことあるでしょ」


「むう…仕方あるまい」


「アラン、ガルムさん、来てたのか?」


「今来たところだよ。まったく…このおっさんやることあるのにこっちに来ようとしてたのついさっき教えてもらったから連れてくね。ゲツヤ、訓練はほどほどにしなよ、やりすぎはかえって逆効果だからね」


「…わかってはいるよ」


「ゲツヤ、本当に言ってるの?それ。毎日頭おかしい時間を訓練に費やしてるの、みんな心配してるんだよ?」


「わかってるって。あ、今日この後西区の方で子供たちの遊び相手になって来るから」


「え?じゃあシャワーを浴びて、ちょっとお菓子を持ってから行くのよ?今貴方汗だくだから」


「わかってるよ、んじゃ」


月夜は持っていた模擬剣を元の場所にキチンと戻すと、走ってシャワールームの方へと消えていった。


「ルミナリア。訓練前に行ってたこと、詳しく教えて」


「わかってる。訓練にわざわざ呼んだのもそのため。勘だけど、近い内にゲツヤが危険な状態になる気がする。だから不慮の事故とかあるかもだから呼んだ」


「なるほど…わかったわ。この後みんなにも伝えましょう。その方がいい気がするわ」


「うん、わかった」


**********


「あ!ゲツヤお兄ちゃんだ!」


「「お兄ちゃんだ!」」


「おう、お前ら、元気してたか?」


「すいません本当に…うちの子達落ち着きがなくって」


「いえいえ、子供ならこんなものですよ」


月夜は西区にある孤児院に来ていた。この孤児院にいるほとんどは貧困問題による孤児ではなく、魔の神の配下達との戦争で亡くなった兵士達の子供である。まだ法皇国に来て2週間。すでに2回ここを訪れており、今回は3回目である。今月夜に抱きついてきている子供3人はそれぞれルーグ、ネア、レオンといい、ルーグが8歳、ネアとレオンが5歳である。ここの孤児院に3人しかいないのは、ほとんどの孤児はアルカナ帝国の孤児院まで行き、そこで生活しているからだ。そしてここの孤児院のシスターの名はローズ。30年以上孤児院を経営している温厚な人物である。


「今日はこれから買い出しに行こうと思うのですが、この子達も連れていっても大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。ちゃんと見ておけば迷子になることはないと思うので」


「買い物着いてく!お兄ちゃんとシスターについて行けばいいんだよね?」


「ルーグ、よくわかってるじゃないか。偉いぞ。お前が一番年上だから、ネアとレオンのことも気にかけてやるんだぞ」


「うん!」


「じゃあ…子供達の世話をお願いしても?」


「任せてください」


「ありがとうございます。北区の方の市場で構いませんか?」


「大丈夫ですよ。一応勇者一行のみんなにも伝えますね」


月夜がそう言うと1枚の霊符を取り出し、霊力を込めて領主邸に向けて飛ばす。低速遅延便から中速遅延便に進化して、ちょっとだけ手紙の配達速度が上がったのだ。ただ、本当にちょっとだけである。手紙はフワフワと、ゆっくり空中を漂っていくが、1時間もあれば送り届けることができるので、月夜は問題ないと考えた。


**********


「シスター、あれ欲しい」


「うーん、どうしようかしらね…」


「ルーグ、ネアとレオンもだけど、買い物で自由に買っていいのは1個までだ。変に高いのだといつものご飯が食べられなくなっちゃうだろうからちゃんと自分が1番欲しいものを選ぶんだよ」


「わかった!」


「八百屋のおじさん。キャベツとにんじん、だいこんとじゃがいも、もやし、りんごをいくつか頂戴な」


「おぅ、いつもの個数でいいのか?」


「ええ。お願いします」


「はいよ!キャベツ1玉、にんじん3本、だいこん1本、じゃがいも5個、もやし2房(異世界ではもやしが1つの房にまとまっている)、りんご1個だな。銀貨1枚と銅貨2枚になるぜ。最近色々と値上がりしてよ、同じ量なのに値段あがっちまったからりんご1つ、おまけしといたぜ」


「ありがとうございます。本当に最近、何もかも値上がりしてますね。食料品だけじゃなく衣服や土地代まで…」


「そうだよな…かくいう俺もバカ高い値段にまで値上げされちまった家賃に悩まされてるがな。ま、まともに食っていけるように法皇陛下が定期的に食糧やらお金を配布してくれるからな、本当に助かる」


「ん?あんたが連れてきたところのあんちゃん、なんか衛兵と話してねえか?争ってる、って感じじゃねえが」


「ーーぱりーまーーーーげきーーかね?」


「こっからじゃあんちゃん達がなんて言ってるかわかんねえな。なんの話をしてるんだ?」


八百屋の店主が立ち上がってなんの話をしているか聞こうとした瞬間、市場全体に伝わるような月夜が大きな声で叫んだ。


「傾聴!勇者一行に所属している雹牙月夜だ!たった今、法皇陛下が構築した魔族の支配領域付近に敷かれた探知結界を超高速ですり抜けていく謎の生命体を確認した!衛兵や冒険者達の指示に従い、この場所から離れるんだ!十分猶予はある!急げ!」


どよめきが広がる。勇者一行を割とほっつき歩いてるメンバーもいるため月夜がいることには驚かなかったが、いきなりの避難指示に民衆は動揺していた。そこに、衛兵や冒険者達が現れて素早く民衆たちを中央地区へと避難を開始する。その時、伝令の兵士より最悪の情報が入った。


「伝令です!結界を通り抜けて現れた対象がとんでもない速度で加速、到達までもう猶予が、」


「全員走れ!謎の生命体牙速度を上げた!俺が足止めする!」


月夜の目には、遠くから飛来する黒いエネルギーを纏ったナニカが見えていた。そこで月夜は腰の剣に手を添えると、息を整える。民衆はなんとかして助かろうと走り出す。衛兵や冒険者達がそれを無理矢理同じ方向へ誘導していく。そういった音をシャットアウトし、集中する。飛来するナニカが衝突するタイミング…その直前。月夜は剣を抜いた。月夜がその身に受けて唯一再現できた、剣聖流の抜剣術。


「"風然鳴莉(かぜなり)"」


黒く凄まじい衝撃と月夜の剣が衝突する。周囲の地面が抉れ、先程まで活気で溢れていた市場も、出店は骨組みから破壊されていく。月夜はその衝撃で多少吹き飛ばされたが、すぐに持ち直すと目の前の存在に剣の切っ先を向けた。黒い肌に黒いツノ、黒い翼。…魔の神の配下として有名な種族、魔族である。


「ほう!今のを受け止めるか!中々に骨がある、いやはや面白い」


魔族の背中から4本の蜘蛛の足のような鉤爪が生えてきた。


「俺は金色の軍、第62番隊隊長のラーク!異世界の戦士よ、貴様の身柄をいただこう!」


「俺の身柄が目的…か」


月夜はこの瞬間、すでに戦術を決定していた。


「おらぁ!」


ラークはその丸太のような腕を大きく振るい、周囲を破壊しながらその猛威を解放する。月夜はそれを真正面から弾き飛ばす…なんてことはせず、素直に回避を選択する。そこに対して鉤爪が襲いかかるが、月夜はそれを剣でいなしながら完璧に回避する。


「ふん、随分と小回りの効くコバエだな!」


月夜は変に口を挟むことはせず、次々と振るわれる致命的な一撃をすべて回避する。人間は自分達に劣ると考えている魔族は、このような事象だけでもすぐに怒りに身を任せる。このことは、バルトラから事前に教わっていることだ。より苛烈な攻撃を繰り出すラークだが、それらはすべて単調な攻撃となり、結果として月夜には一撃たりとも当たっていない。わかりやすい一撃を日々剣術と格闘術の最高峰クラスの師匠達に鍛えられた月夜が簡単に喰らうわけがないのだ。


「ちっ!ちょこまかと!」


ラークは両腕と4本の蜘蛛の足を同時に月夜に向けて攻撃を開始した。月夜を圧倒的に手数で封殺するつもりだったのだろう。しかし、その企みは一瞬で打ち破られた。


月夜の、何者も恐れない姿勢。ここでそれを最大に活かし、腕と鉤爪を掻い潜り、脇から背後へと回ることに成功した。最大限体重を乗せた月夜の一撃が、右下に位置する鉤爪を根本から両断した。すると、ラークは痛そうに顔を歪め、怒りを露わにした。


「このクソガキが…死にやがれッ!」


ラークは全力で両腕と鉤爪を振り回し、月夜を捕えようと言ったことなど忘れ、暴れ回った。月夜はさらに一本鉤爪を切り落とそうと、敢えて攻撃をギリギリまで避けず、当たる直前になって回避した。しかし、その瞬間、ラークは前に向かって大きく動いた。月夜は横をすり抜けたため、一瞬何のための行動なのか理解できなかった。だが、それにはすぐに気づいた。否、気づいてしまった。


「クソッタレッ!」


狙われたのは避難中の民衆の最後尾にいる冒険者だった。ベテランと思われる冒険者が反応して飛んでくる瓦礫などから民衆を守るための結界を強化するが、それは両腕の一撃で無惨にも砕けたり、3本の鉤爪が、最も近い女性冒険者に牙を剥いた。一撃でも致命傷になる攻撃の3連撃。女性冒険者は両腕の一撃による衝撃で一時的に動けなくなっていた。周囲からのカバーも不可能であり、女性冒険者が死を直感した時、甲高い金属音が2回、鳴り響くと同時に3本の鉤爪による攻撃は止まった。目を瞑っていた女性冒険者は目を開く。赤黒い液体が滴り落ちる。


ラークの凶刃が月夜の腹部を貫いていた。

豆知識メモ・1

ラークの背中に生えてる鉤爪の正式名称は『暴食蜘蛛(グラトニースパイダー)の足』といい、神経を接続して使用する道具です。一度つけると取り外しはできず、神経が通っているためダメージを受ければちゃんと痛みがあります。これは適応能力の高い魔族だから可能な事象であり、人間では拒絶反応を起こすため運用は不可能です

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