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第34話 武天"幼女"─最大で最初の賭け。

「くくくくく! かーかっかっか! かっかっか!」


 ──【武天】アマシュ・ヘイブンズ。


 青く晴れ渡るアレク湖の遺構の空。


 そう名乗った異質な"桃髪の幼い少女"。

 絶対強者の哄笑が響き渡る。


 ……はっ!? どういうことだよ!? 齢120!? いや、それよりS級冒険者!? 【武天】!?


 【武天】っていえば、確か冒険者ギルドに基本にして奥義の戦闘における体の使い方、あの〈戦基法〉を教えたとかいう……!


 ある意味ではプリアデやあのゴルドガルドのお師匠さまで、なんか人を食ったような性格してて、煙管キセル咥えてて……!


 その【武天】が、なぜか俺より年下の"幼女"の姿してて、おまけに俺たちと賭けをして! 俺たちが負けたら、あのやっとのことで、シルキアやプリアデが生命を懸けてまで手に入れた、真水竜の魔石を奪われる!?


 いったい全体何がどうなって、こんな厄介なことになってんだよ……!?


 そこまでを飲みこんでから、俺はその厄介ごとを持ってきたあたりまえのように空中に立つ理不尽の権化をにらみつけた。


「かーかっかっか! かっかっか……か!? ぶべぶはぶほっ!?」


 ちょうどそのときだった。


 その高笑いを響かせていた理不尽の権化が、突如として盛大に……むせだしたのは。


「げほがはぶほっ!? ぶべぶはぶふぶっ!?」


 演技でもなんでもなく、本気で涙目で激しく咳き込み始めた"幼女"にしか見えないアマシュに。


「お、おい……!?」


「ねえ、だ、大丈夫なの……?」


 地上にいる俺たちは、さっきまでのことも忘れ、その思わず庇護欲を抱いてしまう愛らしい容姿もあってか、思わずそろっておろおろとなってしまう。


「ああ、あんなに小さく愛らしい子が、あんなに苦しそうにしています……!」


 特にシルキアは、いますぐにでもその小さな背中をさすってあげたくて、うずうずして見えた。


 けれど空中にいるアマシュにその優しい手はとどかない。


「げほ、けほっ……! かふっ……!」


 俺たちが歯痒く見守る中、やがて空中にいるアマシュの呼吸がゆっくりと落ち着いてくる。


「う、うう……! ほ、本気で、死ぬかと思ったのじゃ……! そ、そうじゃ……! すっかり忘れておった……! 

 このわしの全盛期一歩手前、この愛らしピチピチニューボディーになってからは、若返り前、もといわしが病で伏せる前に吸っておった葉は、すっかり肺が受けつけんようになっておった……! うう、アレ高かったのに……!

 じゃ、じゃがいましばらくは、こっちにせんと……!」


 名残り惜しそうに煙管を下にし高級葉を捨ててから、いそいそとまた別のものを詰める。

 今度こそ心の底から美味そうにアマシュは吸い出した。


 ん? 微かに漂ってくるこの爽やかな香りは……薄荷ミントか? ほのかに甘いし、もしかして砂糖も少し入ってる?


 ていうか、薄荷煙管ハッカパイプって……やっぱ見た目どおりの幼女そのものじゃねえ?


「ぷはぁ〜! あんまくて美ん味いのう〜! やはりしばらく、少なくとも手足が伸びきるまではこっちじゃなぁ〜!

 ……まああやつが調合した超激ヤバ秘薬で若返ったこの体が普通に育つかどうかはあやつも『さあ? 知らない。僕は微塵も興味ないし』と、さっぱり保証せんかったし、正直怪しいものじゃが……それはさておき、のう!」


 そうして薄荷をしばらく美味そうに吹かしていたアマシュはひととおり満足したのか──突如として一瞬で地上に降り立った。


 ひどく静かに、ふわりと。衝撃もなく。まるで最初からそこに立っていたかのような自然さで。


 そのまま美味そうに煙管で甘い薄荷を吹かしながら、告げる。


「いやいや待たせたのう。では、そろそろおぬしらが気になって仕方がないじゃろう賭けの内容について教えてやろう。

 なぁに、簡単じゃ。おぬしらの誰でもよいぞ。たった一撃、このわしにダメージを入れること。それだけじゃ」


 再び、いや先ほどまでの空中よりもごく至近距離。

 さらにその存在感を増したS級冒険者の強大な魔力と圧に、俺たちは臨戦体勢のまま、誰も動けない。


 ニィィィッとその愛らしい顔貌が口の端を嗜虐的につり上げる。


「かっかっか! なぁに、安心せよ! 雑魚稚魚でヒヨッコの【竜殺し】どもよ! そんなに心配せずとも、まだまだ条件は軽くしてやろう! 

 まず、わしは一切攻撃はせぬ! このおぬしらごてきに魅せるにはもったいない愛刀を抜くことはもちろん、殴りかかることすらもない! かわすこともな! そして、おぬしらの攻撃すべて」


 アマシュはこれ見よがしに、見せつけるようにその白く小さな左手を突き出した。


「このかよわく華奢な愛らしきらぶりぃな童女わらはめの手一本で防ぎきってみせようぞ! くっくっく! かーかっかっか!」


 ──火がついた。


 さすがに、怒りが沸いてくる。


 俺たちとS級。それほどの差があるのか。


 勝手に、理不尽に絡んできておいて。どこまでも雑魚だの稚魚だヒヨッコだのと舐めくさって。


 ──それに、さっきのアマシュの言葉。


『もし、おぬしらが勝った場合の報酬じゃが──なぁに。ここから生かして帰してやっても、よいぞ?』


 あれは、きっと冗談でもあり本気だった。


 たとえいまはその気はなくても、どちらにでも容易く転び得る、理不尽の権化。


 結局、どこまでも俺たちの生殺与奪は、この気まぐれ"幼女"アマシュ次第だ。


 つまり、本当に必要な勝利条件は、"交渉"。


 だったら、まずはきっちりと賭けに勝って! S級のその空の上の天空城にとどくほどに伸びた鼻ぶち折って! 俺たちが生を握るための交渉のテーブルに着かせてやろうじゃねえか!


 俺たち家族の手で……! そのためには……!


 三人で互いに目配せし合い、うなずく。


 俺たち家族の思いは、いま一つだった。


「なら、最初はある意味、あなたの弟子でもあるあたしからいくわ」


 ──【俺の家】の使用魔力の波長を場に合わせて最適化。


 俺が静かに闘志と勝つ算段を練り上げる中。


 そう告げて剣を構え、プリアデが前に出る。


「んぁ? わしの弟子ぃ?」


「ええ。名乗らせてもらうわ。あたしは、B級冒険者プリアデ・ペディントン。

 あなたが伝えた戦いにおける基本にして奥義、〈戦基法〉。お母さまから教わった剣とともにその技術を練り上げ鍛えることで、あたしは強くなったわ。竜に剣がとどくほどに」


「ほうほう。なるほどのう。〈戦基法〉、わしが気紛れで教えたあの、文字どおり戦いの"いろは"か。

 ふうむ、役に立っておるようでなによりじゃ。ならば一つ、雑魚稚魚の弟子とやらに、偉大な師匠であるこのわしの胸をありがたく貸してやるとするかのう。ほれ、いつでも来い」


「言われなくても……! はああああぁぁぁっ! 魔力燃焼、昇華……!」


 プリアデの魔力が迸り、練り上げられていく。

 全身に、剣を覆いつくし、切先に。


「いくわよ……! 【竜殺し】を成したいまのあたしの全身全霊全力の一刀! 受けてみなさい! 〈地摺り──孤〉っ!」


 裂帛。


 地を這うような姿勢から爆発的な魔力とともに為された天を裂く斬り上げ。


「なるほど。健気じゃのう。未熟さを補うためにか、自らの身を削る全身全霊の一撃とは」


 直後。


 俺たちを助け、救い、危機を乗り越え、強敵を討ち果たす力となり続けてきた一撃が。


「──まあ、わしにはとどかぬが」


 絶技。


 切先が触れる刹那。内から剣の腹を強く。叩いた左手諸共、一瞬で外へと、弾かれる。


「くっ……! なら、あとは……!」


 外れ、虚しく弧を描き地より天を刻む長大な魔力の刃の軌跡。


 ニィと嘲笑うアマシュ。


 ──そして。


「……頼んだわ!」


「はい。おまかせを。シルキア・ハースメイド、まいります」


 間髪入れずに、次なる刺客の刃が襲いかかった。


 ──自ら宣言した唯一の左手《盾》を外へと大きく逸らされた、無防備にその小さな体をさらすアマシュに向かって。

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