表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/39

第1話 【俺の家】、起動!

 ──だから決めた。家ごと、往く。


 ***


 ズドォン! 轟音とともに放たれた一撃が魔物を爆砕させる。跡には何も残っていない。

 それを確認し、俺は――仮想戦闘モードを終了させた。


「よっし! 3021項目の動作チェック、すべて完了! 約3年、15歳にして、くーっ! ついに、完成したぜ!」


 青白い魔力光が操作室を満たし、壁の魔力回路が脈打つように輝く。

 カタカタと操作盤を叩く指を止め、俺――魔導技師ヒキール・コーモリックは両腕を上げ、快哉を叫んだ。


 俺は筋金入りの出不精だ。外に出るなんてめんどくさい。

 ある事情で生まれつき体が弱く、ちょっと走っただけで息が切れ、体が熱くなって動けなくなる。


 前に少し鍛えようとしたら、動けなくなった俺をベッドに運び、シルキアに夜通し看病されたのが記憶に新しい。


 いまは、屋敷でぬくぬくと過ごしながら、俺を弟のように可愛がってくれる銀髪美人メイドのシルキアが甲斐甲斐しくお世話してくれる。


 俺にはそれで十分だ。いや、最高だ。


 コーモリック家は、世界的に超有名な魔導技師の大家だ。

 ご先祖さまたちはいまも世界中で人々がその恩恵を受ける生活魔導具や魔導機構の原型を築いた世界的偉人ばかりだし。


 クソ親父――父は都市間をつなぐ通信魔導具を発明し、巨万の富を得た。

 俺を育ててくれた祖父も偉大な発明家だが、12歳で当主になって約3年。


 ――俺は、まだ何も成し遂げていない。


 もともとあまり家に寄り付かなかった父は、まだ俺が幼い頃に病気がちだった母が亡くなった直後。


『未踏領域を目指す』とだけ告げ、失踪。


 3年前に祖父も亡くなり、いまやシルキアが俺の唯一の家族だ。


 もちろん、コーモリック家の血を継ぐ俺も、研究は大好きだ。超超超好きだ。


 でも、俺がしたい超高レベルの研究に必要な秘境や魔境の希少素材は、冒険者に頼むと金も時間もかかる。

 それに、この世界には、地図にすらない未踏領域だって、まだまだたくさんある。

 そこにある未知の素材を手に入れたら、俺の研究はどこまでいけるんだろう。


 きっとどこまでも遠く、海を、空を越えて、誰も見たことない高みまで。


 3年前、星空の下で祖父が俺にくれた一抱えほどの黒い結晶。


 天から落ちてきたという【黒星の欠片】。


 かつて父が未踏領域の一つを踏破して持ち帰った、とてつもない量の魔力を秘めた輝き。


 父はその輝きに心を奪われ、家族を顧みずに俺と母を捨てた。


 でも、俺は違う。父を超える。

 シルキアと、世界に出ればこれからきっと出会えるまだ見ぬ共に夢を追える新たな家族と一緒に、すべての未踏領域を制覇し、


 ──全世界が認める、史上最高の魔導技師になる。


 そのために、家の資産と魔導技術の粋を注ぎ込んで魔改造したこの移動要塞【俺の家】を、今日ついに俺は完成させた。


「シルキア!」


 逸る気持ちで操作室を飛び出し、俺は長い廊下を駆ける。


 バタン!


 外部魔力センサーのセキュリティに反応。間もなく家の入口が開いた。


「ただいま戻りました。もう、ヒキールさま。落ち着いてください。走ったら危ないですよ。めっ、です」


 さらりと輝く銀髪を三つ編みにしたメイド服のシルキアが、紫水晶のような瞳で指を口もとに添えて俺を優しくたしなめる。


 シルキアは代々コーモリック家を支える、超優秀な従者を輩出する名家、ハースメイド家の娘。


 4つ年上の19歳。


 幼い頃に母を亡くした夜。涙ぐむ俺の手を星空の下で握り、抱きしめてくれたシルキアは、その日からずっと、俺の姉であり、家族だ。


「シルキアっ!」


 もう一度叫び、湧き立つ想いのままに飛びつく。

 シルキアは包みこむようにやわらかくその大きな胸に俺を抱きとめてくれた。

 華奢に見えてその体幹にブレはまったくない。

 姉のようにあたたかく俺の黒髪を優しく撫でてくれる。


「ふふ。もう、そんなふうに飛びついたら危ないですよ。15歳になり成人なされても、まだまだ目が離せませんね。そんなヒキールさまがシルキアはかわいいのですが」


 シルキアの声は、労わるように甘く優しい。


 まるで幼い頃、『お父さんが家を出ていっちゃった』と夜通し泣きじゃくる俺をベッドの中で抱きしめ、あやしてくれたときのようだ。


「なあ、シルキア! 聴いてくれ! ついに完成したんだ! 3年かけた俺の夢! もうこの人里離れた何もない田舎にひきこもるのは終わりだ! 俺の夢は、ここから始まる! 世界最高の魔導技師になってみせる!」


「まあ、本当ですか! おめでとうございます、ヒキールさま! よかった……本当に、よかったです……! シルキアは、ずっと信じていました…!」


 瞳を潤ませたシルキアが胸の前で手を合わせ、微笑む。


「おいおい、そんなに泣くなよ」と、ハンカチを差し出すと、シルキアはそっと目元を拭った。


「ぐすっ……! この3年、最寄りの街へ買い出しやお使いへ行くたびに、『ひきこもりの穀潰し坊ちゃん』と陰口を叩かれるのを耳にしても、私はおそばでヒキールさまがひたむきに研究に打ち込む姿をずっとずっと見ていましたから……! 

 いまは亡きヒキールさまのお母さまから、『シルキア、どうかあの子をお願い』とヒキールさまを託された身として、本当に本当に嬉しいです……!」


「お、おう……! ありがと、な……!」


 なんだか気恥ずかしくなって、子どもみたいに思わずそっぽを向いてしまった。


 世間でどう陰口を叩かれようが、正直まったく気にならない。……ある意味では事実だし。


 けど、シルキアがそんな想いでいてくれたなんて、初めて知った。


 ――母さん。


 俺はそこで居住まいを正して、シルキアと向き直った。


「シルキア。これから俺は、世界に出る。秘境に魔境、そしてすべての未踏領域を目指す。一緒に行ってくれるか?」


 輝く紫水晶の瞳に、迷いはなかった。


「はい! ヒキールさまと一緒なら、どこまでもついていきます!」


 その言葉に、俺の胸が熱くなる。

 二人ならきっと、どんな秘境や魔境、未踏領域だって怖くない。


「そういえば、シルキア。冒険者ギルドへのおつかい、どうだった?」


「はい、無事に済みました。少し絡まれましたけど、ちゃんと《《お話》》したらわかってくれましたよ。でも、ヒキールさま、気をつけてください」


 途端に、シルキアの瞳が真剣な色を帯びる。


「近隣の魔境の森から、なんと二千体を超える魔物のスタンピードが発生したとのことです。

 すでにいくつかの村が壊滅。避難民が逃げ込んだ近郊最大の都市テファスからは、200人の冒険者が迎撃に出ているらしく。

 危ないから、絶対に近づかないようにしましょう!」


 ――それを聴いた俺は、赤い瞳をきらきらと輝かせた。


「マジか、スタンピード!? そいつはおあつらえ向きだ! 【俺の家】の戦闘機構を試すには、最高じゃねえか!」


「――はい? 【家】?」


 シルキアが目をぱちくりとさせ、俺はニカッと笑う。


「ああ、そうだ! 家ごと往くんだよ、シルキア! 俺の3年間の努力と夢の結晶! この移動要塞【俺の家】で!」


 ――ガシャン!


 生体魔力通信操作。


 全方位の魔力センサー、大気中の魔力吸収機構を起動。


 移動要塞の動力源――膨大な魔力を秘めた【黒星の欠片】が輝きとともに動き出す。


 屋敷の外壁。大木の幹のように太く頑丈な8本の魔法金属脚が外で蜘蛛のように展開。軋み、地面をしっかりと踏みしめる。


「ヒキールさま!? や、屋敷が……この【家】が動いてますっ!?」


「へへ! 悪ぃ、シルキア! 説明は道中な!

さあ、往くぜ! 秘境、魔境、未踏領域に未知の素材! そして世界のどこかにいるかもしれない、俺と共に夢を追える新たな家族なかま! 見てろよ、クソ親父! いま俺があんたに追いつき、超えてやる! さあ、まずはスタンピードだ!」


 ――ガシャガシャン!


 シルキアを腕に抱き、俺の止まっていた3年の時計の針を動かすように、【俺の家】が動き出す。


 直後。魔力センサーが遠く高く、空の上の魔物を捉えた。

 肉眼では豆粒にしか見えない距離を魔導カメラとモニターではっきりと捉える。

 空を悠々と飛ぶ白い巨鳥。見た目は美しいが、ときに農作物や家畜を荒らす害獣だ。


「よっし! 試運転ついでだ! 【家】の完成の祝砲代わりに、一丁いくか!」


 ズドォンッ!


 斜め上へと向けた光の奔流が巨鳥魔物を一撃で吹き飛ばす。

 まるで祝福のように白い羽が舞い、俺たちの往く先に降り注ぐ。


「へへっ! どうだ、シルキア! この【俺の家】の火力、すげえだろ!」


 シルキアは、呆然としていた。


「こ、この威力……!? ヒキールさま……まさか、本当にスタンピードに……!?」


「さあ、次は二千体の魔物だ! 往くぜ、シルキア!」


 ――こうして、俺は。


 父を超えるために、世界最高の魔導技師になる俺の夢のために。

 そして、世界のどこかにきっといるいるはずのともに夢を追える新たな家族なかまを求めて、未踏領域へと続く道を。


 大切な姉のような家族シルキアを傍らに。


 ――【俺の家】とともに、その偉大なる"一歩"をいま世界へと踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ