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隣の席になった美少女が惚れさせようとからかってくるがいつの間にか返り討ちにしていた  作者: 荒三水
第二章

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かわいいチャンス


 玄関を出て二人になるなり、マンションの通路を歩きながら唯李がぼやいた。


「図書館で勉強とかあたしも聞いてないんだけど?」


 そしていきなりこの仏頂面である。

 テスト前なのだから何もおかしいことではないのだが、なぜか「勉強とかそんなんありえないんだけど?」みたいな口調。

 

「さっきのは瑞奈の手前ね、話がややこしくなると困るので」

「どういうこと?」

「まあ、こっちの話」


 万が一「瑞奈も行く!」と始まってしまうと色々と台無しなのである。

 とりあえず唯李には行き先はヒミツ、ということにしてそのままマンションを出て、悠己が先立って路地を歩いていく。

 すぐ隣を唯李がるんるんと上機嫌でついてくる。足取りも軽い。


「ねぇねぇどこ行くの? ヒミツってことは、もしかしてあれかなぁ? すごいサプライズ的なものがあるのかなぁ~?」

「やっぱイデオンが最強だよね」

「サンライズじゃねえぞ言っとくけど」


 そんな会話をしながら、コンビニのある大通りの角へさしかかる。

 するとちょうどその目の前を、花柄模様のついた白いワンピース姿の女性が横切った。

 

 無造作に下ろした長い黒髪と、白のコントラストが映える。

 まるでモデルのようなプロポーションをしていて、歩いているだけで周囲の空気感を変えてしまいそうな、そんなオーラを放っている。

 男性ならば、思わず立ち止まって目を留めてしまいそうだ。

 悠己も彼女の服の裾からすらっと伸びた足につい目がいっていると、


「ちょっと、目。目線」


 唯李がすっと腕を横から伸ばしてきて、手のひらで視界を覆ってきた。

 別に何を見てようが、目隠しされる筋合いはないと思うのだが……。


「あらっ。唯李じゃないの、どうしたのこんなとこでぐうぜ~ん……」

 

 と非常に聞き覚えのある声がして、ぱっと目の前が明るくなった。

 唯李と彼女が目を見合わせていて、

  

「凛央ちゃん……?」

「ぐ、偶然ね~びっくりだわよ~……」


 今回実は凛央と示し合わせて、うまい具合に鉢合わせするように仕向けたのだ。

 つまり偶然出会った風を装い、じゃあ一緒に遊びましょうか、の流れに持っていくという作戦。

 ……まあ作戦というほどのものでもないが。


 それにしても凛央のあまりの変わりように、すぐに気づかなかった。

 目元がいつもよりぱっちりとしていて、唇にもやや赤みがさしている。

 どこぞのモデルのお姉さんか、果たして悠己ごときの平凡が気軽に話しかけていいものか。

 

 ふとそんなことを思ったが、当の凛央は口調からして超不自然だった。しかもやたら挙動不審でせっかくのクールビューティー感が台無し。

 演技下手くそかと思った。やはり素人には名女優唯李のような真似は難しいか。


「……こんなとこで何してるの?」

「えっ、あ……」


 唯李に尋ねられた凛央は、いきなり悠己に助けを求めるような目線を送ってきた。

 まさにノープランの極み。頭脳明晰な凛央のことだから、そのへんもきっちり作り込んでくるのだと思っていたのに。


 もちろん悠己側もノープランなので、自分でなんとかしての視線をそのまま返す。

 凛央は目線をあちこちにさまよわせた後、なぜかコンビニを指差しながら、


「あ、あ……」

「あんまん?」

「いや、そのっ……」

「おでん?」

 

 凛央はただ口をパクパクさせてラチがあかなそうなので、とりあえず話をそらそうと悠己は間に入っていって助け船を出す。

 

「いやぁすごい綺麗でびっくりした。見違えたよ」

「そ、そう? あ、ありがと……」


 そう言ってやると、凛央にしては珍しく恥ずかしそうにうつむいた。

 今のはお世辞ではなく正直な感想である。


「服が違うとけっこう印象が変わるね」

  

 改めて上から下に凛央の全身を眺めていると、視界の端にちらちら唯李の顔が見切れてくる。

「何?」と聞くと、唯李は自分のスカートの端を軽くつまんでみせて、


「これは?」

「服」

「ずいぶん視点のお遠いこと」

「唯李の私服は何度も見てるし」

「もう見飽きたってか」


 こちらも何やら模様のついた薄い青のスカートにシャツ、下が透けるような薄い白のカーディガンを羽織っている。

 なるほど悠己とは違い、毎回違う服を着ているようだ。つまりそういうことかと思い、

 

「うんうん、唯李もかわいいよかわいい」

「遅いんだよなあ……かわいいチャンス何回あったと思う?」

「なにそれ」


 割って入ってきた唯李とあれよこれよと言い合いになる。

 ふと拍子に凛央の方を見ると、話に入ってくるようなことはせず、ただうつむいたまま棒立ちで黙っている。

 何をじっと見ているのかと思ったら、なぜか道に落ちている何でもない石を凝視していた。

 これはいかんとすぐさま凛央に向き直り、


「ちょうどいい、凛央も一緒に行こうか」

「うぇっ?」


 唯李が奇声を上げながら、ぐりんと首を回転させて悠己を見た。

 かなり驚いているようだが、声といい目の見開き具合といいこちらこそびっくりだ。

 予定では「わーいいねいいね、凛央ちゃんも一緒に行こう!」とテンション高めにはしゃぐのだとばかり思っていたのに。

 

「うぇって、友だちでしょ?」

「そりゃそうだけど……」

「え、嫌なの?」

「い、嫌なんて言ってないじゃない!」


 じゃあその煮え切らない態度は一体何なんだ。

 そんなやり取りをしている間にも、凛央が目を右往左往させながら困惑顔をしていて、何かもう顔色が青ざめかけている。

 目配せしてやると唯李もヤバイと思ったのか、


「そ、そんなことないよ、仲良しだもん! ねー!」


 これみよがしにぐっと凛央の手を握って、ぶらぶらと前後に振ってみせる。

 すると凛央の顔色がさっと変わり、目に見えて頬に赤みがさしていく。

 

「もう悠己くんなんて置いて二人でいこっかぁ!」


 その動作とは裏腹に何か機嫌を損ねたのか、唯李の口調が少し刺々しい。

 行こっかぁ、と言うが一体どこに行くつもりなのか。 

 実は行き先はヒミツというか、今日の予定は最初から凛央任せで悠己は何も考えていなかったのだ。

 でもまあ、二人で行くというならそれはそれで悠己の目的は達成なので、

 

「じゃ、俺はこれで」

「いやちょい待てい! なんなの!? ヒミツってなんだったの!?」

「ごめん、実は今日もノープランなんだ」

「は?」

 

 唯李から殺気に近い何かを感じたので、すぐさま凛央に話を振ってごまかす。


「凛央はどこに行くつもりだったの?」

「ええと、図書館でテスト勉強しようかと……」

「えっ……」


 まさかの嘘から出た真。

 唯李がないわーみたいな顔を一瞬したが、だからなぜそう露骨に顔に出すのか。

 当然凛央もそれを感じ取ったらしく、

 

「え、えっと、唯李は……」

「いやぁその、勉強道具とか……持ってきてないし?」

「そ、そうよね! せっかくの休みにテスト勉強とかやってる場合じゃないわよね!」


(やってる場合なんだよなあ……)


 二人とも来週テストだということを忘れているかのような口ぶり。

 凛央は急に声を上ずらせて変なテンションで、

 

「勉強はいいから、今日はパーッと遊びましょ、パーッとね!」


 必死に唯李に合わせようとしているのか、明らかにキャラがおかしい。

 本来勉強やらないとダメでしょ、って怒るキャラのはずだ。

 しかし唯李はそれで満足したのか、


「凛央ちゃんと遊ぶの初めてだからなんか不思議な感じ~」


 やはり初めてだった。

 あっさりボロが出た。


「それで、何して遊ぶの? どこ行く?」

「え、ええとねえ……」


 凛央はまたしても悠己に目線を送ってきた。

 パーッと遊ぶ、と言われても休日に同級生と遊びに出かけるようなことがないので、悠己も勝手がイマイチわからない。

 ゆえに遊べないという負のスパイラルに陥っている。そしてそれはおそらく凛央も同じなのだろう。

 パス、とアイコンタクトを返すと、凛央はチラチラとあちこち視線を泳がせながら口を動かした。


「それは……ゲ、ゲ……」

「ゲゲゲ?」

「ゲ……ゲームセンターとか?」


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ハチャメチャな感じがグー!まっ、こーやって交友関係を広げてゆくんだねっ!
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