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隣の席になった美少女が惚れさせようとからかってくるがいつの間にか返り討ちにしていた  作者: 荒三水
第一章

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気になるランキング一位

 

 最後の授業が終わると、悠己は早々に帰り支度を始めて席を立ち上がった。

 すると隣でまだ授業のノート類すらしまっていなかった唯李が、


「あれ、もう帰るの?」

「うん。さよなら」


 それだけ答えて悠己は足早に立ち去ろうとするが、唯李がぱっと手のひらを突き出してきて、


「ちょっと待った」

「え?」

「待ってて」


 そう言われてしまい、わけも分からずその場に立ちつくす。

 やがて帰り支度を終えたらしい唯李が席に座ったまま、

 

「もういいよ」


 とだけ言ってくるので、やはりよくわからないままに首をひねりながら教室を出ていく。

 途中入口付近で園田に捕まりそうになったがうまくかわして廊下へ。

 そのまま一人で昇降口を抜け、校舎を出て校門のあたりを通り過ぎると、突然背後から追い抜いてきた影が悠己の前に立ちはだかった。


「づゃーん!」


 両手を広げて変なポーズを取る女子生徒――何かと思えば野生の唯李が飛び出してきた。


「……何?」

「一緒に帰ろっか」


 訝しむ悠己に向かって唯李はにこっといつもの笑みを向けてくると、勝手に隣を歩き始める。

 しかしあまりに普通に誘われたので、ついまじまじと唯李の顔を見てしまう。


「雨じゃない日は自転車って言ってなかった?」


 そもそも歩きで来ている事自体に疑問符がつく。

 雲が多く風こそ吹いているものの、朝から雨は一滴たりとも降っておらず、予報でも降水確率はほとんどゼロだった。

 

「最近ちょっと歩きにしようかなぁ~って。少し運動したほうがいいかなと思って」

「無駄肉付きですか」

「あ?」


 冗談で言ったのにドスをきかせてきた。

 それ系はやはり女子には禁句なのだと、唯李の体へ上から下に視線を走らせながらフォローを入れる。


「全然、太ってるふうには見えないけど」

「ち、ちょっと、あんまりジロジロ見ないでくれます?」

「いや足が綺麗だなって」


 すらりと伸びた長い足に、短めの紺のソックスと黒のローファー。

 チェック柄のスカートの長さは割と標準。結構短くしている子もいるので標準以上かもしれない。

 唯李は手ではしっとスカートの裾を押さえつけるようにして、若干顔を赤くさせながら、


「そ、それ! 完全なるセクハラですよ? 今はそういうの厳しいからね!」

「あ、そっかごめん。金輪際そういうのは一切言わないことにする」

「でもまぁ事実だからね。つい口に出ちゃうのはしょうがないかな」


 すかさずそう返されて謎の間がある。

 唯李がちらっと顔色をうかがってくるので、

 

「褒められるとうれしいんだ?」

「そんなことは言ってません」

「複雑だねえ」

「女の子はいつだって複雑よ」


 なんだかものすごく似合わないセリフを言った。

 もう余計なことを言うのやめておこうと黙っていると、


「なんていうか、歩く歩かないはただの口実で、本当は悠己くんと一緒に帰りたいなぁ~……なんて」


 若干前かがみになった唯李が、こちらを覗き込むようにお決まりのドヤ顔を向けてくる。


(やっぱりそういうことか)


 やはり完全にロックオンされてしまっている。

 彼女の隣の席でいる限り、もはやそれは避けられないらしい。


 どう反応すべきか迷った悠己は、結局それきり黙ってしまった。そう来られると、どうにも応対に困るのだ。

 しばらく静かなまま歩いていると、耐えきれなくなったのか唯李がこそっとつぶやくように言う。

 

「悠己くん相変わらずATフィールド全開だよね」

「そう? だいぶ中和されてる気がするけど」

「誰が使徒だよ」


 そんな風に唯李がちょくちょく話しかけてはくるが、会話はすぐに終わってしまう。

 そしてまた一緒に歩いているのにお互い無言、といういつかと同じ状態になりつつあった。

 

 ちらりとこっそり唯李の表情を盗み見ると、なんとなく元気がないようにも思えた。

 唯李のほうから何か仕掛けてくる様子もない。前に黙られると不安になる、とは言っていたが……。

 なんだかよくわからなくなって、悠己は自分から声をかける。


「別に不機嫌とかじゃないよ」

「へ?」

「自分から話すのあんまり得意じゃなくてさ。それとただリアクションが薄いだけだから」


 そう言い放つと、唯李は少し驚いた風に目線を上げて、悠己の顔を見た。

 そしてわずかに口元を緩ませながら、


「それ、決まり文句のように言うけど……そんなんじゃ納得できないからね?」


 口ではそう言いながらも、唯李の声音に徐々に勢いが戻ってきた。

 

「あたしとしては、悠己くんがもっと怒ったり悔しがったり泣いたりするところが見たいわけですよー」

「それは俺をいじめようとしてないか」


 唯李はくすくすくす、と笑いながら口元を抑えた。

 すっかりご機嫌になったらしく、ぐっと体を近づけてきて弾んだ声で尋ねてくる。


「ねえねえ、どこか寄ってこっか」

「どこかってどこ?」

「どこかってどこか」


 自分で言い出したくせに全くお話にならない。

 とはいえ悠己はもともと真っ直ぐ帰るつもりでいたので、すっぱり断りを入れる。


「妹が気になるからまっすぐ帰るよ」

 

 どこぞのネットの動画の真似か知らないが、昨日はコーラにメントスを投入して床をベトベトにしてくれた。

 悠己が帰ったときには時すでに遅しだった。瑞奈は「好奇心に負けました。残念!」と悪びれもしなかったが、元気すぎるのも考えものだ。


 瑞奈は「授業が終わったらいちばん早く教室を出て帰るから」と豪語していることもあり、毎度帰宅が早い。

 帰宅部は遊びじゃないんだよ。とかなんとか言っていた。

 しかし実際は部活動は強制参加のため、一応名目上は美術部員になっているはずなのだが、要するに行かないでバックレまくっているということだ。

 

 といってももちろんそんなことを長々と話すことはしない。

 悠己がそれだけ言うと、唯李はおおげさに頷くそぶりを見せて、


「ふ~ん、また妹ね……。でもさ、今日はあんまり話せてないよね」

「……それはノルマでもあるの?」

「毎日きつくって……」


 唯李は目をつぶってつらそうな顔をしてくる。

 悠己が「そんなバカな」と一蹴すると、

 

「でも唯李にしてみたら、俺なんてたくさんいるクラスメイトの中のその他大勢であるからして……」

「そんなことないよ? 成戸株はあたしの中で現在急上昇中だから。今気になるランキング一位」


 唯李はふふん、と得意げに笑う。

 そういう風に笑う時はかましてやったよのサインなので、


「それ二位は?」

「に、二位? え~っと、急に言われても……」

「二位以下のないランキングなど意味がない。よってブラフ」

「それブラフ言いたいだけでしょ。そもそも使い方おかしくない?」

「なら俺だって、唯李は女子の中で喋った回数一位、一緒に帰った回数一位……」

「それ、二位は?」

「……」


 それこそ急に言われても、だ。

 最後に女子とまともな会話をしたのはいつだったか、誰だったか思い出せない。

 してやったりなのか、唯李は妙にうれしそうに体を揺らした後、わざとらしくため息を吐いて、

 

「はぁ~あ。そんなんじゃ悠己くんの将来が心配になってきたよ。もっと社交性をだね……そんな調子じゃ、まともな大人になれないよ? 悠己くんって、友だちとかもあんまり……だろうし、それと、その……か、彼女とかも? いない、だろうし?」

「え?」

「えっ?」


 向こうがすごい勢いで首を曲げて見つめてくるので、思わず立ち止まって顔を見合わせてしまう。

 唯李はぱちぱちぱちと真顔でまばたきを繰り返しながら、

 

「か、彼女、いるの?」

「いや、いないけど?」


 お互い疑問系のまま見つめ合って固まる。

 少しの変な間の後、唯李が先に相好を崩した。止まったり笑ったりと忙しい。


「そ、そうだよねぇ~やっぱりねえ~。びっくりさせないでよ~」

「いやぁ、なんかうちの妹みたいなこと言うなぁって、ちょっとびっくりして」

「へ~? でも妹さんわかってるなぁ。きっとしっかりものだね」

「いやしっかりはしてないけど」

「またまたそうやって」


 瑞奈よりもふわふわしていると思われるのは非常に心外である。

 

「彼女作れ作れって、最近急にうるさくなって」

「ふ、ふぅん~? そ、それで悠己くん的には……何かあてはあるの?」

「いや全然。そもそも彼女になってくれって言ったところで、オッケーしてくる人なんているわけないしね」

「や、や~そっか~。でも意外に……案外ね、いい物件がすぐ近くにあったりとかね……」


 やや言いよどみながら、唯李がちらっちらっと変な目配せをしてくる。

 こうまでしつこく、それも露骨にやられると、さすがの悠己もおとなしく黙っている、というわけにもいかなくなった。

 

(やっぱりここらで一回、はっきり言ってやらないと)


 そう考えた悠己は、意を決して唯李に向き直る。


「あのさ……もう本当に、いい加減やめよう? 惚れさせゲームとか、そういうくだらない真似はさ」


 悠己がきっぱりそう言い切ると、唯李はまっすぐに見返してきた。

 やや緩んでいた口元はいつしかきゅっと引き締まっていて、めったに見せない表情のように思えた。


 一度視線を切った唯李は一歩二歩大きく前に出ると、くるりと振り返って、再度悠己を正面から見つめてきた。

 お腹の下あたりでカバンをぶら下げる両手に、きゅっと力が入ったのが見えた。


「……あたし、ゲームやってるつもりはないよ」

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― 新着の感想 ―
ゲームじゃなくて本気だヨ!?と告白するんですか(@_@。
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