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隣の席になった美少女が惚れさせようとからかってくるがいつの間にか返り討ちにしていた  作者: 荒三水
四章

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遊園地デート(仮)の前日

 くるみに誘われたクリスマス遊園地デート(仮)の前日。夜も九時を過ぎたころ。

 鷹月宅二階の一室では、ベッドの上に寝転びながら、スマホ片手に漫画を読みふける唯李の姿があった。


「ぶふっ、ぶふふっ……」

「ねえ唯李? その豚みたいな笑い声やめなさい?」


 寝転んだまま首をもたげると、ベッドのかたわらに腕組みをした真希がこちらを見下ろしていた。いつの間にか部屋に侵入されている。

 とはいえもう慣れたものだ。唯李は「あーはいはい」と軽く相づちだけして、元の体勢に戻った。


「だからその豚みたいな動きやめなさい?」


 真希は不満げな様子でベッドの端に腰掛けた。唯李のリアクションが薄いのが気に入らないらしい。

 しかしこちらとしても、今回は驚かされるようなネタは何もない。どころかそろそろこのくだりもういいわ感がある。


 無視してマンガに集中していると、真希が「こちょこちょ~」と足の裏をくすぐってきた。

 あぁこの人暇なんだな、と哀れに思って起き上がる。仕方ないので少し相手してやることにする。


「お姉ちゃんも見る? 超面白いよこのラブコメ」

「ラブコメ~? 唯李好きよねぇそういうの。人ってやっぱり現実にないものを求めるのかしらね」

「だからお姉ちゃんも見たほうがいいよ」


 即煽り合いが始まる。しかし先に仕掛けてきたのは向こうだ。

 真希は効いてないとばかりにニッコリと笑う。わざとらしく優しい目をすると、両手のひらを差し出して広げてみせた。


「なにそのポーズ。冷蔵庫運ぶ練習?」

「ほら、例によって唯李がそろそろ来るかなって。助けておねえちゃーんって」

「いやいかんよ?」


 真顔で真希を見る。真希も真顔になる。


「え? じゃあ結局クリスマスはどうなったの?」

「みんなで悠己くん家でパーティするって、言わなかったっけ?」

「あら? でもこの間もおめかしして出かけてたじゃない? またなんかゴチャゴチャやってるんじゃないの?」

「やってるはやってるけど、あたしはそんな別に困ってないし」


 まるで何か揉めていたほうが楽しいとでも言いたげだが、今回はあくまでくるみたちの問題だ。

 それを誘われるがまま頼まれるがままに、友人として見守っているだけ。何かしようにも、あの強力なラブコメ波動の前ではかすんでしまう。


「お姉ちゃんこそクリスマスは?」

「クリスマス? それが何か?」


 真希はあさってを見て首をかしげる。そんなものは知らないらしい。

 かわいそうに、と唯李はまたも哀れみの目を向ける。


「お姉ちゃん……一緒にパーティ来る?」

「なにその目は。そんな子供の集まりに行くわけないでしょ」

「ならクリスマスのご予定は?」

「よ、予定はあるわよ? 友達の家で飲む予定だから」

「ん? 負け組会かな?」


 これにはお姉ちゃんもニッコリ。この場合内心イライラである。


「でもそれは唯李だって一緒でしょ? 何よみんなでパーティって、日和ったんでしょ」

「それだけじゃないよ~だ、その前に遊園地行くんだ~。友達に誘われたから」

「へぇ、友達に誘われて遊園地とか珍しいじゃない。でも唯李ろくに乗り物乗れないでしょ? 大丈夫なの?」

「ク、クリスマスイルミネーション見に行くの~」


 しっかり見抜かれている。みんなガンガン乗り物乗る流れだったらどうしよう、という不安はあるにはある。

 そういう理由で断ってもよかった……というか今までなら断っていたと思うのだが、今回はそうしなかった。

 しつこく誘われたこともそうだが、今は頼りにされている気がして、なんだかうれしかったのだ。


「いっつもそういうの断ってなかった? その友達って、どこの誰?」

「いやクラスの友達と……あと悠己くんも来るって」

「えっ、何? それってクリスマスデートなの?」

「へ? いやそういうんじゃないけど……。まぁ今回は脇役って感じかな。ラブコメ神として、一応結末を見届けないと……場合によっては神の審判をくだす役割がね」


 最近のくるみはちょっと暴走気味で、いつもの平静公平さを失っている感がある。

 翼たちのこと自体はいいとしても、最終的にくるみはどうするつもりなのか。


 もし収拾がつかないようなら、なんとかいい感じに収めてあげたいという気持ちはある。場合によってはくるみを諌めなければならない。大見得を切った手前もあるが、それが友達というものだろう。

 どしりと構えていると、真希が心配そうな顔で聞き返してくる。


「何それ? 本当に大丈夫なの? 今お姉ちゃん助けてしておかなくて平気?」

「いや全然、もう余裕っすよ」

「そう? いつだったか唯李、友達の家でクリスマスパーティ! って言って出てって、だいぶ早く帰ってきたことあったわよね」

「やめろ」

「次の年に今年はパーティ行かないの? って聞いたら『いや今年は別に?』とかって」

「もうやめるんだッ!」


 そういうところはきっちり覚えている。まあ姉はそのときも、心配してくれてはいたのだが。

 今思えばそれも、軽いトラウマになっているのかもしれない。そういった大勢がいる場に誘われても、なんとなく断るようになっていた。


「それに脇役でいいとか、ちょっと今回はアグレッシブさが足りないわね?」

「それはまぁ……そんな焦らずともね。こちとら太陽パワーでね、じわじわと干上がらせてやるわけ」


 悠己とのことはとりあえず現状維持。席替えもなくなったし、功を焦って墓穴を掘るのはよろしくない。

 クリスマスのことにしたって、瑞奈がパーティを……と悠己はやはり瑞奈が気になって仕方がないようだし。

 それに今だって、十分楽しい。自分たちがただの脇役だって、この前みたいに二人でグダグダやってるだけでも楽しいのだ。


「なんだか本当に余裕そうね」

「そうそう、もう余裕のゆいちゃんですよ。だいたい何かあったらお姉ちゃんお姉ちゃんって、いつまでも頼ってられないし」

「うーんそっかぁ~……唯李もついにお姉ちゃん離れかぁ。は~でも、それはそれで、なんかさみしくなるわねぇ」


 どこか物憂げな表情で息をつく真希。

 今こんなことを口にできるのも、隣の席キラーがらみでゴタゴタがあったせい、なのかもしれない。


 そのつど姉に背中を押されて、助けられて。あれだけ嫌われることを恐れていたはずが、敵意を向けられることに耐性がついたとでもいうか。 

 きっと最後にはなんとかなる。そんな根拠のない自信がついた気がする。ちゃんと話してみたら、みんな本当は、優しいから。


 でもそれは、本当にそれだけなのだろうか。

 あのときも、そのときも。自分が逃げずに、立ち向かえたのは。強くなれたのは。 

 いつもすぐ後ろで、変わらず見守ってくれる人がいたから……。


「ところでクリスマスはいいとして、唯李もそろそろテスト近いんじゃないの?」

「え? ま、まぁそっちはぼちぼちね……」

「大丈夫なの? 今度やらかしたら容赦しないって言ってたわよお母さん」

「助けてお姉ちゃーん!!」


 ここぞと真希の胸に向かってダイビング。

 万一のときに備えて保険を。味方を。アシストを。


「そのときはなにとぞお口添えを~」

「ん~それはねぇ……マンガなんて読んでないでちゃんと勉強しなさい?」


 優しくささやきかけられたあと、ぽいっとベッドの上に転がされた。

 がくりと力尽きた唯李のお尻を軽く叩くと、真希は笑いながら部屋を出ていった。


鼻ビーーームその2もいれてます。

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