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魔法少女はじめました   作者: ながしー
第一章 朱莉編

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魔法少女☆レディオ

その日、朱莉と柚那を呼び出した都は珍しく神妙な顔をしていた。

 一言も発していないにも関わらず悲壮感すら漂ってくる都の表情を見て、部屋に入るまで「何でしょう、ボーナスでもくれるんですかねー」とか「いやいや、どうせまたいつものろくでもない思い付きだろう」とか言っていた朱莉と柚那は「どうしたんですか?」とも聞けずに黙ってソファーに座っていた。

 結局、二人が入室してから5分ほど押し黙っていた後、やっと都が重い口を開いた。


「あのね、二人とも」

「はい!」

「な、なんでしょう」


 都の表情と口調から怒られるに違いないと感じた二人は思わず背筋を伸ばした。


「二人に、お願いがあるのよ」

(なんだろう、換気ダクトの下で思い切りエアブラシ使ってちょっとしたバイオテロみたいになったことと関係あるのか!?でもあの件は謝ったし、ああ、でももしかしたら…)

(まさか、私が夜中に寮を抜け出して神社にお参りに行っていることがばれた!?抜け出すなってこと?でも門限はないから、規則的には問題ないし。はっ!?まさかあのことが…)


 二人とも腹を探られると色々と痛い部分があるようだ。


「原則的に、あなたたちは番組以外には出なくていいことになっているんだけど。その……アーニャ達を匿っているおかげで食費やらなんやらでうちの台所事情も火の車でね。その分の追加予算を引っ張ってくることもできないし、できればその……芸能活動をもう少しやって予算の捻出に協力してもらえないかなと」


 都は非常に言いづらそうにそう言うと「本当にごめん!」とテーブルに額をこすりつけるようにして謝った。


「……いや、別にそれくらいなら構いませんけど。なあ?」

「はい!私はもともとお仕事していましたし、全然苦じゃないですよ。そんなことならお安い御用です!」

「ごめんね、本当に」


 元々都は自分で何でも解決できてしまうがために、こうして人にものを頼むということが苦手だ。だから相手からしたら『そんなことくらいで…』と思うようなことでもかなり深刻そうな表情で切り出すことになる。逆にかなり深刻な話でも都だけで解決できるようなことであればあっけらかんと話す。

 狂華からも「わかりづらいからもう少しなんとかしなよ」と言われ続けているのだがその点だけは一向に器用にできないでいる。


「もういいですって。それで、俺達は何をすればいいんですか?」

「実は、そろそろ番組改編の時期じゃない?その改変期の隙間というか、切り替わりのタイミングで一回だけの特番があるのよ」

「テレビですか?」

「ううん、ラジオ。もちろん全部フリーで話す必要はないし、進行については台本もあるから生でも大丈夫だと思うんだけど」

「ああ……まあ、ラジオだったら朱莉さんの服も見えないですし大丈夫ですよね」


 常々朱莉の私服について一言ある柚那はそう言って朱莉の服を見る。


「ちょっと待て柚那。俺は最近ちゃんとお前に見立ててもらった服を着てるぞ。もし俺の格好に問題があるとすればお前のセンスの問題ってことにならないか?」

「服はただ着ればいい訳じゃないって何度も説明したじゃないですか!なのになんでそんな着こなしになっちゃうんですか!?」

「指定が細かすぎるんだよ!何か着るたびに色々と小物を引っ張り出さなきゃいけないし面倒くさい!」

「その面倒くさがり方が問題なんです!面倒なら一枚だけ着ればいいのに、なんで適当に変な重ね着をしたり、どの服でも同じアクセだったり、いつも同じ帽子をかぶったりするんですか!あとそのティアドロップ型のサングラス!ダサいからやめろって言ったじゃないですか!似合ってないんですよ!」

「そういうのを考えるのがもう面倒くさいんだって言ってるだろ!それとサングラスは似合ってる!絶対似合ってる!軍団並のダンディーさで似合ってるからな!」

「はいはい、ストップ!ストップ!呼び出した上に頼みごとをしておいて悪いけど、痴話喧嘩なら後で二人きりでして。ほら、とりあえず仲直り。ね?」

「………ちょっと言い過ぎました。すみません」


 と、顔をそむけながら柚那。


「俺のほうもちょっと大人げなかったな。すまん」


 と、全然反省していないような表情の朱莉。


(ああ……人選間違ったかも……)


 ケンカするほど仲がいいとはいうものの、二人の痴話喧嘩を目の当たりにして、都は心の中で大きなため息をついた。




「はい、じゃあ本番いきまーす!3、2、1―」


 ブースの外でディレクターがキュー出しをすると、この日のために作られた番組テーマが流れる。20秒ほどテーマ曲が流れたところで二人に番組名コールの合図が入った。


「朱莉」

「柚那の」

「「魔法少女☆レディオー」」

「この番組は、テレビTOKIO系で大絶賛放送中の魔法少女クローニクから飛び出した、ラジオ番組です。今まで明かされなかったあんな疑問やこんな疑問にもお答えしちゃうかもーと、いう訳で、魔法少女クローニク・ザ・トウキョウ 伊東柚那役の伊東柚那です」

「邑田朱莉役の邑田朱莉でーっす!今日は名前だけでも覚えて帰ってくださいねー」


 朱莉のセリフの後、フッとテーマ曲が止まり、柚那が真顔になる。


(あれ?ここで柚那のツッコミが入るはずじゃ…)


「……と、いう訳で始まっちゃいましたね、朱莉さん」


 真顔で黙っている柚那を見て朱莉が不安になっていると、放送事故になるかならないかというタイミングで、柚那が何事もなかったように口を開いた。


「は、はじまっちゃったね、柚那」

「今回は一回限りの特別放送っていうことになっていますけれど、皆さんの応援次第ではレギュラー昇格!なんてこともあるそうなので、皆さん応援してくださいね!」

「あざといわ!」

「あははー、朱莉さんほどじゃないですよ。まあ、あざといあざとくないは――」


(あれ?やっぱり微妙に台本と違うような……?)


「――さてさて、では早速ですがコーナーに行きましょう。最初のコーナーはこちら『教えて!朱莉姐さーん!』」


 朱莉が台本をチェックしなおしている間にも、柚那は思わず聞きほれてしまうほど淀みのないトークとハンドリングでコーナーへと話を移していく。


「クローニク本編でも関西の楓さんと双璧をなす姉御肌、朱莉姐さんがリスナーから募集した答えてほしい!解決してほしい!罵ってほしい!と言った内容に答えていくコーナーです。……ここはガチなんで、よろしくお願いしますね朱莉姐さん」

「はい、よろしくお願いします」

「えー、東京都にお住いの、ラジオネーム『隣の客はよく柿食う客だ』さんからのメッセージです。『朱莉さん、柚那さんこんばんは』はい、こんばんは」

「こんばんはー」

「『早速ですが、朱莉さんのスリーサイズを教えてください。気になって夜も眠れません』とのことですが……」

「いや…ですが。じゃなくて、そういう質問ってあらかじめ弾かれるんじゃないの?」

「そういう夢のない事を言ってはいけませんよ。現にこうしてここに届いているわけですから。ちゃんと答えないと。私たち魔法少女は皆さんの夢を壊してはいけません」

「いや……でもさあ」

「あれ?もしかして恥ずかしいんですか?照れちゃってるんですか?朱莉さんって普段男っぽさをウリにしてるのに?」

「く………覚えてろよ柚那。う、上から、は…89、59、87……」


 俺、一体何をやっているんだろう。朱莉の中で生まれた疑問が彼女の声を震わせる。


「え?聞こえませんよ、もうちょっと大きな声で」

「89!59!87だ!わ、わかったかこの野郎!」

「はい、真っ赤な顔で涙交じり。意外と乙女な一面を見せてくれた朱莉さんでしたー。真っ赤な顔で半泣きの朱莉さんが見たい方はミーストで動画配信もしていますので、番組名で検索してみてくださいねー。……さて、では次の質問です。ラジオネーム『童謡のわんこ』さん。男性の方ですねー『私は今、同僚女性との関係に悩んでいます。私がうっかり気を持たせるようなことをしてしまったのかもしれないのですが、彼女からのアプローチが日に日に増してきています。はっきり迷惑だと言えればいいのですが、彼女も大切な同僚。できれば傷つけたくありません。どのように言ったら彼女を傷つけずにわかってもらえるでしょうか』うわー、重いですね……」

「だからこういう深刻なの先に撥ねろよ!」

「あー、今の問題発言ですよー。私たち魔法少女はどんな苦難にも立ち向かわなければいけません。どんなに答えづらい事にも真剣に答えなければいけません」

「柚那は答えないからそういうこと言えるんだろぉ……」

「そんなことないですよ」

「じゃあ答えてみてよ」

「そうですね……『ごめん、体重と気持ちを軽くしてから来てもらえるかな?』とかでしょうか」

「下手すりゃ相手が自殺するわ!」

「いいツッコミですねー。さて、次のメッセージです」

「え、今ので終わり?」

「ラジオネーム『夢見る魔法美少女』さん。あ、私たちと同じ10代の女の子ですよー」


 因みに二人とも10代ではない。にも関わらず堂々と自分達と同じと言い切る柚那に、朱莉はなんとも言えない視線を向けるが、柚那はそんな視線などどこ吹く風と言わんばかりに続ける。


「『朱莉さん、究極美少女柚那さん、こんばんは』はい、こんばんはー」

「……こんばんは」

「『わたしは今、同じ学校の友人のファッションセンスのなさにほとほと困り果てています。磨けば光るのに磨く気ゼロ。何度言っても「めんどくさい、めんどくさい」とやる気を出してくれません。こんな困ったちゃんな友人をファッションに目覚めさせるにはどうしたらいいでしょうか』ということなんですが」

「………柚那」

「はい?」

「柚那」

「なんですか?」

「お前だろ、これ書いたの」

「何言ってるんですか、そんなことしたらヤラセじゃないですか。そりゃあ私も夢見る魔法美少女さんと同じように、朱莉さんのファッションセンスについては呆れるを通り越して困り果てていますけれども、ヤラセなんてしません!ヤラセ、ダメ、絶対!」

「お前なあ……」

「でも実際のところどうなんですか?ファッションを面倒くさい面倒くさいと言い続けている朱莉さん的には」

「……だって興味がわかないんだからしょうがないじゃん。確かにファッションセンスを磨けばモテるかもしれないし、夢見る魔法美少女さんも喜んでくれるかもしれないけど、その相手はファッションに時間を割くよりその時間を夢見る魔法美少女さんと過ごしたいと思っているんじゃないかな?だから、魔法美少女さんも相手を変えようとするよりも自分から歩み寄ってみよう!」

「朱莉さん………それ、言い訳になりませんからね。一緒に過ごしたいなら、一緒にファッションを勉強すればいいんですよ。なのにそれを面倒くさいって。それじゃ夢見る魔法美少女さんは努力をしなくても一緒に居てくれるただの都合のいい女じゃないですか!」

「いや、そうは言ってなくて―――」

『はい、CM入りまーす』


 朱莉がしどろもどろになってグダグダになりかけたところでディレクターが強制的にCMを入れた。



 放送終了後、寮の自室に戻ってきた朱莉は頭を抱えた。


「結局グダグダになってしまった……」


 柚那の朱莉潰しは後半こそ止まったものの、前半でペースを崩した朱莉は終始グダグダ。

柚那のMC能力のお蔭で番組自体はまとまったが、朱莉の感触としては、次はなさそうに思えた。


「まさか柚那があそこまで根に持っているとは」

「もう根に持ってませんよー」

「柚那……」

「すみません、今日はちょっと意地悪しすぎちゃいましたね」


 柚那はそう言ってペロっとピンク色の舌を出して謝る。


「いや、でも柚那の言う通りだよ。こっちが柚那のために努力しないでいたら、柚那が自分は都合のいい女なんじゃないかって不安になるのもわかるしさ」

「別にいいんですよ、都合のいい女でも。例えば朱莉さんが朝陽や優陽、みつきやあかりちゃんにデレデレしたって、最終的に私のところに戻ってきてくれれば別に、ね」

「……だからあかりを入れるのやめろって」

「あれ?他の三人は否定しないんですね」

「いや、それは………」

「別に良いんですよ。一桁安い服しか買ってもらえなくても、変身して学校の体育祭を見に来てくれなくても、そんな表面的な付き合いだけじゃないって信じてますから」

「そっか」

「信じてますから」

「えーっと……」

「……私が信じたいから信じてるだけなんですよ」

「………」

「もう!信じさせるんじゃなくて、私が朱莉さんの特別だってことをわからせてください!」


 そう言って柚那は朱莉の首に腕を回すと目を閉じ、そこで柚那が何をしてほしいのかがやっとわかった朱莉も目を閉じて自分の唇を柚那の唇に押し当てた。


「他の子と何をしても別に良いですけど、キスだけはだめですからね」


 何度かキスをした後、朱莉から離れた柚那がそう言って少し照れくさそうに笑う。


「何もしないし、キスも柚那としかしないよ……でも、ラジオは残念だったな。緊張したけど続けられたら面白そうだったのに。柚那と喧嘩した俺が悪いんだけどさ」

「ああ、多分続きますよ」

「え?」

「ギャップ萌えって言うんですか?そういうの好きな人多いんですよね。そういう意味だと今日の朱莉さんはいい味出せていたと思いますし、ミーストのアクセス数もよかったみたいですから」

「……柚那、お前いつまで怒ってた?」

「始まる前に、色々仕込むところまでですね。これでも私ってアイドル時代から仕事はきっちりやるんですよ」

「怖い女だな。でも、もしラジオの仕事が続いたとしても、もうああいう仕込みはやめてくれよな」

「ひょっとして『夢見る魔法美少女』さんのことを言ってます?あれは本当に私じゃないですよ」

「マジで!?世の中には似たような境遇の人がいるんだなあ」










「ねえ、ミヤちゃん、ミヤちゃんってば、起きてパジャマに着替えてよー。女の子なんだからさあ、もう少し私服も気を…ああ、またスーツに皺が…うわあっ!ここで吐かないで!」


 ベロンベロンに酔っぱらって部屋にやってきた都を介抱し終わった狂華はベッドの上から夜空を見上げてため息をつく。


「ああ……ボクって柚那の言う通り、ミヤちゃんにとって都合のいい女なのかな……」


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