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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
5th AID  葬去された青春

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人は誰しも仮面を持っている

「あ、リューマ」

 俺の姿が見えるや彼女は直ぐに表情を取り繕ったが騙されてたまるか。直前の表情を見ているので流石に無理がある。そ今の発言はともかく切り込まねば話を逸らそうとしてくるのは明白なので先手必勝。挨拶も省略して俺は本題に入った。

「今のなんだよ」

「エ…………ああ、うん。ここで話すのはちょっといやだから、中で話さなイ?」

「ん。まあ怪しい話になりそうだしな。深春先輩はどうしますか?」

「せっかくだから付き合うわ。今さっき仮面の話をしてた時にあんなの見たら、私は遠慮しとくなんて言えないでしょ?」

「まあそれもそうですね」

 教会の薄暗さと来たら全く改善されていないがもう慣れた。教会内の長椅子に三人並んで座ると何と驚き両手に華。そんな事言っている場合ではないが。

「イ教は心に深い傷を負った人が来る場所。だから信条として、否定の禁止があるの。ここに来るような人を誰が一番責めてるって言ったらそれは自分自身。自分の事を信じられないから他人も信じられない。信じられるためには徹底して肯定してあげないといけなイ。さっきの人は信者の中でも結構手が付けられない人デネ。『怪物』に見える筈の私達すら自己不信から来る不信感で、来るときはいつも自傷してるくらい酷かったんだケド」

「……仮面を被ってから変わったとか?」

「ウン。嘘みたいに楽になって、生まれ変わった気分だとか何とか。私は説得したんだけど……まあ」

「否定になっちゃって、不信感が一気に爆発してさっきの光景って所かしら」

「……ソウです」

 否定しないのは存外に難しい。結局どんなに言葉を選んだ所で受け取るのは相手なので解釈次第でどんな言葉も否定になり得る。その人のありのままを認めるという行為は寄り添う分には最適だが、間違いを正せないという重大な欠点がある。

 間違いを間違いと思わない本人にとって正されるとは即ち敵対。ありのままの受容ではなく、望んだ姿の強要になってしまう。心に余裕さえあれば相手の気持ちに立つという事だって出来るだろうが、こんな場所に来る人間にそれが出来るかと言われたら答えは否だ。

「……ん?」

「どうしタノ?」

「詐欺師ってのは何だよ。詐欺も何もしてないじゃないか」

「後輩君。言葉のままの意味じゃないと思いますよ。今の話を聞いた感じじゃ、つい信条を破っちゃったせいでその人には本性が見えた感じだったんじゃないかしら」

 この宗教はほぼ慈善ボランティアとは本人の言。そんな宗教に存在意義があるのかは謎だが、何か目的が無ければこんな狂人の真似はしない。

「なあ。一応聞いておきたいんだけどその仮面の出どころって……」

「暗行路紅魔って人。最近有名だよね。占い師だっけ? お父様とお母様は気にしてないけど……でもワタシ、心配。あの人、悪い噂があるから」

「悪い噂?」

 噂、か。

 別に何でもない言葉だが、鳳介なら嬉々として調べただろう。アイツは小説のネタの為ならどんな場所にも突っ込む男。腕が折られた時は『折られた描写がリアルに書けるじゃん!』等と言い始める。飽くまで後日談になるが。

「噂だけで人を判断するのは良くないから、私、調べてキたの」

「えッ、マジか」

 噂は噂のままで留めておいた方が危ない目に遭わない。それは数多くの酷い目に遭わされてきた俺からの教訓だ。深入りなんてまともな奴のする事じゃない。まるで鳳介みたいじゃないか。

 彼と違うのは別に嬉しそうではないという事か。

「山慈鳥太、二十一歳独身。新卒で入社した会社で鬱を患って退職してから三年。暗行路紅魔と出会ってから直ぐに鬱が治る。以後、行方不明」

 探偵かよと突っ込みかけたが判明した情報に意外と中身がない。心得が無いならそんなものか。十分頑張った方だと思う。俺なら年齢までで終わっていただろうから。

「鷹崎春華。十一歳。特別な背景は無し。友達と喧嘩別れした時に暗行路紅魔と出会い、友達と仲直り。以後、両親との関係が悪化。その後、関係の修復を望んだ両親も娘の紹介を受けて暗行路紅魔の館へ。関係が修復。以降は円満」

「そこは行方不明じゃないんだな」

「何か違いがあるのかしら」

羽馬妃沙子はばひさこ。十四歳。木辰中学所属。暗行路紅魔との出会いをきっかけに彼氏をゲット。以降は同学年内で暗行路紅魔の知名度を上げるべく精力的に活動中」

「ちょっと待て。その中学校、俺の妹がいるんだけど」

「……じゃあ、リューマの妹も仮面被ってるの?」

 記憶を遡って考えてみたが、私室にもなければ登校中も仮面を被ってたりしていない。俺の記憶が正しければ妹にも友達の一人や二人居たと思うのだが、俺が知らないだけで我が道を行くタイプなのか。

「私が調べられたのはこの三人ダケ。悪い噂っていうのはね、仮面をつけた人は最後必ず居なくなるって噂だったんだけど……」

「まあデマだな。三人で浮き彫りになるなら間違いない。噂には尾ひれがついて当たり前だから気にする事はねえよ。でもまあ―――」

「怪しさは倍増したわね」



 暗行路紅魔と出会った瞬間から人生が一変している。



 一度二度なら奇跡で分かる。だが三度も続けば奇跡は必然となり、必然はカラクリによって生み出される。それがどういう類のものかは分からないが、マリアがあり得ないとまで言い切るくらいだから、呪いに関連するものではなさそうだ。

「一応聞くけど、呪いのアイテム渡されて~って可能性はないか?」

「ナイ。人を不幸にしカしないよ」

「犬神憑きみたいなのってあるじゃない。一時的に栄えるけどみたいなの」

「根本が違います。仮面を渡すだけなのと蟲術を比較しないで下さイ」

 しれっと知らない単語を出されたが、名前からして危なさそうだ。あまり知らない方が良いかもしれない。とはいえ話を聞くだけ聞いてじゃあ頑張れで終わらせるのも流石に酷だ。俺は昔から女の子には優しくしろと教えられてきた。雫を助けたのもそれが理由……ではないが。

「その暗行路ちんたらみたいな奴の事、こっちでも調べておくよ」

「えッ、イイの?」

「ま、瑠羽に被害が及ぶ前に何とかしたいって気持ちはあるからな。でも所詮は占い師だ、大した事ねえよ。きっと何かマジックみたいなタネがある筈だ」

 性分としてあまり両親に揉め事は持ち込みたくないのだが、こればかりは知らせておいた方が良さそうだ。俺の身に何があってもあの二人は気にも留めないだろうが、瑠羽は我が身よりも大切だって良く分かる。俺だって大事だ。

 もし妹に手を出したら俺は雫に暗殺を頼む。暗行路紅魔が本名とは思えないが、名前を探す程度の手間は厭わない。



 ―――冗談だけどな。



 冗談のままにしておいてくれ。

 

 

 


















「え、先輩も調査に協力してくれるんですか?」

 マリアが元気を取り戻すまで談笑。一先ず落ち着いた所で教会から出た時、最初に深春先輩の口から出た言葉は、


「暇だし私も手伝おうか?」


 というものだった。

 こっちもこっちで助け舟のつもりだったのに、舟が陸に上がったのを見て座礁したと思い舟を助けに来たのだろうか。座礁も何もまだ助けようと決めた瞬間なのだが。しかし人手が多い分には何も困らない。九龍相談事務所の手を煩わせる事もなく、飽くまで片手間に調査する。

 何故だろう。少しだけ高揚する。情報も糞も無い未知に立ち向かう不安と恐怖と興奮と。久しく感じていなかったもの。怪異なんて大嫌いな事に変わりないのに、仮面とかいう不思議アイテムには興奮するのか? 特殊性癖か?

「信用してくれって言ったのは貴方でしょ? それに仮面の話は私も気になってるわ。だからまあ、駄目って言われても勝手に調べる」

「成程。断る事にメリットがありませんね。それで行きましょう」

「一先ず解散かしら?」

「そうですね。俺は妹から何か知らないか聞いてきます。連休はまだ続きますけど、予定が合わなかったら学校……じゃなくて、連絡先交換してましたねそういえば。じゃあ夜に。予定は大丈夫ですか?」

「ええ。暇な先輩で良かったわねッ」

「全くです」

「そこは否定してくれないのッ!?」

「知りませんよそんな事!」

 思い返してみれば、鳳介や綾子は同年代。雫は年上だが死刑囚。瑠羽は年下。相談事務所はさておいて、純粋な年上と接する機会に恵まれなかった。アイツを失って以降、俺は誰かを頼るという行為に苦手意識という程ではない躊躇があったものの――― 




 こういう関係性も、悪くない。 

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[気になる点] ん?アイツ……? [一言] なんだかんだ美人に囲まれてる向坂君、うらやま
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