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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
5th AID  葬去された青春

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緩急自在の一計

「何でこんな事になるのかなあ……」

「ごめんなさい。私のせいで」

「いや、別にいいよ。足裏にイボが生えたのはお前の意思じゃない。気にすんな」

 落下地点から離れた茂みに俺は隠れていた―――綾子を背中に抱えながら。彼女の体重が軽かったのは不幸中の幸いだ。闇夜に紛れる俺達は位置を知らない限り見つけられないが、あちらは光源を持っているので暗闇側からでも良く見える。一番怖いのは光源を消されて視界不良の中始まる隠れ鬼だが、単純に足元が危険なのでそんな真似はするまい。

 光源持ちは全員。ザっとみた感じで十五人。男女混在、身長も大小様々で規則性が無い。服装も質素というより貧相なものから、素人目にも上物と分かる着物であったり。カルト宗教の類ではないか。共通点があるとすれば言葉が妙にカクついているのと顔中に嘴のイボを生やしている事くらいだが、あれは十中八九『ヤマイ鳥』の仕業なので、アザリアデバラの時を基準に考える必要はない……?

 駄目だ。知識が無さ過ぎてテキトーな事しか言えない。鳳介と合流しなければ駄目だ。だが綾子も俺も落下したのにあのままあそこに留まっているとは考えにくい。それこそ何処かで光を焚いて合流出来れば理想だが、たった今恩恵を受けているみたいに発見されやすいメリットはデメリットにも転ずる。


「いたカ?」

「居ない!」

「探せ!」

「ヤサカニには行かせルな!」


 十五人が一斉に散らばる。各々が顔も知らぬ俺達の行きそうな場所を探さんと早足だ。遠くの木々が大きく揺れたのは、木の上に居ると読んだ何者かが揺さぶったのだろう。

「……どうする?」

「どうするって、合流するしかないだろ」

「あそこにいるかしら」

「流石に動いてるだろうな。まず落下した俺達を確認する為にアイツ等は茂みに立ち入った筈だ。鳳介に気付かなかったって事は移動した可能性が高い。今までの傾向からいって俺達を見捨てるとは考えにくいから……先に深部へ行ってるのかもな」

「深部ってヤサカニ? みたいな話?」

「ああ。漢字は看板の通りだとして何なのかは分からないけどな。予め合流場所を決めてる訳じゃないから合流したいなら俺達もその『病坂尼』を探すぞ」

 場所なのかヒトなのかモノなのかも分からない。隙を見て誰かの家屋に立ち入って情報を集めるのが先か。その場合綾子を置いていかなければならないのだが、茂みの中とはいえ外に放置というのは感覚的にとても悪い。

「……アンタも意外に頼りになるわよね。私、鳳介と出会わなかったらアンタを好きになってたかも」

「そりゃ嬉しいのかよく分からないな。そんな仮定の話したってしょうがない。でも俺は好きだぞ、友達として」

 異性としても好きだが、鳳介には勝てないのを良く分かっている手前、する筈もない。もう一度言おうか。


 仮定の話をしても仕方がない。


「それは私もよ。これからどうするの?」

「家に押し入って情報を集める。『病坂尼』ってのは余程重要な何からしいから手掛かりはある筈だ。ただ、窃盗する都合でお前を置き去りにしなくちゃいけないんだが……それはどっちにとっても危険だ。だからお前には警報係をやってもらいたい」

 話しづらいので綾子を下ろして俺も茂みの中で膝を抱える。土は柔らかく冷たい。最近雨でも降ったのだろうか……え、降ったっけ?  土に掌を押してみると泥っぽい感触が纏わりついた。かなり濡れているから二人のお尻は泥でびちゃびちゃだ。

「警報係? 近くに人が来たら大声を上げればいいの?」

「んな事したらお前が危険だ。声は出さなくていい。この暗闇だ、頼りになるのは視界よりも耳だ。これだけ静かなら意識しなくても耳を澄ませてるだろうしな。だからお前は近くの物―――石とか土でもいい。遠くの草むらか木に投げてくれ」

 ゲームでは良く見られる手法だが、普通は音じゃなくて放物線を見るだろうからここが明るかったら使えない手段だ。だが日光が遮られているこの場所では放物線を見ようにも予め光源を用意しなければそれが出来ない。

「それって警報になるかしら。リューマに聞こえなかったら終わりじゃない」

「明かりが漏れるくらい雑な壁だぞ。外と大して変わらないだろ」

 ここで話していても鳳介は来ない。「頼んだぞ」と肩に手を置いてから早速行動を開始する事にした。耳を頼りに動かなきゃいけないのはこちらも同じ。細心の注意を払い、どんな物音にも気づかなければ死ぬ。

 彼等は松明を持っているから耳は必要ないだろう。そう思う人物が居るなら洞察力、または想像力が欠けていると俺は指摘しよう。敢えて答えを言うなら、俺達を捜索する為に散った十五人程度の光源は何処に行ったのか。

 そう。彼等も松明は危ない……もしくは先手を取って動かれやすいと踏んで消したのだ。つまり視界のアドバンテージは存在しない。耳に全神経を研ぎ澄ましても、それが丁度良いくらいだ。

 最初の様子見で手近な家屋は発見してある。木製かと思ったらトタンの壁ではないか。うっかり体重をかけると物凄い音が出そうなので慎重に。壁を撫でるように沿って玄関を探す。


 ガサガサッ!


 遠くの茂みで音がした。体感距離は三〇メートル程度で、まだ心配ない。鍵がかかっていたら諦めたが今度は鍵がかかっておらず、錆び付いた蝶番の悲鳴と共に扉がゆっくり開いた。

 

 ―――うるせえなあこの扉マジで。


 さっきは木製の小屋で戸、こっちはトタンでドア。小屋まで不規則だなんて本当にいい加減な造りだ。共通の建物に住んで連帯感を伴わせる過程が生まれないのでこの時点でカルトの線は完全に無くなった。

 扉が煩いので少し怖いが閉めないままで探索を開始する。中には机とベッドと引き出しと、何故か血痕がこびりついた毛布。机の上には手記らしき物体が開かれっぱなしで置かれている。隣の蝋燭がつけっぱなしなのを見るに、俺達の侵入が知らされて慌てて出てきたといった所か。せっかくなので読んでみよう。






 病坂尼逆家児栄酒山餌八邪異ノ酔

 

 宿に限界が訪れている。誰か掃除をしなければいけないが誰も名乗り出ない。みんな死にたくない。扉をあけ放てば確実に死ぬ。俺達は散々呪いを利用してきた。代償を無視して、自分の世界の間引きをしてきた。

 もうここも長くないかもしれない。裏切り者は殺されるけど、呪いが返るくらいなら普通に殺された方がマシだ。何十年と積み重なってきた呪いを一身に受けるなんてまっぴ








 書きかけだった。

 間引き、呪い、代償、何十年。

 気になるワードはあったが、一番気になるのは題名だ。『ヤサカニ』までは分かるが後は何と読めばいい。まるで呪文だ、否、呪詛だ。鳳介なら読めるかもしれないが今の俺に分かるのはそんなに良い物じゃないくらい。

 紙を破いて持っていくか迷ったものの、音が出るとまずい。考えた末に俺は手記そのものを持ち出して最初の小屋を後にした。左右確認の前に聞き耳を立てようとした次の瞬間、見覚えのない光に晒され瞳孔が収縮。一時の視界不良に陥る。


「見つけたましたあああああ! 皆さんここです! ここに居まあす!」

 

 さっきとは違う口調。光に塗り潰されて顔を見る事もままならないが叫ばれてしまった以上は留まれない。俺は正反対の方向だけを定めて闇雲に走り出した。




 ―――綾子。誰か来るなら知らせてくれよッ。 





 そんな悪態を吐く暇もない。 

「待てえ侵入者! 絶対に逃がさないからなあああああああ!」

 懐中電灯を持った男が、追ってくる。

 バラバラ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 家、児、餌、八……なんか不穏な単語が…… あと、オカルト好きとしては"八"が滅茶苦茶気になりますね、はい。
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