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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
ENDEATH  ナナギの神曲

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再捜査 暗行路紅魔

 アザリアデバラ恐怖症の時、薬子は何をしていたか。何故かお酒を摂取した結果ふにゃふにゃになっていた。

 実年齢が二八歳というなら咎める気は無いが、それはそれとして自分が酒に弱いのを知っていて何故飲んだのだろう。当時の俺はそこまでしか考えられなかった。責めるつもりはない。あの状況で薬子が犯人と言い切れるなら多分俺はアカシックレコードを持っている。あんなお酒激よわふにゃふにゃ薬子を疑えるなんてそれこそ外道の所業だ。

 怪異を改造する力があるなんて散々苦しめられた俺からすれば考えたくもない可能性だが、最先端技術に上限は無い。あるとすればそれが科学の限界であり、それ以降は文字通り超能力の類になる。後者を所有しているのは雫なので、やはり彼女には科学的に怪異を改造する力があるとみてよさそうだ。


 ―――そもそも怪異って科学的にどうやって解釈するんだよ。


 まず万人に存在の証明をするところから―――いや、この際どうでもいいか。どうでもいい筈だ。これ以上小難しい事を考えると頭がおかしくなる。変性怪異の犯人は確実に薬子で、アザリアデバラも恐らく彼女の仕業となると―――それ以前の事件も気になってくる。

 インチキ占い師暗行路紅魔の事は覚えているだろうか。アイツは裏で薬子とつるんでおり、何かやり取りをしていた。あの時は横やりを警戒しつつも暗行路紅魔だけ何とか出来れば良いかという方針だったが、間違いなく再捜査が必要だ。

 そしてこの話の焦点となるのは間違いなく『仮面』。暗行路が仮面はイ教における『イ・カラムルパンナ』と思われていた。それはアカシックレコードであり、半分だけそれを所有する薬子はもう半分の所有者である雫を欲していた……



 間違いなく、何かある。


 

「……深春先輩、会長。少しだけお付き合いいただきたい事があります。緋花さん、暗行路紅魔の信者だった人間、俺達と関係が近そうな人物を徹底的に洗ってくれませんか」

「畏まりました。連絡は向坂様の方へ?」

「後輩君、何をするつもり?」

「深春。俺達を指名したって事は暗行路紅魔に関わる事だ。そうだよね?」

「その通りです。先輩達に助けてもらってようやく得た勝利ですが、あれはまだ終わってない。薬子に対して反撃するチャンスなのは分かってますが、このままだとマリアが危ないかもしれない。でも俺だけじゃどうしようもないので、お願いしますッ」

 頭を下げるよりも早く会長が俺の額を指で抑えた。

「下げなくていい。俺も丁度知りたい事がある」

「後輩君たっての頼みを、先輩が断るわけないっしょ?」

 深春先輩に頭を撫でられる。誰かにこうして触れたのも随分久しぶりな気がしてならない。よく考えなくても俺の気のせいだが、雫が居なくなってから一人ぼっちという精神的な思い込みがあったのかもしれない。

 三人で盛り上がっていると、檜木さんが咳を払って場を切り直した。

「おほん。俺達だけ待機という訳にも行かないでしょう。マリアとは向坂さんの同級生でしたね。俺達もその子の捜索に協力します」

「事務所組と学校組」

「お、偶然そうなりましたか。その時俺は居なかったんですが、まあ護堂さんの代わりになれるよう頑張ってみます。証拠と推理材料は多い方がいい。何か分かったら互いに共有しましょう」

 まるでその程度の我儘など聞きなれていると言わんばかりに、檜木さんは至って冷静に話を進めていった。

 それにしてもこの人、雪奈さんや緋花さんでさえ『怪異に直接干渉出来る可能性』に驚いていたのに、眉一つ動かさないとはどういう精神構造をしているのだろう。わりとあり得ない事を言ったと自分でも思っているのに……。







  


 













「誰がポストに手紙を入れた?」

 誰も気にしていなかった発端を、会長は改めて口にした。

「え、何の話ですか?」

「深春と君が知り合った時の話だ。暗行路紅魔の『あ』の字も無かった頃。誰が入れたんだろう」

 それは果たして仮面の件と関係あるのか。

 そう思って口に出しかけたが、よく考えれば薬子が関与していた。関与と言っても自分は専門外だからと九龍相談事務所に繋いでくれただけだが、何か裏がありそうだとは思わないだろうか。薬子は雫を捕まえる為に『気配』の濃厚な俺に付き纏っていたのだ。純粋な親切で電話を繋いだとは思えない。そう思いたいのだが、如何せん立場上はどうしても敵になる。

「暗行路紅魔の一件中、俺なりに調べたんだ。個人的にね。しかし生徒会長と言っても幅を利かせられるのは校内だけだからそこまで徹底的ではないんだが…………」

 その調査方法というのが特有で、生徒会の人間に全てのクラスを巡回させて雑談やふと漏れた言葉を地道に集めていったそうだ。生徒会長でもなければ出来ない芸当だ。先生には風紀改善の一環という事で通したらしい。信用されている。

「……深春以外にも、ポストに同じようなものが入っていたという話は知ってるかな?」

「いや、でも俺の妹とかもそうですね。本人が開ける前に俺が開けましたけど。でも呪われてないってこっくりさんが……でもマリアが呪われてるって? あれ? 何だこりゃ」

「大丈夫? 話を続けるぞ。俺も生徒や先生の話を聞いただけだから確証と言われてもないんだけど、どうも手紙が来た人間に薬子は接触。後に全員暗行路紅魔の信者になったみたいなんだ」

 そこに何ら因果関係は無いようで存在する。難しく考える必要はない。薬子を仲介役と考えれば良い。彼女は元々正義の味方としてメディア出演していた事もあって無条件に信頼されている。呪いの手紙こと『 』キリが本物であれ偽物であれ、恐怖を覚えたのなら全員が彼女を頼るだろう。まして見透かしたように手を差し伸べられたら、振り払う理由が見つからない。

 スーパーヒーローと一般人を天秤にかけて後者を頼る人は居ない。そしてそんな彼女から紹介されたと来れば疑う余地もない。元から培われている信頼を悪用した結果だろう。本人も軽く触れたが普通に考えてあんなインチキ臭い仮面ビジネスは薬子のカリスマ性でもないと成立しようがない。

 だが、もしそうなら俺も仲介すべきだろう。彼女の行動には一貫性が無い。俺にだけ事務所を通すなんてどういう風の吹き回しか。お蔭で助かったが。

「深春はどうして彼を頼ったんだ?」

「それは……変な放送が聞こえてきたから、それで何か知ってるかなって……それとこれとは関係ないでしょ? 私の運が良かったってだけ」

「そうか。所で全くの別人となってしまった君の友達―――可乃子についてだが、彼女はこうなる随分前から暗行路紅魔に嵌っていて、しかも君を憎んでいた」

「え?」

 既に終わった事を蒸し返された挙句、知る由もない憎悪の暴露。悲しむでもなく当然のものとして、深春先輩は目を白黒させていた。俺達の視点からみれば深春先輩の友達は『限』の解除後に行方不明になって暗行路紅魔の信者となっている。前提をひっくり返されたどころか順序さえ違う。

「ど、どういう事?」












「あの仮面の効力が本物なのは間違いないが。暗行路紅魔があの時言った『私のお手製』というのは嘘だ。彼はごく最近そのやり方に手を染めた。単純な話だったんだ。薬子が仮面を持っていたのは彼女が製作者だからで―――『手紙がこなかった』君は単純に恨まれて、呪いで殺されかけた。不運にも命を狙われたんだ。親友に」

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