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俺の彼女は死刑囚  作者: 氷雨 ユータ
AI0  太陽と月

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神を信じよ

 その後も校舎を調べていくと前回では知りようのなかった情報が続々と掘り出されて来た。雫から聞いた通り、ここは神律と呼ばれる法の下に生きているらしい。神の生まれ変わりたる村長を讃えるのもまた神律の一つであった。これで終わるならただのカルト宗教だが、どうも一筋縄ではいかない。

「神律を守ると良い事があるっぽいわねー」

 いくつかの教室を地続きに調べていたら職員室にぶち当たったので教室よりは実りがありそうだと調べる事になった。今の所一番学校っぽい要素であり、この部屋を以て俺達はここを学校と認識した。職員室と言うくらいだから当然この学校の大事な情報が眠っている筈だ。校長室ともう繋がっていて扉は見るからに破壊されているので鍵問題は今の所発生していない。

「ねえこの教員ノートとか見てよ。神律その一とか三十とか守ったお蔭でこんなに良い事があったって事で感謝が記されてるわ」

「……その肝心の神律は何処にあるんだろうな。ここが学校なら校訓とかにでも書かれていそうなもんだけど」

「私達も今から神律守ったら良い事あるかな? 鳳介と付き合えるとか!」

「無理だろ。村長が不思議な力を発揮させてるとしたらもう効力はないし……多分だけど。これ心理操作だぞ」

「心理操作?」

「ああ……」

 全て雫の受け売りだが、フット・イン・ザ・ドアやアンカリング効果などを利用して村人達の行動を思うがままに操っている。かつての状況で再現するならフット・イン・ザ・ドアで一貫性を作り、その行動によって利益を被らせればアンカリング効果によって基準が歪み、『信じた方が良い方向に転がる』と判断させてしまう。破滅主義者でもない限り……いや、どんな主義者であってもわざわざ不利益を被ろうとする人間は居ない。主義が強ければ強い程、その主義に適った利益を追い求めるのが人間だ。

「人を思い通りに動かすのに特殊な力は要らない。言葉があればどうとでもなるんだ」

「ふーん。じゃあアンタ、言葉一つで私と鳳介くっつけられない?」

「俺が使える訳じゃねえ」

「言ってみただけよ」

 下の引き出しを漁ると、黒いファイルが見つかった。中身には神律を破った生徒の名前が記入されている。半分以上が霖子だ。ここが普通の学校だったら問題児も問題児、毎日保護者が呼ばれて三者面談されているだろう。

 それにしても数珠やら水晶やら、あらゆる机から山の様に見つかるのは何なのだろう。これも一貫の内なのだろうか。

「…………ねえ。やっぱりここって壊されたんじゃないの? 昔の村にしては全然古ぼけてないし」

「かもしれないが、背景を理解した所でどうしようもないだろ。『D子さん』の時みたいに個人の事情ならまだ分からないが、ここはもう滅んだ村だからな。

 それ以上は収穫が見込めなかったので校長室へ。歴代校長と思わしき絵画が全て叩き割られている。机は真っ二つに叩き割られ椅子は木っ端微塵に粉砕されて脚だけが残っている。入り口の横に置かれた棚には大きなトロフィーがあった痕跡が見て取れる。破片がないので持ち去られた可能性が高いか。埃のカーペットが四角く抜けているので元々なかった可能性は低い。

「あ、これ……」

「どうした?」

「…………帰る時に持って行ってもいいかしら」

 綾子が取りだしたのは『神律遵守の手引』とシンプルに記されたモノクロの本。片手で持つには少々重そうで、実際その厚みは国語辞典にも引けを取らない。

「鳳介が居た方が詳しく理解出来そうじゃない? 私とリューマはほら、アレだし」

「言い方は引っかかるが、まあそうだな。よし、じゃあそれは置いとけ。他の場所にも何かあるかもしれないからな」

「校内地図とか?」

「…………パンフレットとか、そう言えば見つからないな。何だよここ本当に学校かよ。まあいいや、手っ取り早く終わらせよう」

 調査済みの場所は扉をあけてある。元から破壊されている場所は知らないが、それも加味するなら一階には後三つの部屋がある。階段は存在して、三階の存在まで確認済み。

「もしいろいろなものが見つかり過ぎたらどうする?」

「どうにかしてまとめて持っていくに決まってんだろ。まあ変なものはこれ以上ないと信じたいな」













 



 

 手引書以上の変な物は見つからなかった。

 ただ、やはり村長を礼賛する姿勢があらゆる場所で記録として確認出来ている。何が変と言われたらこの施設全体が変だ。まるっきり世間と違う訳ではない。『信仰』において決定的に歪んだ場所。そういう印象を受ける。俺達の周りには仏教や神道、或は無宗教の人間が居るが、この場所はどうもそういう自由を固定されている。村長というイタい奴に(自分を神の生まれ変わりとか七年前といえども寝言は寝て言え)。

 隅々まで学校を探し終えた所で綾子が疲弊しきってしまったので今は校庭で休憩を取っている。ここでの発見を基に考察を深める時間だ。綾子はベンチの上でぐったりしているので絡まれる事もあるまい。


 ―――この学校は学校じゃないな。


 学校とは社交性を学んだり勉強をする為の場所。もしくは最低限覚えなければならない事を教えてくれる場所というのが俺の見解だ。仕事で使いもしないのにどうして勉強をするのか、という質問は往々にしてあるが、担任の先生は『この程度も覚えられないんじゃ仕事なんて覚えられない。覚える練習だと思え』と返していた。それはそれで一理ある理屈だ。何より知識は何処で使うか分からない。何処にも使わないかもしれないし何処かで使うかもしれない。鳳介は小説を書いていた事もあり基礎は大事だと勉強は怠らなかった。というかアイツは時間の使い方が上手すぎて多少サボっても何とかなってしまう。怪異が絡まない分にもそれなりに優等生なのがモテた原因でもある。

 話が逸れそうなので元に戻そう。ここは学校ではない。

 洗脳施設だ。悪意というかなんというか、右も左も分からない子供に色々教えるのが学校だと思うのだが……実際教えきれるかはともかく……ここはその無知な子供をいいように動かそうとする意図が透けて見える。霖子はこんな環境で良く跳ね返っていたものだ。

 そう。それが何よりもおかしい。

 普通の子供なら学校が良いか悪いかなんて考えないだろう。その基準は俺だが、ではこの基準を外すとどうなるか。結果は変わらない。雫の話を全面的に信用するなら、ここでは神律に従った方がお得なのだ。自分にとって得であるならそこには主義も基準も必要ない。いずれの個人にとっても+に思えてしまうなら逆らうのは不合理なのだ。

 束縛の強い親とか、そういう次元ではない。心理的リアクタンスと言うらしいが、人は自由を抑圧されるのが嫌いで、自分の選びたい行動と束縛が合致しても反発してしまいやすい。宿題をやろうとしたその瞬間に『宿題やれ』と言われたらやる気がなくなる感じだ。親からすれば言い訳というかひねくれているだけと思うかもしれないが、これは人そのものに備わった機能に近い。

 一方でこれは信仰を強制した上でそれ以外は自由だ。手引書を軽く読んだ感じ、力ずくというのは好ましくないとされている。強制というのは俺の考察だが、実際には推奨程度でいいらしい。強いるのはもっと一貫してからとも書かれている。心理的リアクタンスを踏まえてきちんと組まれている辺り、本当に特殊能力という訳ではなさそうだ。

 考察と俺の主観が混ざったので纏めておくと、案内板だけ書き変えた感じだ。飽くまで選んだのは自分という認識に留めておけば反発も起きない。案内板はこちらで好き勝手に弄れるので本人に看板を信じる気さえあれば自由に支配出来る。良く出来たシステムだ。雫は『もっと長い時間をかけてやる』と言っていたので、実際は学校に入る前から……或いは親を通じて最初から行われているのかもしれない。それを子供に疑わせるのは不可能だ。

 俺達は非合法な手段で侵入したからともかく、周囲を見渡せば注視するまでもなく山に囲まれている。閉鎖的だ。外の世界を知ればまた結果は違ってくるだろうが、それをさせない為の手引書だろう。心底カルトだが、これが外に一切漏れていないというのが何より驚愕に値する。七年前とはいえ、流石に抜け目が無さ過ぎる。『外に対応する係』が居たらしいが、少しの綻びも出ないというのはおかしい。最大のセキュリティホールは人間と度々言われているのに。

「リューマ~。自販機とかないかしら」

「水ならあるぞ」

「じゃーそれちょーだいー」

「持って来てないのかよッ」

「どうせ喉が渇くとか気にしてられない事になるって思ってたのよ……」

 そのマイナスな信用はどうなのだろうか。呆れてしまったが、今更間接キスを気にする間柄でもない。水筒を放り投げると、無気力ながらしっかりと受け取った。怠そうに身体を起こして、一気に呷る。

「ッ、ッ、ッ…………ふぅ。ありがと。少し元気出たわ」

「そうか。次は何処へ行く?」

「ここから近い場所を順に漁ってくって感じでいいんじゃない? でもここの廃村なーんか変だから、気を引き締めて行かないとね」

「―――声に覇気がないんだが」

「あるある。めっちゃある。行きましょ、ほら早く。私が萎えない内に」


 

 

 

 

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[気になる点] この時の水分補給が鍵になったりして……流石に無いっすかね [一言] 響、響……ひびき……およ?
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